第2話 過去の出来事。セシリアの今。
「そ、そうだったのか……。随分と詳しく話を聞いてくるなーとは思っていたけど、まさかそんなだったとは……」
セシリアの言葉を聞き、驚きながらそう返した所で、ふと気づくラディウス。
「って、もしかして王立魔導研究所から招待状が届いたのって……」
「ああうん、お父さんが先行して報告していた内容の一部を、研究所の所長さんが見たらしくて、それで興味を持ったっぽいね」
「やっぱりそんな感じか……。いきなり届いたから不思議に思っていたんだよ」
ラディウスが、招待状が届いた時の事――時を遡ってきた事もあり、記憶的にはかなり昔だったりするのだが――を思い出しながらそう返す。
「だろうねぇ……。まあその辺の話は、所長さんから聞いていたから、ラディが研究所に行かずにこんな所にいるのに驚いたけど。てっきり、研究所に行ったと思っていたし」
というセシリアの言葉に、ラディウスは実際には一度行ったけどな……と思いつつ、今まで何度も話してきた『グランベイルに来た理由』を語る。
「まあ、俺も行こうと思ったんだが……やっぱり、研究所とかそういうのは向いてないなと思ってな。かと言って家に戻るのもなんだかな……と考えて、王都で出会った商人の話に出てきたグランベイルへ行ってみようと思ったんだよ」
「え? それだけの理由で来たの?」
「そうだ。ま、行き先なんて特に決めていなかったんだし、そんなもんだ」
「それで偶然、私と出会すとか色んな意味で運命……じゃ、じゃなくて、奇妙な縁だね」
運命と言った直後に慌てて言い直すセシリア。
――まあ、運命ってほどのものじゃないしな。
それにしても、俺も最初は聖女セシリアと、俺の知っているセシリアは別人だと思っていたからな……。まさか同一人物だとは想定外というか……たしかに、奇妙な縁だ。
ラディウスはそう思いながら「ああ、たしかに奇妙な縁だな」と、返す。
何故かうつむいたまま無言になったセシリアに対しラディウスは問いかける。
「あー、ところで……セシリアのお父さんが諜報員だったのはわかったが……だとしたら、セシリアもそうなのか?」
だが、すぐに「いや、お父さんの姿を見ていないから無関係か……」と、自分で自分の問いへの否定を呟いた。
それに対し、セシリアが更に否定する。
「ううん、私も今は諜報員だよ。この町には元々その目的で来たんだし」
「へ、へぇ。聖女なのに諜報員なのか……。……ん? 今は?」
「――襲撃者に殺されたお父さんの跡を継いだ感じかな。……まあ、お父さんが諜報員だって知ったのは、お父さんが死ぬ間際に私に託した手紙を、王城に届けた時だけど。ちなみに襲撃者に奪われたのがあの写しだったんだ」
セシリアは少し悲しげな声で、ラディウスの疑問にそんな風に返す。
「そ、そうだったのか……。それはまたなんとも……」
ラディウスは言葉を紡ぎながら、再び過去の自分の行いが、ひとりの人間を死なせてしまったと考えた。
だから、それ以上どう言葉を続ければいいのかわからず、口を噤んでしまう。続く言葉が出て来ない。
そして、セシリアの方もまた、ラディウスの無言に対してどうすればいいのかわからなかった。
両者が異なる想いによる沈黙を抱えたまま地下遺跡を進んでいく。
すると「あ、来たっすよ!」という声が、沈黙を破って聞こえてくる。
見ると、先に行ったルティカとシスターが立っていた。
「お部屋の方は、無事確保しました!」
シスターがそんな風にラディウスたちに告げる。
ラディウスはその声を聞き、心の中で安堵しながらも思う。
――こういう話を聞かされた時に、良い感じの言葉を返せればいいんだがな……
こればかりは、何十年経っても無理だな……。いや、そもそもの原因は――
と――
次回は日曜日です……!
こちらの世界の話は、もう少しで平穏になる……予定です。
しかし……これ、まだ作中ではグランベイルの町に到着した翌々日なんですよね、何気に。




