第1話 過去と真相。セシリアの父親。
足早に黙々と遺跡を進むラディウス。
――こういう時は俺から何か話を振った方がいいんだろうか? いや……具合の悪いセシリアに話しかけるのはまずいのではないだろうか?
実の所、そんな事を堂々巡り状態で考えていたせいで、無言になっていたラディウスだったが、いつまでも無言というのもさすがに……と思い、意を決して口を開く。
「あ、そういえば――」
「そ、そういえば――」
ラディウスとセシリアの声が重なった。
どうやらセシリアの方も、沈黙に耐えられなくなって口を開いたようだ。
「おっと、そっちから先でいいぞ」
ラディウスがそう促すと、セシリアは顔を赤くしながら、
「え? あ、いや、わ、私の方は別に大した事じゃないし!」
なんて事を言って首を左右に振った。
「いや、俺の方はむしろ後の方がいい」
「そ、そう? えーっと……そ、それじゃ……ラディはどうしてここに?」
少しだけ迷った後、疑問の言葉を紡ぐセシリア。
「ん? ああ……セシリアに今日の午後に来いと言われて訪れてみたら、残っていたシスターに、遺跡に昨日行ったまま帰ってきていないと言われてな。これは遺跡でなにかあったんじゃないかと思って様子を見に来たんだ」
「あ……そういえばそう言ったね……。それでここまで乗り込んで来て、伯爵まで倒すとか、規格外すぎない? ああでも、昔からそうだったかも。だからこそ、あんな写本が――」
ラディウスの話を聞いたセシリアの言葉が、尻すぼみになって消えた。
「あんな写本……? それって、もしかして書庫に置いてあった俺の雑記帳の写しの事か?」
なんとなくそんな予感がしたラディウスの問いに対し、
「うん、そう。まさかあれがここにあるとは思わなかった」
と、セシリアが頷き答える。
「たしかにな。そして、それこそ俺がちょうど聞こうとした事だ」
「あ、そうなの?」
「ああ。誰が写したんだか知らないが、まさかあんな物がここにあるとは思わなかったからな。最初見た時はさすがに驚いたな、あれ」
「でしょうね。私も驚いたわ」
「そう、それだ。セシリアもあれを見て驚いていたって話を聞いたから、何か知っているかもしれないと思ってな」
「……あー、なるほどねぇ。私が驚いたのは少し違う理由だけど……でも、ラディの疑問には答えられるよ。あれは……私のお父さんが写した物なんだ」
「へ?」
セシリアの言葉を聞き、ラディウスが素っ頓狂な声を出す。
「え? なんでセシリアの親父さんが……? ってもしかして、あれをガジェット――魔導関連の研究機関とかに売るつもりだったとかか?」
ラディウスはそう口にしながら考える。
――セシリアの親父さんは商人だったし、あれなら売れると思ったんだろうか?
そして、それを伯爵が手に入れた?
だが、そのラディウスの考えは事実とは全く違かった。
なぜなら、セシリアが首を横に振ってそれを否定したから。
「――んー、近いけどちょっと違う」
「というと?」
セシリアの言葉に首を傾げるラディウス。
「実は……私のお父さんは王国の諜報員だったんだ。あの行商人の姿はそれを隠すための物――カムフラージュでしかなかったんだ。……そして、ラディの雑記帳に書かれていた魔法に関するあれこれは、常軌を逸していた。……だから、お父さんは諜報部のお偉いさんに、内容を報告するつもりだった」
セシリアが目を伏せながら、一気にそんな事を告げた。
今週~来週前半は予定が詰まっており、執筆時間があまり取れません……
そのため、次回の更新は金曜日を予定しています……
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