第3話 封魂術の不思議。目覚めと謎の名前。
「ん……? あれ? ここ……は?」
セシリアが周囲を見回しながらそう言った所で、ラディウスに気づく。
「え? ラディ? どうしてこんな所に? それにここは……あの遺跡?」
同化していた時の記憶がないのか、そんな感じで困惑しきりのセシリアに対し、ラディウスとシスターは、この遺跡と伯爵邸であった出来事について語る。
それを聞き終えたセシリアは、しばらく考え込んだ後、
「……そう言われてみると……なんだか、真っ白い空間で誰かと話をしたような気が……」
と、そんな事を言った。
「それはつまり……同化相手――もしかして、封魂術によってガジェットに封じ込められていた魂と会話をした……と?」
「うーん……そうなるの……かな?」
「その魂と思われる存在は、自身の名前とかは言っていなかったのか?」
「あー、たしか聞いた気がする……。んー、えーっと……リリ……ぅぅっ!?」
ラディウスの問いかけに答えている最中、額を手で抑えて呻くセシリア。
「ど、どうしました!?」
ラディウスよりも先に、シスターが慌てた様子で問いかける。
セシリアは首を左右に振った後、
「だ、大丈夫。ちょっと目眩がしただけだから……」
そんな風にシスターに返事をして笑みを浮かべる。
だが、その笑みには疲労の色が見えた。
その様子にラディウスは心配しつつ、ふと直前に発した名前について考える。
――リリ……。エクリプス……いや、魔人化した古代の人たちの名称とは大分違う感じだ。
というか……リリって、まさか……あっちの……? いや、だとしたら何故こちらに……?
そこまで思考を巡らせた所で、
「そ、そうでしたか……。色々あって身体――あるいは、魂が疲弊しているのでしょう」
というシスターの言葉を耳にして、ラディウスは、今はセシリアの休養を優先すべきだと思い、
「……おそらくその両方だろう。だが、ここでは休まるものも休まらない。上――屋敷まで運ぶとしよう」
と、シスターの言葉に続く形でそう言った。
そして、小声で腕力増強魔法を発動し、セシリアを抱え上げる。
「え? わっ!? ふぇっ!?」
抱え上げられたセシリアの顔が真っ赤に染まる。
セシリアはそのまま黙り込んでしまった為、顔が赤いのが驚いたからなのか、恥ずかしいからなのかは良くわからないが、お姫様抱っこ状態であるのが原因なのは間違いない。
「屋敷にセシリアを休ませられそうな部屋があるといいんだが……」
「でしたら、私が先に屋敷の方へ行き、部屋がないか聞いてみましょう!」
そうラディウスに告げてきたシスターに対し、
「ああ、それは助かる。既に使用人たちには諸々の話はしてあるらしいから、普通に話しかけても大丈夫なはずだ」
と、答えるラディウス。
そして、ルティカの方を見て、言葉を紡ぐ。
「――ルティカもシスターと一緒に先に行ってくれないか? さすがに魔物が出現するとは思えないが……念の為だ」
ラディウス自身、遺跡内で一度も魔物と遭遇しなかった事もあり、魔物が出現するような事はないだろうと思っていた。
なので、どちらかというと構造が少々ややこしい事もあり、シスターが道に迷うと大変なので、ルティカに案内を頼んだという形だ。
「了解っす! ――あ、道の方は大丈夫っすか?」
というルティカの問いかけに、ラディウスは頷いて答える。
「大丈夫だ。さすがにもう覚えた」
「なら、安心っすね!」
笑顔でそう返事をしたルティカが、シスターの方を見る。
そして、互いに頷き合うと、そのまま一緒に全力で走り出した。
――別にそこまで全力で走らなくてもいいんだが……まあ、いいか。
そんな事を思いながら、その場に残っているふたりの冒険者へと顔を向け、
「一旦、セシリアを上に連れていったらまた戻ってくる。それまで見張りを頼む」
と、告げるラディウス。
「わかった。こっちは任せておけ」
「しっかり見張っておくよー」
ふたりに見送られる形で、ラディウスもセシリアを抱えたまま屋敷へと向かって歩き出した――
今回は、想定よりも進展しない回でした……




