第1話 封魂術の力。ガジェットの完成。
「……よし、こんな感じか」
ラディウスはそう呟きながら、眼前の完成したばかりのメダリオン型のガジェットを見る。
――理論上、封魂術を組み込んだガジェットが近くにあれば、これで分離出来るはずだ。
で、そのガジェットだが……おそらくヴィンスレイドは体内に埋め込んでいるだろう。
まあ……これは、マリスディテクター・改を更に改造して、あのガジェットが出す特有の魔力の波を捉えるオリジナルの魔法とガジェットを作れば判別出来るな。
妖姫から教わったFCSW化の術式を利用して、FCSWを逆探知するような感じで感知魔法の術式を構成し、マリスディテクターの術式と連結すればいけるはずだ。
もし、反応しなければ探す必要があるが……ま、その時はその時だな。
……それにしても、あの妖姫はどうしてここまで詳しいのだろうか? あの時代の博士か何かだったのだろうか?
姫という名称がついているくらいだから、古代文明時代の統治者側の人間であった可能性も考えられるが……
そんな事を考えながら、マリスディテクター・改をもとに、オリジナルの魔法の術式を構築していくラディウス。
そして、ちょうど完成した所でルティカが戻ってきた。
「おつかれさまっす! そっちの進捗はどんな感じっすか?」
「ん? ああ、ちょうど全て完成した所だ」
「うえぇっ!? か、完成っすか!? こ、こんな短時間で完成させるとか凄いっすね!?」
まさか完成しているとは思っていなかったルティカは、ラディウスの完成したという発言に対し、驚きの声を上げた。
「んー、何をどう構築すればいいか分かっている状態ならば、単に頭に描いた設計図通りに作るだけだし、そこまで時間はかからないぞ。それで、そっちは?」
「そ、そういうものっすかねぇ……?」
ルティカは、ラディウスの言い分にいまいち納得しきれない面があったが、そこはとりあえず置いておくことにして、屋敷の状況を説明する。
「こっちはとりあえず、屋敷の中にいた人たちは、あの教会の人が話をして落ち着かせたから、問題ないっすよ」
「そうか。なら、そっちはあの人に任せておいて、こっちはこれが上手く機能するかどうか試してみるか。――ああ、牢屋までの案内を頼んでいいか? いまいち道を覚えきれていなくてな」
ラディウスがそう言って椅子から立ち上がると、ルティカはそれに対して、
「了解っす! 案内するっすね!」
と、元気よく答えた。
◆
「――ん? どうした? ……まさか、もう何か手を思いついたのか?」
牢屋を訪れたラディウスとルティカに対し、見張りをしていた冒険者の男性がそんな風に問いかける。
「ああ、一応思いついた……というより作ってみた。もっとも……上手くいくかどうかは試してみないとわからないが、理論上は上手くいくはずだ」
そう答えながら、ガジェットを取り出してみせるラディウス。
「早すぎない!? っていうか、ガジェットを作った!? え!? え!?」
少し離れた場所で牢屋の中の様子を見ていた冒険者の女性が、驚きと困惑の入り混じった声を上げた。
「まあ、その辺の説明は後回しだ。……とりあえず一番安定しているというか、一番引き剥がしやすそうなセシリアで試してみるとしよう」
ラディウスがそう答えると「それならこちらです」とシスターが右手でセシリアのいる牢屋を指し示す。
ラディウスはそちらへと歩み寄り、そこにいたセシリアを見据える。
そして、作ったばかりのメダリオン型のガジェットを構え、
「封魂術サーチ」
と、自身の作ったオリジナル魔法の名前を口にした。
命名が雑と言うべきか率直と言うべきか迷う所ではあるが……魔法の名前は効果には一切影響しないので、ラディウスの想定した通りに魔法の効果が発揮され、セシリアの身体が薄い青色の光に包まれた。
――よし、問題なくありそうだな。
心の中でそう呟き、封魂術の組み込まれているガジェットが問題なく存在している事を認識したラディウスは、メダリオンを構えたまま、ガジェットに戻魄術を発動させるための魔法の名を言い放つ。
「リバースプロトコル!」
次の瞬間、緑と紫、2つの帯状の光が螺旋を描くようにしてメダリオンから放たれ、セシリアの身体の中へと吸い込まれるようにして伸びていく。
それを見ながら、ラディウスは願う。
――理論上は問題ないはずなんだ……。だから、上手くいってくれよ……っ!
魔法の名前は、あくまでも術式の始動キーのようなものなので、なんでも良かったりします。
英語名(の様に聞こえる)名称が多いのは、単に古代文明時代の一般的な言語の1つだったからです。
追記:リバースプロトコルと戻魄術の説明が、分かりづらかったので調整しました。
ちょっとだけわかりやすくなった気がします……