第5話 暗き監獄。遥かなる時の妖姫の思い。
「――封魂術を実用化する際に、魔法による肉体再生を行う都合上、なんらかの影響で再生された肉体にアンデッド化や魔物化などの異常が生じる危険性は示唆されていました」
妖姫の言葉に、ラディウスはルティカと同化しようとしていた、魔物の如き異形の腕や翼を思い出す。
「たしかに、魔物のような腕や翼を見たな。冒険者の女性と同化しようとしていたから、無理矢理引き剥がしてしまったが……」
「直接見たわけではないので、なんとも言い難いですが……おそらくそれは、肉体再生魔法の暴走ですね。先程言いいました愚か者たちの実験や改造によって、魂に傷がついてしまい、自我を失ってしまった者もいましたから……。復元の魔法が正しく制御された状態で発動しなかった為に、その様な異質な同化現象が起きてしまったのでしょう」
ラディウスの言葉を聞いた妖姫はそう言って一度言葉を切る。
そして、数瞬の沈黙の後、沈鬱な暗い声で続きの言葉を紡ぐ。
「……いえ、そこまでいってしまったら、最早同化ではなく融合……ですね。無理矢理引き剥がす事は出来ると思いますが……その場合、封魂術によって込められたガジェットの魔法も崩壊します。完全なる魔物と化してしまうか、あるいは片方、もしくは双方の魂が砕け散ってしまうか……。いずれにせよ、その状態になってしまったら、もう正常な形で引き離す手段はないと思ってよいでしょう」
――それ、あの時は偶然上手くいったからいいが、失敗していたらルティカが魔物になるか、ルティカもまた魂が砕けていたって事か……
そんな事を思い、ちょっとだけ身震いするラディウス。
それと同時に、兵士たちの方はそこまでの状態ではない様子だった事を思い出し、
「なるほど……。逆に、そうなる前なら手はあるという事だな。ちなみにどういう風にすればいいんだ?」
と、問いかけるラディウス。
「そのような問いを投げかけてくるという事は、そういう状態の者がいるということですね?」
ラディウスの問いかけに対し、妖姫が逆にそう問いかける。
「ああ、そういう事だ」
「そういった異常が生じた際に、再度肉体を放棄して魂魄化するという術式があるのです。……もっとも、同じガジェットに組み込む事は出来なかったので、別のガジェットで用意する他なく、他人が実行しなければならないという不完全な物でしたが……」
「それなら、今回のケースでは問題ないな。作るのも実行するのも俺だし」
妖姫の言葉にそう返し、腕を組んで頷くラディウス。
その言葉を聞き、妖姫は随分と自身がありそうな様子だと思う。
無論、妖姫とラディウスの間には扉と壁があるのでラディウスの姿は見えない。
妖姫はラディウスの声から感じ取ったのだ。
「たしかにそうですね。――封魂術の術式については知っていますか?」
「いや、詳しくは……。ああ、いや……待った。暴走しかけていた者のガジェットがあったはずだ」
妖姫からの問いかけにそう返しつつ、ラディウスはストレージにしまっておいた、エクリプスの腕と翼を取り出すと、手袋を着けた。
「マジックストラクチャー・オープン」
ラディウスがそう言い放つと、腕と翼に組み込まれていたガジェットの構成が目の前に出現する。
「これは……半分くらい俺が作った時を遡る術式に似ているな……。残りも、セシリアのを観察した時の物に近いな……。どういう意味を持つのか分からない部分もちらほらあるが……」
構成を見ながら、そんな事を呟くラディウス。
――自信がありそうな様子でしたが、本当に優秀な方のようですね。
この方であれば、封魂術と戻魄術、両方の術式の構成を伝えるだけで、全てを理解してくれそうな気がします。
妖姫はラディウスの呟きを聞きながらそう感じ、
「そして……もしも……この方が、私の想像以上の方であったのなら、あるいは――」
と、ラディウスに聞こえない程の小声で、そんな事を呟く。
そして、妖姫はひとり首を縦に振り、意を決した表情をすると、
「中央に、円形のプレートを3つ縦に繋げたような形状の物がありませんか?」
そんな風に、ラディウスに対して問いかけたのだった――
戻魄術。
なんともな感じの名称ですが、魂魄のうち、『陰』であり、
地上に留まる方の『魄』をガジェットへ戻す術というイメージです。
(要するに封魂の『魂』が陽なので、その対という感じですね)
まあ、他に良い名称が思いつかなかっただけなのですが……!(何)
【追記】
誤字を修正しました。
報告ありがとうございます!