第4話 暗き監獄。遥かなる時の先の希望。
「時を遡って歴史を変えた……ですか? それは一体どうやって……」
怪訝そうな声でラディウスに問いかける妖姫。
「ああ、それは――」
ラディウスは自らが作ったガジェットの説明と、それが発動した時の顛末を妖姫に語る。
ひとしきり語り終えた所で、ラディウスの言葉に納得した妖姫は、
「――なるほど、エル・ガディアのセヴェンス派と呼ばれる学士たちが研究していた魔法式――術式に似ていますね。恐らく死ぬ直前……要するに肉体という器を失った魂を感知したガジェットが、魂を過去に転送する魔法を発動させ、過去の貴方の肉体に同化させたのでしょう」
と、そんな推測を述べた。
――つまり、あの魔法……あのガジェットは完成していて、欠けていたのは『魂』だったという事か……
だがそうすると、カルティナが巻き込まれた理由がよくわからないな……
ラディウスがそれについてのあれこれと思考を巡らせていると、
「……私とは真逆ですね」
そう妖姫がポツリと言葉を発した。
「真逆?」
疑問に思ったラディウスが問うと、妖姫は、
「正確に言うと少し違いますが……私は死したリリティナの身体に、魂が同化している状態なんですよ」
と、そんな風に告げてくる。
「死したリリティナの身体……? 同化する前にリリティナは死んでいるのか?」
「ええ。――ヴィンスレイドがリリティナを攫って行った実験に耐えきれなかったようですね。……だからこそ、そしてそれこそが、幽閉された理由でもありますから」
「えっと……それはどういう意味だ? 差し支えなければその理由を詳しく教えて欲しい」
幽閉されている理由が気になっていたラディウスは、丁度よいと思いそう尋ねてみた。
「――リリティナの身体を持ちながらも、中身は異なる存在。リリティナの親である皇帝は、私をリリティナの姿をした化け物の類だと認識し、ここに閉じ込めたのです。娘の姿をした魔物だと言って」
「なるほど……。まあ、その皇帝の言い分もわからなくはないな。……もっとも、ただ幽閉するだけで、殺さなかった事を考えると、心のどこかでは理解しているのかもしれないな」
「そうなのかもしれませんね。表向きは特殊な奇病を患って隔離されている事になっているようですし」
幽閉されている理由は思ったよりも単純な物であったが、たしかにそうせざるを得ない面もなくはない。
そう考えつつラディウスは思う。
――実際、俺も兵士たちを地下遺跡の牢屋に隔離したしな。
と。
そして、ふと気になった事があり、妖姫に対して言葉を投げかけてみる。
「……ちなみに、同化した魂を分離する事は出来ないのか?」
――もし出来るのであれば、セシリアたちをどうにか出来るんだが……
まあ、さすがに知らないかもしれないし、そもそも方法が確立されていない可能性すらある。
それでも、なにかヒントのひとつでも得られれば……
という、ラディウスのダメ元の淡い期待は、裏切られ……なかった!
「本来の肉体の所有者の魂が肉体に残っていれば、さほど難しくはありませんね」
なんと、妖姫はそんな風に事も無げに言ったのだった。
進展の遅かった遺跡~伯爵邸の話に対して、今回は章の冒頭という事もあり、逆に進展が速い感じにしています。