第13話 湖底探索。出現と作戦。
「どうにか破壊出来ましたわね……。これで、ウンゲウェダ・ドラウグの『こちら側』への出現を封じる事が出来たんですの?」
ふうっと息を整えながらそんな問いの言葉を口にするイザベラ。
するとそれに対してメルメメルアが、「うぅーん……」と唸った後、
「眼で見えた用途を考えると出来たと思うですが……なんとも言い難いのです」
と、自信なさげに言った。
「ま、向こう側に行って待ち構えておくしかないだろうな」
「たしかにそうだな。向こうに現れたら上手くいったってこった」
ラディウスの発言に頷きながらそう返すアルフォンス。
そしてそれに続くようにして、
「となると、ウンゲウェダ・ドラウグが出現したら即向こう側でも湖底に潜る感じ?」
という疑問を口にするセシリア。
「そうなりますわね。現れる所を絞りたいところですけれど、どうもそういう風には出来ていない術式のようですし、変な所に現れない事を願うしかありませんわね」
そんな風にいって肩をすくめるイザベラに、
「……いや、以前に異形に肉体を乗っ取られたセシリアを元に戻した時の術式の中に、FCSW化された術式の送波処理を反転させるっていうのがあるんだが……こいつを『反転させるのではなく受信する』という構造にしてやれば、ある程度特定の場所に呼び寄せる事が出来るかもしれん」
などと顎に手を当てて思考を巡らせながら返すラディウス。
「……え、FCSW?」
イザベラはポカーンとした表情でそう口にしたかと思うと、
「な、なんですのそれ! そんなの知りませんわ! 詳しく教えて貰えるかしら!? というかどうやって狙うんですの!?」
などと勢いよくラディウスに詰め寄った。
「え、FCSWについては後で説明するからおちつけ! とにかく……そのガジェットを複数作って共鳴させる事で、レゾナンス・スタビライザーを用いた仕掛けに似たような現象を発生させる。そして、その現象を発生させる範囲を狭める事で、ある程度狙って呼び寄せられるかもしれないってわけだ」
「なるほどね。でもそれって、それを設置する前にウンゲウェダ・ドラウグが現れちゃったら駄目よね」
イザベラに代わってルーナが、ラディウスにそう返す。
それに対して、
「そうだな。だからそこは速さが必要になる。狙って呼び寄せたい場所に一番近い所にいる誰かに渡してやってもらうしかないだろう。出来れば複数人で」
と答えるラディウス。
「それ『あの基地』の近くでいいんじゃない?」
「たしかにそうだな。特に基地の近く……湖上が出現地点としちゃ最良だ。ま、もし基地の真上とかに現れやがったとしても、それはそれで混乱してくれんだろうから構わねぇが。……制圧時に帝国の連中だけじゃなくて、そっちも倒さないといけねぇ手間が増えっけどな」
「そうなった時はそうなった時だね。ウンゲウェダ・ドラウグなんて何度も倒してるから、そこまで厄介ってわけじゃないし?」
「まあな」
アメリアとアルフォンスがそんな風に言い、
「というわけで、私たちがそれは実行するわ」
とラディウスに対して告げるアメリア。
「じゃあ、とりあえず必要な数のガジェットを作るとするか。イザベラ、ルーナ、一緒に頼む」
「ええ、わかったわ」
ラディウスの言葉にルーナがそう返すと、
「え? ルーナはFCSWが何か把握していますの?」
と言いながら、ちょっと驚きの表情をルーナに向けるイザベラ。
「それはそうよ。その辺の話、私は前に聞いているもの」
「むぐぐ……っ。すぐに戻って説明していただきますわよ! さあ!」
ルーナの当然だと言わんばかりの返答に対し、イザベラはそう口にしつつ、再びラディウスにずずいっと詰め寄る。
その光景を見ながら、
「なんだか、ここだけ聞くと『修羅場』みたいですね」
なんていう事を呟くミリア。
「むむむっ。ならここは私も乱入するのが――ぴぎぃ!」
「なんでそうなるのさ。ちょっと落ち着こうか……。時々おかしな事するよね……」
ラディウスたちところに何故か踏み込もうとするメルメメルアと、その尻尾をぎゅっと握って静止するセシリア。
そしてその後方で、
「……メルとセシリア、立ち位置が逆すぎない?」
「まああれだ。愛とは色々狂わせるんだろう。……多分」
「適当すぎ。でも、それでなんとなくわかるのが困る……」
と、そんな事をアメリアとアルフォンスも呟くように口にしていた。
◆
――湖底から聖都へと引き返してきたラディウスはイザベラに詳しい説明をし、そのままガジェットの制作に取り掛かる。
そしてわずか3日ほどでイザベラ、ルーナと共に必要な数のガジェット――ウンゲウェダ・ドラウグを誘引する術式を込めたガジェット――を完成させた。
「というわけで、ここにあるのを全部持っていてくれ」
「思ったよりもあんな……。ま、どうにかすっけどよ」
ラディウスから完成の報せを聞いてやってきたアルフォンスが、並んでいるガジェットを見ながらそんな風に言う。
「ちなみに、そっちの準備はどうなんですの?」
「ああ、いつウンゲウェダ・ドラウグが出やがってもいいようになってるぜ。今の所、出現の兆候はねぇがな」
イザベラの問いかけに対し、そう腕を組みながら答えるアルフォンス。
それに対し、
「……あっち側の『時間軸』が、まだこっち側の――あのデカい球体を破壊し終えた後の『時間軸』になっていないのかもな」
と、ラディウスが呟く。
「あいかわらず、わけのわからない仕組みですわね……」
「ま、言っておいてなんだが、俺も良くわからないんだけどな。あくまでそう考えられるってだけの話だ」
やれやれと言わんばかりの表情のイザベラに対し、ラディウスが肩をすくめてみせながら、そう答える。
そして、
「まあでも、実際わけのわからない話ではあるわよねぇ……その辺り」
「ですね……」
ルーナとミリアもそんな事を呟くのだった。
平時の更新間隔に戻ると言いつつ、即2週間半も間が空きまして申し訳ありません……
いかんともしがたい状況に陥っていました……
完全に平時の更新間隔に戻れるとは言い切れませんが、次はこのくらい空くような事はないと思います……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は……7月27日(日)か、7月31日(木)のどちらかを予定しています……
(なるべく、7月27日(日)に更新出来るようにはしたいと思っています)




