第5話 湖底探索。古き籠手亭にて。
「とまあそういうわけで、ミリア――デュオロードの部下が来るのを待ってからメルティーナ法国へ移動して、そこから湖に潜る感じになった」
古き籠手亭で夕飯を食べながら、アメリアとルティカにそう伝えるラディウス。
「なるほどっす。それなら、ボクかアメリアのどっちかも一緒に同行した方がいいっすか?」
「この間と違って、今回はさすがに数日がかりになると思うから、その間ずっとこの店の人員が減ったままになるから駄目じゃない?」
ルティカの問いかけにセシリアがそう返す。
「そうねぇ……さすがに残った方の負担が増しすぎる気がするわ。臨時に誰かを雇うにしても、すぐにとはいかないだろうし……」
「まあ……たしかにひとりだと少しキツいっすね」
ルーナに続くように、ルティカがそう口にする。
「それはそうなんだけど……でも、誰かが伝達要員として必要だよね?」
「それはまあ、たしかにそうなのです」
今度はアメリアの問いかけにメルメメルアが返事をする。
「だとしたら、私かルティカが少し無理するしかないと思う」
「そうっすね。まあ、それなりに鍛えているっすから、少しくらい無理しても全然平気っすよ」
アメリアとルティカがそんな風に言うと、
「店の方に忙殺されて、他が疎かになると、それはそれで問題がある気がしますわ」
と、イザベラ。
「そうね……。ふたりはウチのお店以外にもやる事があるものね。いっそ、私が残った方が良いのかしら?」
「いいえ、ルーナがここに残るというのは『なし』ですわね。それをすると、あのミリアが残ってしまいそうですわ」
ルーナの発言に対してイザベラがそう言って肩をすくめてみせる。
「大いにありえますね。ここは、私がこの店もお手伝いいたしましょう」
イザベラに同意しつつ、そんな風に言うヨナ。
それに対してイザベラは、腕を組んで思考を巡らせながら、
「ヨナはラディウスの店の店番があるでしょうに……。さすがにふたつ掛け持ちは無理がありますわよ。それにそんなに動いたら、幻軍がここに居座って何かをしようとしている……と、そう取られかねませんわ。――危険ですわよ」
と言った。
この『危険ですわよ』には、イザベラとヨナにしか分からない意味がある。
それは、『下手に目立ってラディウスの店にいるカチュアが目をつけられると厄介』という意味だ。
「……たしかにイザベラ様の言う通りですね。うーん……困りましたね……」
イザベラの言葉の意味を理解したヨナがそう返すと、それに続くようにして、
「私も『聖女』だから難しいしなぁ……」
と、セシリア。
「そうね。聖女がここで働いていたら色々とまずいわね」
「俺の店の方は、どういうわけか大丈夫だが……」
ルーナに続いてそうラディウスが言うと、今度はカチュアが、
「……セシリアさんが店番なのは不安がありますです」
と、そんな風にストレートに言った。
「もうちょっとオブラートに包んで!? いやたしかに私自身まだひとりじゃ厳しいけどっ!」
「あっ! ごめんなさいです。つい本音が出てしまいましたです」
「それ追撃だからっ!」
セシリアとカチュアのやりとりに対し、ラディウスがやれやれと思っていると、
「では、私が残りましょうか? 湖の探索では、あまりお役に立てないような気がしますし」
なんて事をリリティナが言った。
すると、
「まさかの皇女様がウェイトレスっすか!?」
などと、何故かちょっと興奮気味に驚くルティカ。
「え、ええっと……。だ、大丈夫なんですか?」
という心配顔のアメリアの問いかけに、
「ご心配にはおよびません。冒険者ギルドやラディウス様のお店、それから近くの雑貨屋さんで似たような事を何度かやっていますし」
と、そんな風に答える。
「ああ、たしかに妙に客が多い日もばっちり対応してくれたな。というか、その『近くの雑貨屋さん』っていうのは、もしかしてシェラさんのところ……か?」
「はい、そうです。カルティナさんの代わりに何度か……というより、今日もやってきました」
ラディウスの問いかけに対し、サラッとそう答えるリリティナ。
それを聞いたルティカとアメリアが、
「思ったよりもアグレッシブっすね!?」
「あ、ある意味、さすがというかなんというか……」
と、驚きの表情で口にした。
「まあ、それならここはリリティナに任せてもいいかもしれないわね」
ルーナがそう言いながらラディウスの方を見る。
それに対してラディウスは、
「そうだな……。こちら側の世界なら、そうそう目立つものでもないだろうし、問題ないだろう」
と、返した。
そしてさらに、そこにヨナが続く。
「何かあれば、私がすぐに対処いたしますのでご心配なく」
「なら、あとはこっちっすけど……ボクは皇女様のサポートをする方を選ぶっす! アメリア、いいっすよね!?」
などと、ちょっと鼻息荒く宣言するルティカ。
アメリアはそれに少し気圧されながら、
「う、うん。ま、まあ、そんなにやりたいなら別にいいけど……」
と答えた。
「とりあえず決まったかな?」
セシリアはそう口にした後、ラディウスの方を見て問いかける。
「ちなみに追加のガジェットって出来たの?」
すると、そのセシリアの問いに対し、
「ええ、バッチリですわよ」
と、ラディウスではなくイザベラが代わりに答えた。
「なんでイザベラが答えるのさ……」
「時間短縮のために、イザベラとメルにも手伝って貰ったから、まあ……」
セシリアの呆れ気味の言葉に、ラディウスがやれやれと言わんばかりの表情でそう答える。
そしてイザベラがそれに続き、
「そういう事ですわ。もっとも、今回は改良する余地がなかったのが残念ですけれど」
なんて事を言った。
「残念ってなんだ、残念って……。まあ、とにかく10個以上作ったから問題はないと思うぞ」
「そうですわね。もしそれでも不足するようでしたら、また作ればいいだけですわ」
「はいです。3人で分担すればすぐなのです」
ラディウスに対し、イザベラとメルメメルアがそんな風に返す。
「ま、そうだな。もっとも、すぐにそんな大量に必要になるような事態にはならないだろうが」
ラディウスは頷きながらそう口にすると、ストレージからベルト型のガジェット――息継ぎせずに水中を歩けるようにする魔法を組み込んだもの――を取り出し、
「とりあえずアメリアにはもう渡しておいていいな」
と言いつつ、アメリアにそれを渡す。
「これが例のガジェット……。実は結構興味があったから、明日がちょっと楽しみだよ」
アメリアがガジェットを眺めながら、そんな風に呟くように言った。
それに対してカチュアが、
「なかなか楽しいのですです」
と、文字通り楽しそうに言う。
「で、あとはミリアだが……」
ラディウスがそう呟いた直後、
「ルーナ師匠ーっ! じゃなかった! ルーナ先生ーっ! 到着しましたよー!」
という声と共にミリアがやってくる。
そんなミリアの姿を見てラディウスとセシリアは、
「ちょうどいい所に来たな……」
「まさに見計らったかのようなタイミングだね……」
と呟いた。
思った以上に長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月10日(木)の想定です!




