第2話 湖底探索。技術力の差。
「ま、まあ、行けばわかりますよ、きっと」
「そ、そうですわね。名前はわからないですけれど、容姿は覚えているので大丈夫ですわ」
ヨナとイザベラがそんな事を言い、他の面々もそれに納得する。
というわけで……名前が分からないまま、水鏡の楼閣の簡易工房で出会ったふたりと合流するべく宿酒場へと向かうラディウスたち。
と、その途中で、
「あれは……」
と言って、湖の方を見るセシリア。
その視線の先には、湖上を行く軍艦の姿があった。
「金属で覆われた船……? 大きいし、凄く重そうなのに良く沈まないね?」
セシリアがそんな疑問を口にする。
向こうの世界では、まだまだ木造の船が主流であるが故の疑問であるとも言える。
まあ……木で作られていようが、金属で作られていようが、中が空洞であれば沈みはしないのだが。
「こちらの世界では、あのような金属で作られた船が主流なのです。ガジェットを動力源としている点は、向こうの世界と同じではあるですが、ガジェットが生み出す力――出力が段違いであり、それによって強い浮力を発生させ、沈まぬようにしているのです」
そんな風に説明するメルメメルア。
すると、それに続くようにしてリリティナが、
「あと、金属で覆うわけではなく、最初から全て金属で作る事で、水の侵入を防ぎにくくしているというのもありますね。接合部分を極限まで少なくすれば、水が中に入り込む事がありません。その状態で内側に空気の層が生まれれば――空洞が出来れば、自然と浮く力が発生しますしね。まあ……そのあたりの詳細はと聞かれると、詳しい原理までは知らないので、説明するのが難しいのですが……」
と、補足するように言って、頬を人差し指で掻いた。
「へぇ……。あれって金属で覆っているわけじゃなくて、金属だけで作られているんだ……。とりあえず、造船技術が向こうよりも圧倒的に高いってのは理解したよ」
そうセシリアが口にすると、ルーナが、
「それはまあ、船に限った事じゃないわね。向こうの世界では、鉄道もまだ作られ始めたばかりだし、車なんて存在すらないわ」
と言って肩をすくめてみせる。
「たしかにね。こちらの世界の技術で作られた兵器なんかを向こうの世界に持ち込めば、圧倒的かつ一方的に蹂躙出来るだろうし」
「はい。だからこそ、ベルドフレイムお兄様やアルベリヒの画策している事を止めなければならないのです。デュオロード卿が言う通り、我々の技術で御せなかった場合、この世界全体が蹂躙されてしまいます。そして、古の技術があれば、そのまま向こうの世界へと侵攻する事も容易でしょうから」
セシリアの返答に対し、リリティナがそんな風に続く。
「まあ、ゼグナム解放戦線が国の中枢に関わっているメルティーナ法国だけは、少し技術力がこちら側に近いですし? そう簡単にはいかないと思いますけれどね」
イザベラがそう口にすると、
「あー、言われてみるとたしかにメルたちがディグロム洞街へ行く時に使った船なんかは、ウンゲウェダ・ドラウグに襲われたのにも関わらず、ほとんど壊れた所がなかったかも。まあ、素早く迎撃出来たからってのもあるのかもしれないけど」
と、そんな風に返すセシリア。
「実際に触ったからわかるが、あれは外見と中身が別物だ。見た目はたしかに、向こうの世界では一般的な木造の船を少し金属で補強したかのような感じだが、内側は全体が金属だった。おそらく他の国の人間が見た時に驚かれないようにしているのと、技術が盗み取られないように……というような意図があるんだろう」
「そうですね。あの国では船のみならず、あちこちで高い技術が使われていますが、どれもそのように見えぬよう偽装されていますね」
ラディウスの発言に対し、ヨナが頷きながらそう言うと、
「まあ、だからこそあの国は厄介なんですのよね。ビブリオ・マギアスにとって」
なんて事を呟くように言って肩をすくめてみせるイザベラ。
「だからこそ、ビブリオ・マギアスはセヴェンカームを狙っている――というか、掌握しようとしているのかもしれませんね。セヴェンカームには古の時代の技術が眠っているのは確実ですし」
「たしかに、デュオロードの話が前提にはなるが、あの国は古の時代の技術によって、かつてのセヴェンカームが『復元』されたもののようだからな。詳しく調べれば、当時の技術で作られた物や、当時の技術が記録された物などが出てきても、なんら不思議ではないな」
ヨナに対し、今度はラディウスが頷きながらそんな風に返事をする。
「そうね。そして、そうなってくるとセヴェンカームの状況も気になるわね……」
「たしかにね。一体どうなっているんだろう……」
ルーナとセシリアがそう口にすると、それに対してイザベラが、
「まあ、そっちはとりあえずメルティーナ法国……ゼグナム解放戦線に対処して貰うより他ありませんわね。クレリテたちが来たら詳しい事も分かるでしょうし、それまで私たちはウンゲウェダ・ドラウグをどうにかしてこちら側へ出現させる事を考えるとしますわよ」
と、そんな風に返す。
「そうだな。そしてその為にも――」
「――名称不明のあのふたりと合流しないと……だね」
ラディウスの言葉を引き継ぐようにそう言葉を紡ぐセシリア。
それに対してラディウスが「ああ」と言って頷く。
「あっ! あれこれ話をしている間に、その宿酒場が見えてきたのです!」
「たしかに、あそこで間違いないわね。……壁にデカデカと名前が記されているし」
メルメメルアに続くようにしてそんな風に言うルーナ。
ルーナの言う通り『蒼き篭手亭』と大きく彫られた壁が、ラディウスたちの視界に入っており、更にその横には『青い篭手』が描かれた看板まであった。
「あとは、簡単にあのふたりを見つけられるか……ですね」
「そうですね……」
リリティナとヨナがそう不安げに呟く。
――しかし、ふたりのその不安は杞憂であった。
なぜなら、宿酒場に入ってすぐに、ふたりの方からラディウスたちに声をかけてきたからだ。
色々と調整していたら、更新がいつもよりも遅くなってしまいました……
そして、調整してもなお、今回は想定以上に会話が長くなってしまっていて、ほとんど進んでいませんね……
次回はもうちょっと進めるようにしたい所です。
(あと、更新も時間通りにしたい所です……)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月27日(木)の想定です。
ただ、その次の更新は、もしかしたら予定通りではなくなるかもしれません……
(まだ未定なので、何とも言えませんが……)
※追記
調整した事で前後の繋がりがおかしくなっていた箇所を修正しました。




