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第19話 古の災厄。名前と湖と。

「――最後にこのゾルト雷盤をここにセットすれば、本来のものから改良した事で増加した魔力消耗を抑制する事が可能になるわ」

「抑制どころか、元のものよりも消耗が抑えられる上に、自動回復速度も上がっているんですがっ!?」

 ルーナの説明に、若い女性がゴーグルでしっかりと聖剣を見回しながら、そんな事を言う。

 

「ゾルト雷盤そのものにも効率化の為の改良が施されていますね」

「ああ、そのようだな」

 デュオロードは壮年の男性に対して頷きながらそう返し、そして思う。

 

 ――よもや、当時のエル・ガディアで開発中だった最新版のプロトタイプをここまで改良するとは想定外であった……

 

 と。

 

 それに対してルーナは、頬を人差し指で掻きながら、

「ま、まあついでだし……ね?」

 なんて返した。

 もっとも、心の中では『聞いてないんだけど!?』と少し焦っていたりするが。

 

 そんなやり取りを見ていたラディウスはというと……

 

 ――あのゴーグルには魔力スキャナーが組み込まれているみたいだな。

 というかイザベラの奴、ゾルト雷盤も効率化してたのか……

 って、まあそれはいいんだが……どうしてそれについて何も言わなかったのか……

 

 なんて事を思いながらイザベラを見る。

 するとイザベラはそれに気づいたのか、腕を組みながらドヤ顔をしてみせた。

 

 その直後、ドヤ顔に気づいたヨナが、笑顔でルーナたちの方を向いたまま、そっとつま先を勢いよく踏みつける。「改良したのなら、ちゃんと伝えましょう」と、小声でいいながら。

 

 ラディウスはそれを見ながらやれやれだと心の中で呟きつつ、ルーナの方へと顔を向け直す。

 するとルーナは聖剣の最終チェックをして、問題がないかを確認していた。

 

「――良く見ると、BARCSが油分と水分、それから硬いものとの接触衝撃で劣化しているわね。まあ、クリアランスすればいいだけだけど……」

 ルーナがそんな風に言うと、若い女性がゴーグルを頭の上に戻しながら、

「BARCSというのは、刃こぼれなどを自動で修復して、切れ味を維持する機能ですよね? それが油分、水分、接触衝撃で劣化……ですか?」

 と首を傾げた。

 

「まあ……魔物とか人間を斬りすぎって所ね」

「魔物は生物構造上、油分と水分はそこまでではない。主に人間を大量に斬ったからであろうな。その者は帝国軍内で『剣の魔女』と呼ばれているからな」

 ルーナが少し濁して言った直後に、サラッとセシリアの方を見ながら真実を告げるデュオロード。

 

「ひえっ!? あ、あの剣の魔女!? 1000の兵を薙ぎ払ったという!?」

 驚きと恐怖の入り混じった表情でそんな事を口にしつつ、恐る恐るセシリアの方を見る若い女性。

 それに気付いたセシリアが、

「い、いや、さすがにそれは誇張されすぎというか、尾ひれがつきまくりというか……。まあ……聖木の館の一件でかなり斬ったのはたしかだけど……」

 と、困惑しながら返事をする。

 

「向こうでは剣の聖女、こっちでは剣の魔女。まさに聖と魔で正反対ですわね」

「まあ、帝国軍からみたらそうなるでしょうね。実際、聖木の館から送られてきた負傷兵が、悪魔と遭遇したと恐怖しながら語っていましたし」

 イザベラとヨナが小声でそんな事を話す。

 

「あ、あー……例の一件ですか。ニュースでは『テロリストがサナトリウムを襲撃した』としか伝えていなかったので、あまり詳しくは把握していませんが……アルベリヒが、協力を拒んだ私たち古代人や獣人を捕らえて非道な人体実験をしていたとか……」

 若い女性がそんな風に言うと、

「私たち古代人……です? あなたも封魂術かなにかで古の時代から来たです?」

 メルメメルアが首を傾げながら、もっともな疑問を投げかける。

 

「はい。まさにその封魂術で、1年前に目覚めたばかりです」

「なるほど、そうだったですか。……という事は、あなたもそうなのです?」

 メルメメルアはそう言いながら、今度は壮年の男性の方を向いた。

 壮年の男性は、それに頷きつつ返事をする。

「ええ。私が目覚めたのはもう15年も前の事ですけれどね」

 

「15年前となると、私がまだここで暮らしていた頃にはもうすでに?」

 今度はリリティナがそう問いかける。

 すると、それに対して壮年の男性が、

「いえ、私がここに来たのは最近です。それまではゼム=ドゥア湖の湖畔にある、エストナという所に住んでいました。アルベリヒにここに来るように半ば強要された形です」

 と答えた。

 

「なるほど……。そうだったのですか……」

 リリティナがそう返した所で、セシリアが顎に手を当てながら、

「エストナってどういう所なの?」

 という、ある意味もっともな疑問を口にする。

 

「シルスレットと旧ゼグナム領アレスベイン、そのふたつの都市と帝都との中継地点のような位置づけの街ですね。特に見どころのある街ではありませんが、晴れた日には湖の底に沈んだかつての実験施設が、湖畔の小高い丘から見えたりしますね」

「へぇ、それはちょっと見てみたいかも」

 壮年の男性の説明を聞いたセシリアが興味を抱いた所で、

「ちなみに、そのアレスベインの少し手前に、ウォルド峡谷の入口がありますわ。要するに最終的にレヴァルタへと至る道の始まりですわね」

 と、補足するように言うイザベラ。

 

「あ、なるほど。そう考えると結構な要衝だね」

「ええ、そうですわね。まあ、鉄道網が整備されてからは、各方面への乗り換え駅がある街として、短時間滞在するだけの場所になりつつありますけれど」

 イザベラが、セシリアに対して頷きながらそう答える。

 

 そんなやり取りを聞いていたラディウスが、

「――なるほど、交通の要衝にして湖底遺跡までの距離が近い街……か。これからウンゲェダ・ドラウグをこちら側に出現させて、湖底遺跡へと向かう予定だが……まずはその街へ行っておいた方が色々と都合がよさそうだな」

 と、そんな風に呟くように言った。

 すると、リリティナがそれに対して頷いて「そうですね」と同意する。

 しかし同時に、

「ですが、エストナへ向かうとなると鉄道を使うか、車で街道を進むかになりますが、前者は改札で、後者はゲートで、それぞれ実行されるコードチェックに引っかかってしまいそうです。徒歩で間道を抜けていくという手もありますが、今の状況ですと、監視が配置されているのは確実でしょうし……」

 と、問題点について述べた。


 だが、それはすぐに解決する事となる。

「ならば、こちらで命令書付きでエストナ方面へ向かう特急を確保するとしよう。こうすれば、改札――というか、コードチェックを通過する必要がなくなるのでな」

 デュオロードはそんな風に言うと、壮年の男性と若い女性の方を見て、

「――お前たちふたりは、案内役兼連絡役兼アルベリヒたちの動きを監視する役として同行せよ」

 と告げた。

というわけで(?)次回からは湖底遺跡に向かって動き出します!


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、3月20日(木)の想定です!

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