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第18話 古の災厄。功績を盛る者たち。

「なるほど……。たしかにこれを簡易とは呼べないな……」

 ラディウスは水鏡の楼閣にある簡易工房へと足を踏み入れるなり、そんな風に言った。

 そしてそれに続くようにして、

「まったくなのですっ! 一般的な工房と同じくらいあるのですっ!」

「そうですね。レヴァルタの屋敷にあった本当の簡易工房は、もっと小規模でしたし」

「ですわねぇ……。作業台と工具置きがあった程度でしたわねぇ……。ある意味懐かしいですわ」

 と、そんな事を口にするメルメメルア、ヨナ、イザベラの3人。

 

「デュオロード卿、ご連絡いただいた素材を加工したものはあちらに置いてあります」

 宮廷魔工士と思しき壮年の男性がそんな風に告げてくる。

 そして、その男性が指し示した先――特殊加工用の器具や細かい所を確認する為の顕微鏡に似た器具などが備え付けられた作業台に、たしかに加工されたものが置かれていた。

 

「他に器具などで必要なものはありますでしょうか?」

 壮年の男性の横にいたラディウスたちと大して変わらなさそうな若い女性が、付けているゴーグルを上にずらしながらそう問いかけてくる。

 それに対してデュオロードは、

「と言っているが、なにかあるか?」

 そう言いながらルーナの方へと顔を向ける。

 

「いいえ、特に必要ないわ」

 デュオロードにそう返しつつ、男性と女性の方へも顔を向け、

「わざわざありがとう」

 と、そうお礼を述べるルーナ。

 

 既にデュオロードに対して敬語を使っていなかった事もあり、ここでデュオロードの部下とも言える人たちに敬語を使うのはまずいだろうと考え、ルーナはふたりに対しても、敢えて敬語を使わないようにしていた。

 

「いえ、大した事はしていませんのでっ!」

「その通りです。ですが、見返り……という程ではありませんが、どういう風に改造するのか、後学のために見せていただければ……と、思います」

 女性に続いて男性がそんな風に言った所で、女性がそれに首を縦にウンウンと2回振ってみせた。

 

「そこまで役立つかはわからないけれど、構わないわ」

 そんな風に返しつつ、ルーナは……

 

 ――うわぁ……。見学者がどんどん増えていくわ……

 1ミスも出来ない雰囲気になってきたわね……。これ……

 し、慎重に、頭の中にあるやり方通りに……

 

 なんて事を考えながら緊張していた。

 

「なに、ただ単に参照すべき設計図が、頭の中にあるか物理的にあるかの違いでしかない。やる事はいつもどおりだ。それと……少しくらいミスった所で誰も分からん。なにしろ、誰も――俺にも分からない事をするんだからな。で、もしどうにもならない時があったとしても、向こう側へ飛べばいくらでも対処法は考えられる。細かい事は気にせずにやればいいさ」

 ラディウスが口元に薄く幻影を展開しつつ、周囲で発せられる音に指向性をもたせるガジェットを使い、小声でそうルーナに告げた。

 

 ラディウスから少し離れているデュオロードたちには、ただ無言で立っているようにしか見えていない

 

 ――そ、そうね……。言われてみればその通りだわ。

 

 ルーナはラディウスの言葉で少し落ち着きを取り戻すと、ラディウスに対して頷いてみせる。

 そして、

「それじゃ、サクッとやってしまうわよ」

 と言って、作業台へと移動。

 周囲の見学者にわかりやすいように、

「マジックストラクチャー・オープンッ!」

 そう言い放ち、設計図の術式を出現させる。

 

「当たり前の話だけれど、剣の前に、まずはこの設計図を改造するわ」

 と告げて、術式に手を伸ばす。

 

「まずはここの回路をこっちに回して、それでこことこれを連結するわ」

「あれ? こっちに回したら、ここには何を……?」

 ルーナの説明に対し、疑問を抱いたらしい女性が小声で呟く。

 口調からして、質問のつもりで口にしたわけではなかったのだろうが、ルーナには聞こえたらしく、

「良い疑問ね。そこで出番となるのが、さっき用意してもらったこれよ」

 と言いながら、クーリオ霊鋼のケーブルを横から引っ張ってくる。

 

「これを30セクフォーネ(30センチ)ずつ5つに切って、ここにこうして配置しつつ、『マテリアル分解』すると、物理ケーブルが魔力ケーブルに変換されて……」

 と、そんな感じで逐一説明しながら、術式に手を加えていく。

 

 そしてあれこれと手を加え終えると、

「――以上で設計図の改造は終わりよ。あとはこれに沿って、実際に剣に改造を加えるだけね」

 と告げ、セシリアの方を見る。

 

「ようやく出番だね!」

 なんて事を言いながら、聖剣をルーナの作業台へと置くセシリア。

 

「おや? この剣ですが、既に改造が施されているように見受けられますが……?」

 壮年の男性が聖剣を見て改造の痕跡に気づいたらしく、そんな事を口にする。

「え? そうなんですか?」

 と、こちらは気づかなかったようで、不思議そうに問いかける若い女性。

 

「うん。良く見ると分かるけど、後から組み込まれた術式の『痕跡』があるんだ」

 壮年の男性が若い女性に対してそんな風に言う。

 するとそれに続くようにして、

「うむ、そうだな。しかし、改造済みだとは言っていたが……ここまで複雑な事をしているとはな」

 なんて事を言いながら、ルーナに対する関心を深めるデュオロード。

 

「ドールガジェットのソーサリービームも真っ青な極太ビームを放ったり、横に広がって盾……というか壁になったりと、色々規格外な事になっていますのよね、それ」

 イザベラがため息混じりにそう言って、肩をすくめてみせる。

 

「たしかにそうだね。で、これからそこに滅界獣を仕留めるための機能も追加されるってわけだね」

 そう言いながらルーナの方を見るセシリア。

 

「ま、まあ、そういう事になるわね」

 頬を掻きながらそんな風に返すと、

「……今更ながら、色々とおかしな剣になってきたわね……」

 と、そう呟くルーナ。

 

 ――ビームを放てるようにしたのは、私じゃなくてラディだけど……

 その事は敢えて言わない方がいい……のよね?

 

 などと思いながらラディウスの方へと視線を向けると、ラディウスはその視線の意図を理解したらしく、頷いてみせた。

 

 セシリアはその頷きに、心の中で納得しつつも、『自分への評価が過大に上がってしまいそうな事』に対してため息をついてから、

「それじゃ、さっさと剣の方もやってしまうわよ」

 と告げて、聖剣の改造を始めるのだった。

みんなでルーナの評価を意図的に上げさせるという高度(?)な戦術です(何)


とまあ、それはそれとしてまた次回!

次の更新も予定通りとなります、3月16日(日)の想定です!

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