第13話 古の災厄。闇の魔匠とIOEアタッチメント。
デュオロードがインターホンを通じて、中に入るように伝えると、帝国の軍服に身を纏った男女4人が扉を開けて入ってくる。
そして、リリティナとイザベラの存在に驚きつつも、4人の中で一番階級が高いらしい男性が敬礼して
「デュオロード様、双蛇の反転塔下層の保管庫から、『開かずの黒匣』を回収してきました」
と、報告した。
そしてそのまま4人は、ストレージから黒い縦長の箱を取り出し、床に置いていく。
「あれが、ペキュリアーウェポンなんですの?」
「正確にはそれが入っている箱だ。昔、これを確保した者は開けられなかったのだろう。御大層にも『開かず黒匣』などという名前が付いているがな」
イザベラの問いかけに対し、そんな風に答えるデュオロード
「開ける為には何か必要なのですか?」
「アクティベーションコードが必要だが、既にお前たちは持っているはずだ。……それとも、まだ発行される前だったか?」
リリティナの問いかけに、デュオロードがそう返す。
それに対してラディウスは、
「そんな話は出てなかったな。ちょっと確認する」
と告げ、向こう側の世界へ再び移動する。
「あ、また何かありましたですか? です」
カチュアのそんな問いかけに、
「ああ、ちょっとした確認だ。システムにな」
と、そうラディウスが答える。
するとそこで、
「確認とはなんでしょうか?」
というシステムの声が響く。
「別ルートでペキュリアーウェポンを確保出来る算段がついたんだが、アクティベーションコードの発行は可能か?」
「可能です。ただし、アクティベーションコードは正規のものにしか有効ではありません。そのペキュリアーウェポンは正規のものですか?」
ラディウスの問いかけに対して、返答をしつつそう問い返してくるシステム。
「それに関しては問題ない。正規品の予備だ」
ラディウスが適当に、しかしもっともらしくそう答えると、
「なるほど、承知しました。それではアクティベーションコードを発行します」
とシステムが告げ、しばしの沈黙の後、8つのプレートがそれぞれの目の前に浮遊した状態で姿を現した。
「それを手に取って、インストールしてください」
と言ってくるシステムに従い、プレートを手に取るラディウスたち。
すると、並行世界間を移動するガジェットと同じく手に取った瞬間、消滅した。
そして、
「正常にインストールが完了した事を確認しました。確保したというペキュリアーウェポンにて、各自でアクティベート処理の対応を行ってください」
と、そんな風に告げるシステム。
「ああ、了解だ。――よし、もう一度向こうへ戻るとしよう」
ラディウスはそう言うと、再びデュオロードのいる場所を思い浮かべ……視界が切り替わると同時に、
「――アクティベーションコードを発行した」
と告げた。
「なら、この黒い箱の上部にある認証パネルに手を触れるがいい。それでアクティベート処理が行われ、パーソナライズが実行される」
「ぱーそならいず?」
デュオロードの言葉に首を傾げるセシリア。
そのセシリアに対して、ラディウスが説明する。
「簡単に言えば、パネルに触れた人間以外には使えなくする処理だな。普通の剣を聖剣化ような感じか」
「あ、なるほど」
納得するセシリアに続くようにして、
「でも、箱は全部で6つしかありませんわね……?」
という問いの言葉を口にするイザベラ。
「ここに保管されていたのが全部で6つだったのです。最低でも7つ必要だとは聞いていたのですが……申し訳ございません」
『開かずの黒匣』を運んできた軍人のひとりである女性が、そんな風に告げる。
「まあ、聖剣持ちは不要であろう。聖剣にはペキュリアーウェポンの代わりとなる、IOEアタッチメントを追加すれば良いからな」
「そのIOEアタッチメントというのは?」
デュオロードの言葉にリリティナが問いかけると、
「聖剣とペキュリアーウェポンの根幹部分はまったく同じものだ。聖剣というのは、あくまでも民生用にペキュリアーウェポンからいくつかの術式を除外したセキュリティシステムを武器に組み込んだものにすぎない。まあ、ここまではお前たちも知っているであろう」
と、そんな風に返すデュオロード。
そしてそのまま、一呼吸置いてから、
「逆を言えば、再び除外された術式を追加してやれば、聖剣はペキュリアーウェポンになるという事でもある。そして、この除外された術式を組み込んだガジェット……それがIOEアタッチメントだ」
と、そんな風に説明する。
それを聞いていたルーナが、
「なるほど……。聖剣にそのガジェットを連結――結合させるってわけね。たしかに聖剣には何に使うのか良くわからないターミナルコード……連結用術式があったわね」
なんて事を呟くように言った。
「そう言えば、セシリアの聖剣を改造したのはルーナでしたわね」
「なるほど……。さすがは噂に聞く『闇の魔匠』といった所だな」
セシリアの言葉に納得の表情でそんな事を言うデュオロードに、
「……ひさしぶりに言われたわね、そのなんとも言い難い通り名……」
と、ため息混じりに返すルーナ。
そしてそのまま、
「でも、除外された術式とやらが分かれば、IOEアタッチメントとかいうのを作るのはそこまで難しくない気がするわね。あの連結用術式の構造から考えると」
などと、顎に手を当てながら言った。
「ほう? では、これがあれば良いか?」
デュオロードは小さな透明な板を自身のストレージから取り出し、ルーナに見せながらそんな風に言う。
そしてその小さな透明な板を、ルーナの方へと向かって、テーブルの上を滑らせた。
ルーナがそれをキャッチして手に取ると、小さな透明な板の真上に、複雑な術式の数々が立体映像として投影され始める。
「これって……」
「それがペキュリアーウェポンから除外された術式だ」
そうデュオロードがルーナに告げると、ルーナはそれに対して、
「……なるほどね。しっかり解析してみないとわからないけれど、たしかにこれがあればどうにかなりそうな感じがするわね」
と、そんな風に言った。
――ふむ……。これが闇の魔匠か。
ラディウスという天才級の魔工士の影に隠れているせいで目立たないが、魔工士としては明らかにイザベラ以上……なかなかに末恐ろしい力量を有しているようだ。さすがは『闇』というだけはあるな。
デュオロードは、立体映像を眺めるルーナを見ながらそんな風に評価する。
……が。
ルーナは向こう側の世界で、ラディウスたちに立体映像を見せながら、
「……物凄い複雑で、いまいち良くわからない所ばっかりだわ、これ……」
なんて事を言っていたりするのだった。
本当にひさしぶりに『闇の魔匠』という通り名を使った気がします……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、2月27日(木)の想定です!




