第12話 古の災厄。ウンゲウェダ・ドラウグと術式。
「でも、どうやって『異常』を?」
「簡単だ。ウンゲウェダ・ドラウグをこちらの世界に出現させればよい」
セシリアのもっともな疑問にそう答えるデュオロード。
「たしかにあれは常駐魔法の類のようですし、条件さえ揃えば可能かもしれませんけれど……」
セシリアに変わって、イザベラがそんな風に言いつつラディウスの方を見て、
「あれはこちら側から向こう側へ干渉しているんですのよね?」
と、問いかける。
それに対してラディウスは、
「ああ。状況からの推測でしかないが、おそらくそうだろう」
と、頷きながら返事をした。
「つまり、干渉する先を向こう側からこちら側へ変える……という事です? ……でも、あれはどう考えても、湖底遺跡が術式の根幹な気がするのです」
「術式の根幹はその通りであろう。しかし……だ。さすがにこちら側から向こう側に対して魔法を発動させる……などというのは、不可能に等しい」
メルメメルアの発言に、デュオロードは腕を組みながらそんな風に返す。
「なるほど……。向こう側にあれを出現させるには、こちら側から送られた『魔法の情報』を向こう側で受信し、再構築するものが必要になる……というわけか」
「うむ、そういう事だ。無論、世界と世界の間の壁ともいうべきものに穴を開け、そこから送り込むという方法も取れなくはない。だが、それをしているのなら、こちら側とあちら側の双方で、空間の歪みが何度も検出される事だろう。しかし、そのような歪みは検出されていない。そもそも、そんな事が出来るのであれば、あのような幻影めいたものにする必要性もない」
今度はラディウスの言葉に対して、頷きつつそう返すデュオロード。
「となると……向こう側の巨大湖にある『術式』を探して破壊するなり書き換えるなりすれば……」
「こちら側に出現させる事が出来るかもしれない……わね」
ラディウスに続くようにして、そんな風にルーナが言った所で、
「でも、ウンゲウェダ・ドラウグって、巨大湖から少し離れた所でも出現するよね?」
と、そんな風に言うセシリア。
それに対し、メルメメルアが同意の言葉を返す。
「はいです。ディグロム洞街へ向かう途中で遭遇したのです。あそこはこちら側で湖底遺跡のある場所からは大分離れているのです」
「おそらく、複数の『術式』が存在しているんだろう。広範囲にウンゲウェダ・ドラウグを出現させる為にな」
「なるほど……。でも、どうしてそんな事を……?」
ラディウスの言葉に納得したセシリアだったが、新たな疑問が浮かんでくる。
「うーむ……。向こう側のあの湖に、なにか守るべきものがあるのかもしれないが……それがなんなのかまでは、さすがにわからないな……」
「……湖底遺跡そのものが我らの時代――古の時代よりもさらに昔の時代のものだ。既にその守るべきものというのが既に完全に消えてしまっている可能性もなくはない」
ラディウスに続くようにして、そんな風に言うデュオロード。
それに対して、
「――要するに、遺跡がその『消滅』を認識出来ずに、延々と命令に遂行し続けているかもしれない……と、そういうわけですか」
と、リリティナ。
「ガーディマの遺跡でもちょっと思ったけど、既に存在しないものの為に、忠実に命令を遂行して続けているって、なんだか少し物悲しいものがあるね」
「……たしかにそうだな」
セシリアに対してラディウスがそう同意すると、
「あの遺跡のコアとも言うべき存在も、工房がなくなったのを認識しておらず、延々と発注を繰り返していましたからね……」
などと、そんな事を言ってくるヨナ。
「そう言えば、そこであのなんとかウェポンというのを作っていたんですのよね。場所は、今のヴィンスレイドの屋敷があるあたりでしたわよね」
イザベラがヨナへの返事と見せかけつつ、少し強引な流れではあるが、デュオロードから情報を引き出す為に意図的に――名前が出てこなかったのは素だが――そう口にすると、
「ペキュリアーウェポンの事か? たしかにあの辺りでも作っていたな。あれはそもそも作るのに水を大量に使うゆえ、大きな湖や川など水量が十分にある水場の近くで作られていたのでな」
なんて事を言ってくるデュオロード。
「そういうものなのですね。だとしたら、他にも工房の遺跡があるという事ですわね?」
「――デュオロード卿、今でもペキュリアーウェポンが残されていそうな場所に心当たりがあったりしませんか?」
イザベラに続くようにして、リリティナが直球な問いかけをする。
するとそれに対してデュオロードは、
「彼の遺跡を攻略し終えた報告の際に、最初にそのように言っていたな」
と返す。
そして、フッと小さく笑い、
「それなら大丈夫だ。もうそろそろ――」
……などと、そこまで口にした所で、唐突に木琴の音が響いた。
「ん? 何この木琴の音」
セシリアがそう首を傾げながら言うと、
「インターホンの音です。この部屋は特殊な防音魔法が展開されている高い為、外からドアのノックしても聞こえないんです。なので、用事がある時はそれを押す必要があるんですよ」
と、そんな風に返すリリティナ。
「インターホン……。呼び鈴の事でいいのかな? 向こうの世界にはこんな感じのものはないから、ちょっと新鮮」
「というか、用事がある時にならすって事は、誰か来たってことよね?」
セシリアに続くようにして、そんな問いの言葉を口にするルーナ。
するとそれを聞いたデュオロードがリリティナに代わって告げる。
「おそらく、頼んでいたものが届いたのであろう。……今まさに話題に上がった『ペキュリアーウェポン』がな」
と。
更新直前に変な箇所が見つかったので修正していたら、いつもの更新時間を過ぎてしまいました……
そして、諸々調整した結果、長さも本来の想定になったのですが、短くなったように感じるという……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、2月23日(日)の想定です!
……次はいつもの更新時間に更新したいと思います。




