第9話 古の災厄。朧と大封印とイザベラ。
「――ロジーナさんというヨナさんの前任者は、『朧』の将に口を封じられた……という事になりますね」
デュオロードの言葉を引き継ぐかのように、そう告げるリリティナ。
「そうですね。しかし……そうなると『朧』の将は、セヴェンカームで何かしているという事になりますね。しかも、ビブリオ・マギアスや三軍とは無関係……どころか、それらにも秘密にしながら」
ヨナが頷きながらそんな風に言うと、
「たしかにそうなるな。――セヴェンカームが不穏な状況であるという事は既にわかっているし、既に『こちら側』も動いている。だが……そこに『朧』の将が関わっているとなると、少し動き方を考え直さないと駄目かもしれないな……」
と、返すラディウス。
こちら側と敢えて強調したのは、デュオロードの勘違いを狙ったハッタリだったりする。
もっとも、クレリテたちが実際に動いてはいるので、完全に嘘というわけでもないが。
「そう言えば、セヴェンカームって古の時代からあるっぽいけど、その辺りも何か関係しているのかな?」
などとセシリアが口にした疑問に対し、デュオロードが腕を組みながら、
「古の時代にあったあの国は、『災厄の始まり』の時に、首都を含む国土の大半が飲み込まれて消滅した事で、国としての機能を失っている。今、向こう側にあるのは、その時に消滅を逃れた末の王子の末裔が、こちらの世界のゼム=ドゥア湖にある湖底遺跡で見つけた『何か』によって、かつてのセヴェンカーム領の端に、首都を『丸ごと復元』し、そこを起点に再興させたものだ」
なんて事をサラッと言う。
「ゼム=ドゥア湖?」
「向こうの世界だと、メルティーナ法国の聖都もある、あの『巨大湖』の事なのです」
首を傾げるセシリアに、メルメメルアがそんな風に答える。
「あ、なるほど。こっちではそういう名称なんだ。あっちではメルの言ったように『巨大湖』って名称だから分からなかったよ。……あれ? でも、そうすると――」
「――ああ。『聖都で得た情報通り』って事だ」
ラディウスはセシリアがふと気づいたであろう事に対し、『聖都で得た情報通り』という所を強調しつつ、そう被せるように言葉を紡ぐ。
そして、一旦向こう側の世界へと移動した。
「あれ? 話は終わったのですか? です」
というカチュアの声に、
「いや、まだ途中だがちょっとな」
と返すラディウス。
それに続くようにしてセシリアが、ラディウスに問いかける。
「もしかして、大封印については言わない方がいい感じ?」
「ああ。とりあえずデュオロードには秘密にしておこう。今はまだ言っても大丈夫か判断しきれないしな」
「そうね。あれは結構重要なものだから、話すのは危険な気が私もするわ」
ラディウスの返答に頷きながらルーナもそんな風に言う。
「うーん……たしかに……。まだあれについては言わない方がいいね。ごめん、考えがそこまで回ってなかったよ」
「――大封印とはなんですの? 物凄く気になる響きなんですけれど?」
謝るセシリアとほぼ同時に、もっともな疑問を口にするイザベラ。
そのイザベラに対し、
「え? 知らないの? 普通に情報を得ていると思ってたよ」
と返すセシリア。
「話から察するに、中央聖塔――いえ、大聖堂の深部、あるいは天剣宮にあるんですのよね? 中央聖塔はともかく、その奥にある大聖堂や天剣宮を探らせた者は、ひとり残らず捕らえられてしまって、そこまで深い情報は得られていませんのよ」
イザベラが肩をすくめながらそんな風に言うと、
「ちなみに、皆さまを監視していた『朧』の者たちも、それらの場所までは調べられなかったようですね」
と、補足するように口にするヨナ。
「今更ですけれど、あの監視も『朧』の……正確には将の独断なんですのよねぇ……。そう考えると、やはり――」
イザベラは頬に手を当てつつそう呟いた所で、ハッとした表情になり、
「って、話が逸れそうになりましたわ……。本題はそっちじゃなくて、大封印! 大封印ですわ!」
なんて事を、両手をギュッと握ったまま上下に勢いよく振りながら、声を大にして言った。
「いきなり興奮しすぎ……」
イザベラの言動に呆れ気味にそうセシリアが呟く。
ラディウスはやれやれと言わんばかりの表情を見せた後、腰に手を当て、
「まあ……なんだ? 大封印ってのは、イザベラが推測した通りの場所――大聖堂の深部にある謎の封印の事だ。一度解除しようと試みたんだが……複雑すぎて無理だった」
と、イザベラの方を見て説明した。
「あなた程の人が解除出来ない封印とは、益々興味深いですわね……。直接見てみたいものですわ」
「……まあ構わないと思うが、多分結論は俺と同じになると思うぞ」
「同じ? あなたは一体どういう結論に至ったんですの?」
「術式のMPAEユニットに連結されているSCCアキュムレーターと、多重術式から必要な情報を読み出す為に使われるSACレジスタを起点とした複数の紋様連結構造から考えるに、PPAコードの刻まれた物を術式内の紋様にセットする必要があるって結論だ。で、その紋様の構造から『ソレ』は向こう側の湖――ゼム=ドゥア湖の湖底遺跡に存在するんだろうと俺は推測した」
イザベラの問いかけにラディウスがそう答えると、
「……なるほどですわ。要するに『カードキー』の類が必要というわけですわね。たしかに私が直接見ても同じ結論になりますわね、それは」
なんて事をサラッと言うイザベラ。
「え? 今の説明で理解したの?」
「……オルディマの件といい今といい、セシリアは私の事を一体どう思っているんですの? これでも、それ相応に技術も知識も持っているんですのよ? 私」
セシリアの問いかけに、イザベラがジトッとした目で見ながら言葉を返す。
するとセシリアは、それに対して「あ、あー……いやぁ、そのぉ……」と口籠りながら、視線を逸らした。
そして……
――い、言えない。なんだかアホっぽい面が多いし、出会った時は滅界獣に食べられていたし、思っていたよりも大した事ないなー。プラスマイナスしたら、私と大して変わらないんじゃ……とか、そんな風に考えていただなんて、絶対言えない。
なんて事を、心の中で呟くのだった。
ひさしぶりの、何を言っているのかわからないラディウスの術式説明の回です。
そして、セシリアがイザベラに対してどんな風に思っているのかが、ちょっと分かるという回でもあったりします。
一体、どういうプラスマイナスの仕方なんでしょうね……(何)
ちなみに『聖都』とか『巨大湖』とかの名称ですが、何気に今まで使っていなかったという事に、今更気づきました……
一番最初に法国を訪れた時に、どちらも使っていたと思っていたのですが、そんな事はなかった上に、それ以降もまったく使われていない(法国とか街とか湖とかしか言っていない)という……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、2月13日(木)の想定です!




