第7話 古の災厄。異なるマインドコントロール。
デュオロードとラディウスが考え込んでいると、
「ところで『鉄道網』についてなんだけど、ゼグナム……だっけ? そっちにも伸びてるの?」
と、そんな事を口にするセシリア。
「帝国併合後……つまり、『彼の王国を滅ぼした』後に、鉄道網を拡張していますね」
リリティナがそんな風に言うと、デュオロードが思考を中断し、肩をすくめながら言葉を返す。
「皇女が『滅ぼした』と言い切るとはな」
「事実ですので。そこを取り繕っても仕方がありません。それに、ゼグナム解放戦線は『味方』ですし、『仮に』私が皇帝の地位にあるとしたら、ゼグナムの独立を認めるでしょう」
リリティナはそう言い切った後、セシリアの方を向き、
「それはそれとして、セシリアさんはどうしてその疑問を抱いたのですか?」
と、問いかけた。
「あ、うん。えっと……王国時代のゼグナムにもマインドコントロールが行われていたかも? っていう話を前にしたでしょ? だから、少し気になったんだけど……今の話を聞いた感じだと、余計におかしい気がしてきたよ」
「……たしかに、まだ鉄道がなかった頃にマインドコントロールが行われていたって事になるな」
セシリアに続くようにして、ラディウスがそんな風に言う。
「ふむ……。それは少し……いや、かなり興味深い話だな。もし王国時代の彼の地において、マインドコントロールが実際に行われていたとしたら、何らかの方法を用いて、ゼグナムの地まで術式通信網を一時的に拡張させた、あるいはゼグナムの地でマインドコントロール用の術式通信網を一時的に構築した者――ひとりとは限らぬが――がいるという事になる。……が、我はそんな存在は知らぬ」
「まさか、ゼグナムの離宮襲撃の件は、デュオロード卿やアルベリヒたちですら把握していない何者かが関与していた……と?」
デュオロードの発言を聞いたリリティナがそうに呟くと、それに対して、
「……あの一件はアルベリヒたちにとってもイレギュラーだった可能性が高いというのが俺の推測だが、まさにそいつ、あるいはそいつらが暗躍していたとしたら……」
と続くラディウス。
「あの広域のマインドコントロールを、現代においてそう簡単に構築出来るものなのです……? 話を聞いている限りでは、古の時代の人間でもなければ、難しい気がするのです」
「……その古の時代の人間なのではないですか? それこそ、古の時代にもマインドコントロールが行われていたらしいというのが、つい先程判明した所ですし」
メルメメルアの言葉に対してヨナがそんな風に返した所で、セシリアが頷きながら、
「たしかにね。というか、その古の時代にマインドコントロールを行った誰かさんは、今の時代にいるのかな? もしいたら、ゼグナムの件に関与していてもおかしくはなさそうだけど……」
なんて事を言った。
それを聞いたリリティナとルーナが、
「……それだけの事をするような人間であれば、なんらかの方法で時を超えて来ている可能性は非常に高い気がしますね」
「そうね。そしてゼグナムの件に絡んでいるだけじゃなくて、その他の所でも暗躍していそうな気すらするわ」
と、そんな風に言うと、さらにそれに続くようにしてヨナが、
「もしかしたら、それがビブリオ・マギアスの中にいる『死の大地と化したかつての世界の一部を、こちらの世界に呼び戻そうとしている人物だったりするのかもしれませんね」
という推測を述べる。
「……たしかに、同一人物であってもおかしくはありませんわね」
「うむ。諸々の状況を考えると否定は出来ぬな」
イザベラとデュオロードがヨナの推測に同意してみせる。
そしてそこでラディウスが、イザベラの方へと顔を向けながら、
「そうだな……。――イザベラは、何か知らないのか?」
という問いの言葉を投げかけた。
イザベラはその問いかけに「そうですわねぇ……」と呟きつつ思考を巡らせた後、
「一番考えられるのは、ビブリオ・マギアスの首魁ですわね。『主』とか『マスター』とか色々な呼ばれ方をしていますけれど、最高幹部の者たち以外は、誰も正式な名前を知らない謎に包まれた人物ですわ」
と、そんな風に答える。
「そうだな。たしかに一番怪しい。しかし……同時に、かの首魁は存在そのものが怪しい。なにせ、我が前にすら一度も姿を見せた事がないからな。故に、私は首魁とは『最高幹部』の者たちが生み出した『虚構の存在』である可能性を疑っている」
デュオロードが頷きつつそう言うと、それに対してセシリアが首を傾げながら、疑問を口にする。
「虚構? 組織の明確なトップが存在しないだなんて、そんな事ってありえるの?」
「……ないとは言えないな。というのも、明確なトップが存在する場合、そのトップが失われた時点で組織は瓦解してしまいがちだ。しかし、明確なトップが存在せずに複数人でトップの役割を分散している場合、その中の誰かひとりが失われても、大した影響はない――瓦解せずに存続しやすい、という利点があるからな」
「……たしかに、ビブリオ・マギアスの実働部隊兼別働隊とでも言うべき三軍も、少し違いますけれど、そういった面はありますわね」
ラディウスの説明に、イザベラが納得の表情でそんな風に言う。
「え? 三軍って『将』が明確なトップなんじゃ?」
「ええ、そうですわね。あなたの言うとおり、各軍の長は『将』ですけれど、同じ情報と権限を共有している者が必ずいるんですのよ。それこそ、将が失われても各軍の動きに影響が出ないようにする為に」
首を傾げながら問うセシリアにイザベラはそう答えると、ヨナの方を見た。
「はい。幻軍も、もしイザベラ様が『お隠れ』になったとしても、私が即座に、一切の停滞なく、状況を継続して運用する事が出来るようになっています」
ヨナがそんな風に頷きながら告げると、さらにそれに対してセシリアが、
「なるほど……。個人的には将にも上下があって、オルディマの方がイザベラより上に感じてたけど、そういうわけじゃないんだね」
なんて事をイザベラの方を見て言った。
「……どうしてオルディマの方が上だと思っていたのか、問い詰めたい気がしますけれど、まあいいですわ。オルディマも私も同列ですわよ」
イザベラはジトッとした目でセシリアを見ながらそう告げた後、一呼吸置いてから言葉を続ける。
「もっと言えば、ビブリオ・マギアスの最高幹部とも上下はあまりありませんわね。『任務』を実行するかどうかは、各軍の自由ですし。まあ、基本的には遂行しますけれど」
「へぇ……そういう仕組みなんだ。なんだか変わった組織だね」
「なるほど……。個々の思想や意志の強い者たちを無理に統率しようとするよりも、ある程度自由が効く環境にしておく方が結果的に動きが良くなる……と、そういうわけですか」
セシリアの発言に続くようにして、そんな風に思考を巡らせながら言うリリティナ。
そこにさらにデュオロードが言葉を紡ぐ。
「というより、様々な理由、出自の者たちばかり――もっと言ってしまえば得体のしれない者たちばかりの組織である事を考えると、そうするのが一番適切だったと言うべきか。指針――作戦だけ定めておいて、後はそれぞれが好き勝手に動く方が、互いに足を引っ張り合うような事になりづらいというものだ」
「たしかに得体のしれないものばかりですわねぇ……私やあなたも含めて」
「まあ、だからこそなのでしょう」
肩をすくめながら言うイザベラにヨナがそう続くと、
「組織というよりは、同盟とか連合に近い感じがするのです」
と、メルメメルア。
「そうだな。実際これまで遭遇してきた連中……特に魔軍や幻軍以外の奴らは、組織としての統一感なんてまるでなかったが、それも同盟あるいは連合のようなものだと考えれば、色々と納得がいくというものだ」
ラディウスはメルメメルアに対し、そんな風に返しつつ思考を巡らせる。
――だからこそ、セヴェンカーム方面の動きが奇妙でもあるんだよなぁ……
まあ、そっちはクレリテたちが対処しているし、近い内に何かわかるだろう。
と。
思った以上に、ビブリオ・マギアスに関する今更な説明が長くなってしまいました……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、2月6日(木)の想定です!




