第1話 暗き通路。その果てで待つモノ。
――わけがわからない以上、とりあえず色々と試してみるしかないか……
ラディウスはそう考え、再び伯爵邸の執務室を思い浮かべる。
と、視界が白く染まった後、再び執務室にいた。
もう一度、例の通路を思い浮かべる。
すると、やはり視界が白く染まった後、通路へと戻ってきた。
執務室を思い浮かべる、通路を思い浮かべる、執務室を思い浮かべる――
そんな感じで何度か行き来しつつ、そのついでに色々と試してみるラディウス。
――うーん……。どうやらあのガジェットに触れた事で、得体のしれない転移の力を得てしまったみたいだな。
別の場所に一瞬で転移し、転移先で時間が経過しても、元の場所に戻ると転移直後の時間に戻るようだ。
しかも、ルティカの反応からすると、転移はゼロコンマとかそんな速度で行われているっぽいな。向こうの俺は一瞬たりとも姿を消していないみたいだし。
あと、俺の持ち物は全て移動してくるようだが……人を移動させるのは無理っぽいな。試しにルティカを連れてきてみようと思ったが無理だったからな。
……にしても、だ。この場所は一体どこなんだ?
暗闇に包まれた通路に立ちながら、そんな事を考えつつ、通路の先を見るラディウス。
「……まあ、行ってみればわかるか。ヤバかったら転移すればいいだけだし」
ラディウスはそう呟き、通路を歩き出す。
と、程なくして扉が見えてきた。すぐ近くの壁には赤い光も見える。
ラディウスはとりあえず扉を調べてみるが、取っ手の類が見当たらない。
ならば、という事で赤い光の方へと顔を向けてみる。
すると、赤く光る宝玉が取り付けられているプレートが壁に設置されていた。
更によく見てみると、宝玉の横には縦方向に走る溝があるのがわかった。
――これは……どう見てもカードリーダー……だよな?
うーん……でもこの世界に、カードキーだのカードリーダーだのといった代物なんてあったっけか……
時を遡る前の時代ですら見た記憶がないんだが……。どっかにあったんだろうか?
ひとしきり首をひねって考えるも、結論が出る事もなければ、扉が開く事もないので、ラディウスは諦めて反対方向へと歩き出す。
最初に転移してきた地点から少し行った所で、階段が見えてきた。
その階段を慎重に下りていくと、階段の上の通路と同じ造りの通路だが、左側にズラッと扉が並んでいる、そんな場所に出た。
――さっきと同じカードキー式っぽいが……宝玉の光は緑色だな。
開いているって事か?
そう予測し、一番手前の扉に近づいてみるラディウス。
すると、ウィィンという動作音ともに、自動的に扉が左右に開く。
――自動ドア? まあ……自動ドア自体は、時を遡る前の時代にはあったから、カードキーだのカードリーダーだのに比べれば、まだ違和感はない方だが……この時代にはまだなかったよなぁ……たしか。
なんて事を思いながら、扉の先――部屋を覗くラディウス。
しかし、殺風景かつこじんまりとしたその部屋は窓1つなく、通路と同じ金属で構成された床と壁と天井しかなかった。
ただ、部屋の隅に半径5セクフォーネ程度の穴があり、その穴の下からは水の音が聞こえてくる。
更に穴の反対側――通路側の壁の、床スレスレの所に幅30セクフォーネ、高さ10セクフォーネ程度の小さな小窓があった。
――うーん……。もしかしてここ、倉庫、あるいは監獄……か?
もっとも……汚れはないし、悪臭もしないから、使われてはいないみたいだが……
ラディウスは思考を巡らせながら部屋から出ると、そのまま隣の部屋も見てみる。
が、そちらも同じ造りで、なおかつ空っぽだった。
……結局、十近い部屋を覗いてみるも、全て同じ造りで空っぽだった。
やはり使われていないようだと結論を出……そうとした所で、カードリーダーの宝玉が赤い部屋が視界の端に入った。
――あそこだけ閉ざされている?
……もしかして、あそこだけ他とは違って、中に何かあるのか……?
まあ、単にうっかり閉めてしまった人間がいて、その後、誰も開けずにそのままになっているだけ、という可能性も否定は出来ないが……
そんな思考を巡らせつつ、そちらへと近づいてみるラディウス。
すると、唐突に女性の声が聞こえてきた――
「また巡回監視ですか? まだ以前の巡回から3日しか経っていませんよ」
そんなこんなで、第2章のスタートです!
ちなみに……1セクフォーネは、約1センチメートルです。
(序章の最後に、この辺の単位は纏めてあります)




