表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

609/636

第6話 古の災厄。バグとマインドコントロール。

「つまり、ビブリオ・マギアスの中にも、この世界と向こう側の世界を行き来出来る人間がいるってわけか」

 ラディウスがそんな風に言うと、それに対してデュオロードが、

「その通りだ。むしろ、『改変された歴史を元に戻す』などと標榜しているのに、あのガジェットを持っている者がいない……などという方が不自然であろう?」

 なんて事を言ってくる。

 

「それはまあ……そうだな。もっとも、奴らの中にいる『所有者』も使いこなせてはいないようだが」

「たしかにそうですわね。使いこなせているようなら、今頃歴史が変わっていますわ」

 ラディウスの言葉に続くようにして、そんな風に言うイザベラ。

 それに対し、

「あのガジェットに組み込まれている魔法のひとつである『時を遡る魔法』……。あれは特定の条件下で自動的――というより、強制的に発動する仕組みになっているが、その『特定の条件下』というのがブラックボックス化していてわからぬゆえ、そうそう使いこなせるものでもあるまい」

 などと腕を組みながら言うデュオロード。

 そしてそのままイザベラの方へと顔を向け、

「そういう意味ではカチュアとおぬしは、運が良かったと言えよう」

 と、言葉を続けた。

 

「それに関しては否定出来ませんわね……」

 そんな風に肩をすくめながら口にするイザベラに続き、

「ところで、ブラックボックス化……というのはどういう事なのですか? 『時間』に作用するという事は、あれはエル・ガディアの技術ですよね? 一番最初にあれを作った者であれば、その条件も知っているのでは?」

 と、そう問いかけて首を傾げるリリティナ。

 そのもっともな問いかけに、デュオロードがため息混じりに答える。

「……まあ、当然の疑問であろうな。――実はあの魔法は、特定の人間が生み出したものではないのだ」

 

「特定の人間が生み出したものではない? 組み込まれている術式が想定外の動作をしているとでも?」

 今度はラディウスがそう問いかける。

 するとそれに対してデュオロードは、

「……簡単に言えばそのようなものだ。本来あれは『未来への時間転移』――『次元侵食を回避した時間軸』へと転移するのを目的とした大型ガジェット『刻の階(ときのきざはし)』のコア的な役割を担う物……。過去への転移を想定して作られたものではない」

 なんて事を言った。

 

「つまり……未来、あるいは別時間軸へと転移する魔法が、何故か反転して発動する事がある……と?」

「そういう事だ。術式の解析も何度か行っているが、これといって不自然な所はない。まさに謎としか言いようがないのだ」

 ラディウスの再びの問いかけにデュオロードはそう答えると、やれやれと首を横に振ってみせる。

 

 ――要するに、『バグっているけど、エラーを吐かずに想定外の挙動をしているプログラム』と同じって事だよな……これ。

 ……俺の時を遡るガジェットは俺自身が作ったものだが、原型自体は他の皆が使っているものと同じだ。

 むしろ、俺はあれが時を遡る魔法の術式だと考えていた。

 しかし、完成したガジェットは時を遡る力を発揮してくれなかった。

 ……いや、元々その術式はエル・ガディアが未来……別時間軸へ転移する為に生み出した術式であり、時を遡る魔法などではなかったのだから当然なんだが……

 だが、それなら何故俺はあれを時を遡る魔法の術式だと思ったんだ……?

 まあたしかに、時を遡るには何かが足りない――不完全な術式なのではないか? というのは、作っていた時点で少し感じてはいたが……

 まさか、その不完全に感じた部分が『バグ』の根幹……あるいはそこまではいかずとも、遠因だった……のか? 

 ……あの術式を構築している時に感じたのは、たしか……

 

 ラディウスはそこまで思考を巡らせた所で、デュオロードに対して言葉を紡ぐ。

「……その術式だが、俺には時を遡る魔法の術式であるように感じた。ただし『不完全』さも同時に感じたんだ。――未来、あるいは別時間軸へと転移する為の術式だったのだから当然と言えば当然なんだが……過去を精査する機能など、過去に関連する時間魔法術式が複数組み込まれているせいで勘違いしたとも言える。……『次元侵食を回避した時間軸』を調べるのに過去を精査しているんだろうが、その時点で歴史が分岐する前提になっているのは何故なんだ?」

 

「過去の精査……。歴史の分岐が前提……?」

 ラディウスの言葉を聞いたデュオロードが、そんな事を呟きながら、何かを考え始める。

 そして程なくして、

「……そうか。たしかにその通りだ。何故、今の今まで歴史の分岐が前提である事に気づかなかったのだ……?」

 なんて事を言う。

 

「今の今まで気づかない? これって……」

「はいです。マインドコントロールなのです」

 今まで無言を貫いていたふたり――というか、会話があまり理解が出来ていないセシリアと、余計な事を言わないように黙っていたメルメメルア――が、そんな風に言った。

 

「マインドコントロール……。なるほど……あれが、我らにも使われていた……?」

 ふたりの発言に、デュオロードは手で額を抑えながらそう呟く。

 そんなデュオロードに対してリリティナが、

「そもそも、あの広域マインドコントロールはどうやって行われているのですか?」

 と、マインドコントロールの核心に迫る問いの言葉を投げかけた。

 

「――あれは、エル・ガディアの『時』の魔法の一種で、対象の『過去』に干渉して、『元からそうであった』と認識させているのだ。広域化には国内全域に張り巡らされた鉄道網による通信伝達システムと、ヴィンスレイドに作らせたレゾナンスタワーの共鳴増幅システムを利用している」

 動揺しているからなのか、あっさりとそう説明してくるデュオロード。

 それを聞いたラディウスは、

「そう言えばメルとレゾナンスタワーへ行った時に、術式通信網の話をしたな……。レゾナンスタワーが通信支援塔としての機能が現代では壊滅的だから、鉄道網を利用している……と」

 なんて事を、腕を組みながら呟くように言った。

 

「はいです。たしかにそんな話をした記憶があるのです」

 頷きながらそんな風にメルメメルアが口にすると、それに続いて、

「つまり、鉄道網に組み込まれた情報を伝達する仕組みを利用して、刷り込む情報を伝播させている……というわけね。でも、それだけでは出力が足りないから、レゾナンスタワーとやらに新たに作った仕組みでそれを増幅させている……と」

 と、顎に手を当てながら言うルーナ。

 

「ヴィンスレイドがレゾナンスタワーの一部を組み替えたのはアルベリヒから聞かされていたですが、まさかそんなシステムまで作っていたですか……。そこまでの情報は聞かされていないのです」

「まあ、一介の鑑定士に教えるような情報ではないからな」

 メルメメルアに対し、そう言って肩をすくめてみせるデュオロード。

 そしてそのまま、

「ともあれ……古の時代には、レゾナンスタワーの機能だけで、今の術式通信網を遥かに超える広域かつ高速の術式通信網が確立されていた。故に、あのマインドコントロールが使われていたとしたら、例え『明らかに不自然なもの』であっても、それに疑問を抱く事すら難しいだろう。だが……誰が一体何の為に……?」

 と、言葉を続けて考え込む。

 

 それを見ながらラディウスも同じく考え込む。

 

 ――そのマインドコントロールを行った何者かが、同時に何らかの条件で『時を遡る魔法』が発動するよう、あのガジェットの術式に細工を施したのは間違いなさそうだが、そんな面倒な事をした理由、そして目的がさっぱりだな……

 そもそも……何故、もっと直接的な方法を取らなかったんだ?

 過去を変える……という行為に対して、何らかの条件をつけたかった……のか?

 だが、そうなってくると、その『何者か』はまるで傍観者……いや、観察者のような感じだが……

 

 と。

序盤でしれっと張られていた伏線を、やっと回収する時が来ました……


とまあ、そんなこんなでまた次回!

次の更新も予定通りとなります、2月2日(日)の想定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ