第4話 古の災厄。ペキュリアーウェポン。
「――まず滅界獣ですが、人名の数だけ『幽星核』というものを有しており、これを全て破壊しなければ倒せません。この核がひとつでも残っている状態で活動停止状態にしても、復活します。また、この核は『物質ではない』為、仮に滅界獣の身体全てを消し飛ばすような攻撃を行っても破壊する事が出来ません」
そんな風に告げてくるシステムに対し、
「物質ではない核……ですか」
「まあ、『幽星』は『アストラル』の事ですものね……」
と、呟くように言うヨナとイザベラ。
「アストラルって、なんか魔力のアンカーを放つ魔法とかカチュアの魂魄を肉体に戻した時に使った魔法とかの名前だよね?」
セシリアがラディウスの方を向きながらそう問いかけると、ラディウスはそれに対して頷きながら説明する。
「そうだな。前者は単に『アストラル』に近しい魔力の塊をアンカー状にして放つからそう名付けられてる感じだな。後者はまあ俺が作った魔法だが、魂魄――肉体と精神体に関与するからそう名付けた」
「って事は、アストラルって魂魄、あるいは精神体……?」
「ま、そうだな。肉体から分離された精神体……みたいなものだと思えばいいか」
「……あれ? それってやっぱりあの名称は……」
頭の中で推測との繋がりに気付いたセシリアのその発言に、ラディウスは再び頷きつつ、
「……そうだな。多分『そういう事』なんだと思うぞ。だが、そこはシステムに問いかけても無駄だろうから、ここでは一旦置いておくとしよう」
と、そんな風に返してからシステムに問いかける。
「その物質ではない核を破壊するのに人の名前が関係する……と?」
「はい。人名ごとに『幽星核』の構造が異なっています。その構造に合わせた術式の再構築を行う必要があるのです」
「……つまり、既に存在するパズルのピースに合わせて『噛み合うピースを作る』というわけね」
システムの発言に対し、顎に手を当てながらそう口にするルーナ。
「でも今、術式の『再構築』って言ったのです。つまり、既に『幽星核』を破壊する術式そのものは存在する事になるのです」
「その通りです。その術式を組み込んだ武器――我々が『ペキュリアーウェポン』と呼ぶものが、唯一滅界獣に対抗出来る代物なのです」
メルメメルアの言葉に同意し、そう返してくるシステムに、
「ペキュリアーウェポン……? 特異な武器?」
「あるいは特有の武器とも言えますね」
と、そんな風に言うルーナとリリティナ。
「古代の言語は相変わらず訳すのが厄介だね……」
「まあ、古代の言語と言っても、魔法の名称として使われている事もあって、現代でも色々な名称などに、ごく一般的に使われていますけれどね」
セシリアの呟きに対してそうイザベラが返すと、
「はいです。お陰で今の時代に目覚めた時も、ある程度理解出来て助かったのです。現代の言語は、単語量が凄まじくて覚えるのが大変だったのです」
「一人称――要するに自分を現す言葉だけで複数あるですからね……。私、僕、俺、我、拙者、吾輩……などなどです」
なんて言うカチュアとメルメメルア。
「拙者とか吾輩とかはあまり使ってる人いないけどね」
「ですけど、たしかに言われてみると一人称が多いですわね」
セシリアに続くようにしてイザベラがそんな風に言うと、
「私と書いて、『わたし』と『わたくし』がありますしね。私は前者で、イザベラ様は後者ですし」
と、ヨナが続く。
「まあ、そうですわね」
イザベラは頷いてそう言った後、
「……って、話が脱線しすぎですわよ!」
なんていう突っ込みめいた一言を口にした。
「私に話を脱線させるなと言っておいって、自分で脱線させないで欲しいですわね?」
「そうですよ、セシリアさん」
というイザベラとヨナの言葉に、
「見事にあの時のカウンターを食らったわね」
なんて事を呟くルーナ。
「うぐ……っ。脱線させるつもりはなかったんだけどなぁ……。でも、まあ、その、ご、ごめんなさい」
セシリアはそんな風に謝った後、
「……むむぅ……。下手な事言うもんじゃないなぁ……」
などと呟いて肩を落とした。
ラディウスは、そんなやり取りを聞いて何かが根本からしておかしい気もしたが、そこに触れると今度は自分が脱線させそうなので、触れない事にした。
そして、何事もなかったかのようにシステムに問いかける。
「――それで、その『ペキュリアーウェポン』というのはどういった代物なんだ?」
「デストラクションバスターひとりひとりに合わせて作られるオーダーメイドの武器で、本人以外には扱う事が出来ない仕組みになっています」
そのシステムの返答に対して、
「それって聖剣と同じ……?」
なんて事を口にしつつ、聖剣を構えてみせるセシリア。
「聖剣……という定義は良く分かりませんが、その剣には『アストラルクラック』が組み込まれていません。おそらく、同じ仕組みを用いて作られた民生品の類だと考えられます」
「なるほど、このセキュリティの出処は『ペキュリアーウェポン』だったってわけか」
システムに対してそう返しつつ聖剣を見るラディウスと、それに続いて、
「この仕組みが、どういう理由で生み出されたのかとずっと思っていたけど、ようやく納得したよ」
と、口にするセシリア。
「……ところで、『アストラルクラック』という単語が出てきましたけれど、それが先程言った『術式』という事で良いんですのよね?」
「はい、その通りです。この術式を『人の名前』と適合する状態にする事で、ペキュリアーウェポンはその核を破壊する力を有するようになるのです」
イザベラの問いかけに対して肯定し、そう告げるシステム。
「なんだかんだで話が長くなったけど、ようやく繋がったわね」
「そ、そうだね。えっと……それで、そのペキュリアーウェポンって、ここで貰えるの?」
ルーナの発言に頷きながらそう言って首を傾げるセシリア。
するとそれに対し、
「その通りなのですが……在庫がありません」
なんて事をシステムは言ってきたのだった……
今回は、聖剣と呼ばれる代物が特定の人間しか扱えないのは単なる古代のセキュリティによるものだが、そのセキュリティの始まりはなんだったのか、という所の話でした。
なんというか、ようやく……という感じです。
とまあ、それはそれとしてまた次回!
次は前倒すか迷ったものの、更新タイミングの混乱を避ける為、平時通りに戻す事にしましたので……1月26日(日)の想定です!
少し間が空いてしまいますが、申し訳ありません……




