第1話 古の災厄。デストラクションバスター。
「ここが最深部……なのか?」
出現した階段を下り、扉を開いたラディウスがそんな風に呟く。
そしてそれに続くようにして、
「レゾナンスタワーの通信制御室に似ているのです」
と、メルメメルア。
メルメメルアが言った通り、扉の先は広い部屋に大きな装置や機器が所狭しと置かれているそんな場所だった。
あまりにも置かれている物が多すぎるせいで、部屋の広さに対して残っているスペースがあまりなく、むしろ狭い部屋のようにも感じられる程だ。
「古の時代の施設は、こういう感じの場所が結構ありますわよね」
「なんだか大型のガジェットだらけだね」
そうイザベラとセシリアが言った所で、
「何がどういう仕組みなのか、いまいち分からないわね……」
なんて呟きながら周囲を見回すルーナ。
「そうだなぁ……。雰囲気的には巨大な演算装置って感じだが……」
そんな風にラディウスが返した所で、
「奥に制御盤らしきものが見えるのです」
と、奥へ視線を向けながら告げてくるメルメメルア。
ラディウスが「ん?」と返しつつ正面の一番奥を見る。
するとそこにはたしかに、計器やスイッチ、レバーなどが複数あるいかにもなものがあった。
「たしかにそれっぽいものがありますね」
「あそこで何か操作するのでしょうか? です」
リリティナに続き、そんな疑問を口にしたカチュアに、
「かもしれませんね」
と同意するヨナ。
そしてそれに続いて、
「ま、とりあえずもう少し近づいてみますわよ」
と告げて歩き出すイザベラ。
ラディウスたちがその後を追い、操作盤らしきものの近くまで来た所で、
「最深部への到達を確認――貴方がたを新たなデストラクションバスターと認定します」
なんていう男性とも女性とも言い難い独特の声が響いた。
「デストラクションバスター?」
そんな風に呟くように言って首を傾げるセシリアに続き、
「……デストラクションは破壊や破滅という意味で、バスターは撲滅する者……という意味ですよね? 微妙に意味が被っているような……」
という疑問を口にするヨナ。
それに対してイザベラが、
「そうですわねぇ……ここは『滅界獣を倒す者』という風に考えれば、しっくりくる気がしますわ」
と、そんな風に返事をした。
「なるほど……たしかにそうですね。ですがそうなると、やっぱりここは――」
「――滅界獣と戦う力を持つかどうかを判断する試験場という事になりますね」
ヨナの言葉を引き継ぐようにしてリリティナがそう告げる。
「デストラクションバスターとは、災厄――『次元侵食』に呼応して姿を現す滅界獣と称される存在を撃滅し、次元侵食を遅延させる役割を担う者です」
そんな声が再び響く。
「次元……侵食……?」
首を傾げるセシリアに、
「どんな遺跡にも単に『災厄』としか記されていなかった『それ』の正式な名称……と言った所じゃないかしらね」
とルーナが返す。
「なんというか……名前だけで、かなりのヤバさを感じません……?」
「……名前だけで判断するのもあれだが、たしかに否定出来ないくらい物騒な感じはするな」
イザベラに頷きつつ、そう言って肩をすくめるラディウス。
それに対して、
「古の時代でも、その名は聞いた事がないのです。おそらく『本当にごく一部の人間だけが知る事の出来る名称』なのだと思うです」
と、そんな風にメルメメルアが告げてくる。
「なるほどですわ……。この場に到達しない限り、その名前を知る事は出来ない……と。……もう少し順を追って説明して欲しいものですわね……」
イザベラがそう言って首を横に振ってみせると、ラディウスはそれに同意するように頷きつつ、
「たしかにな。まあ……古の時代に『この試験に挑もうという者』にとっては、ここまでの説明は不要だったんじゃないのか?」
と言った。
「この試験に挑む時点で、それなりに災厄に対する知識は有している……という事ですね」
「そうですね。なにしろ『ごく一部の人間』しか知る事の出来ない名称を知る事が出来るくらいですし、災厄に対する知識ゼロで挑むなんていう事はありえないのでしょう」
ヨナの言葉に対してリリティナがそう返す。
それに対してルーナが、
「つまり、デストラクションバスターというのは、滅界獣と戦う者であり、同時に災厄の詳細を把握している者でもある……というわけね」
とそんな風に言い、そしてそこでふと疑問に思う。
「……でも、そうすると滅界獣というのは、災厄の詳細を把握していないと相手に出来ない存在という事にならないかしら?」
「たしかにそうですわね。デストラクションバスターになる事で災厄の詳細を知らされるわけですし、戦う際にその詳細情報が必要になるのだと思いますけれど……災厄の詳細を把握していなくても、倒す事は出来ますわよね?」
イザベラがルーナの言葉に同意しつつ、そう返すと、
「ええ、そうね。私たちは災厄の詳細なんて把握していないけれど、でも滅界獣は普通に相手する事が出来たし、倒す事も出来たわね」
と、頷きながら返事をするルーナ。
「滅界獣と災厄についての詳細を説明いたします。正面のモニタをご覧ください」
再びそんな声が響き渡り、ラディウスたちの正面――制御盤らしきものの上にある黒い板状のものが白い光を発した。
――あれ、モニタだったのか。
言われてみると、超大型の薄型の液晶モニタって感じだな……
ラディウスがそんな事を思った所で、大型モニタに映されているものが白一色から死の大地で見た大穴と同じような、しかし大きさの全く違う『小さな穴』の開いた川と思しき場所へと変化する。
「……川のど真ん中に穴が開いているのに川の水はまったく落ちていきませんわね……?」
そうイザベラが口にした通り、『小さな穴』が開いているのにも関わらず、川の水は一滴たりとも、そこに落ちていく様子はなかった。
そして、
「そうだな。まるで穴の縁に壁でもあるのかのように、川の流れがあそこで大きく曲がっているな……」
「水が穴を避けているかのようですです」
ラディウスとカチュアがそんな風に言う。
「これが次元侵食の第一段階……『隔絶』です。あの『穴』のように見える場所は、この世界から隔絶された場所です。その為、『この世界の水』があの場所に入り込まないのです」
声が響き、そう告げる。
ラディウスはその言葉に思考を巡らせる。
――なるほど。あそこは言ってしまえばこの世界ではない場所……。だから、川の水はまさに『世界の壁』あるいは『次元の壁』とも言うべきものにぶつかって、それより先へ進めずにああいう感じになるわけか。
だが、これはまだ第一段階だと言っていた。
つまり、まだ次元侵食とやらは始まったばかり……という事になる。
最終段階までいったら、一体どうなるというんだ?
まあ……どう考えても最悪の結末しか想像出来ないけどな。
と。
ようやく、災厄『次元侵食』についての詳細説明の『節』に突入出来ました。
もっとも説明ばかり続いてもあれなので、この『節』に関してはかなり短い想定です。
……長くなったらすいません。
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は予定(平時)通りとなりまして、1月12日(日)の想定です!




