第30話 遺跡攻略。滅界獣とイザベラとヨナ。
「ギュイッ!」
イザベラの振るった赤黒い鎖をバックステップで回避する滅界獣。
「頭が3つあると、死角からの攻撃を仕掛けづらいのが面倒ですわね」
「まあ、逆に牽制するにはいいですけどね。今のように」
イザベラの発言にそう返しつつ、5本の短剣を投げつけるヨナ。
そして、短剣は滅界獣に接近した所で爆発。
爆炎と爆音が立て続けに響き渡る。
「今の一振りが牽制だと理解している辺りはさすがですわね」
「敵が見事に投擲の射線上にバックステップしてきた時点で、誰でもわかるかと……」
イザベラに対してヨナがそんな風に答える。
と、その直後、爆発によって生じた黒煙から滅界獣が飛び出してくる。
「……ほとんど効いていませんね……」
「思ったよりも『硬い』ですわねぇ……」
イザベラとヨナがそう呟いた所で、
「キュイィィィィィッッ!!」
というグリフォン頭の甲高い咆哮と共に、その両眼が赤く光った。
「「っ!」」
何かが来る事を感じ取ったふたりは、即座に行動に移す。
イザベラは左へ、ヨナは右へ、それぞれ同時にサイドステップ。
その直後、キュゥンッ! という甲高い『音』が響き、直前までイザベラとヨナのいた所に滅界獣から赤い線が一瞬にして伸び――爆音と共に火柱が『赤い線に沿って』噴き上がった。
そして、それが更に続けて放たれていく。
「ドールガジェットの使う『熱線』みたいな事をしてきますわねっ!?」
「あの頭、あるいはあの眼、どちらかがガジェットなんですかね?」
驚きの声を発しつつ回避していくイザベラに続き、ヨナもまた回避しながらそんな疑問を口にする。
「いえ、おそらく『ガジェットの術式』と同じ術式をあの『眼』で生み出しているんだと思いますわ。要するにメルメメルアやカチュアの『眼』と同じですわね」
「なるほど……そういうわけですか。……という事はまさか――」
イザベラの推測に納得しつつ、ふと気づくヨナ。
そのヨナの言葉が発せられるよりも先にイザベラは、
「――メルメメルアやカチュアの『眼』は、この手の滅界獣のものを『再現』したもの……かもしれませんわね。あくまでも『かも』であって、現時点では断言は出来ませんけれど」
と、そんな風に返事をして肩をすくめた。
すると、回避され続けた事で怒りを覚えたのか、グリフォン頭に代わるようにして竜頭が咆哮。
漆黒の液状――ただし少し粘着性がある――ブレスが横薙ぎに放射され、地面が黒く染まっていく。
「この黒い液体は……墨?」
「墨みたいだと言われればそうですけれど、どう考えてもタダの墨などという事はありえませんわね。絶対に」
大きく距離を取りながら疑問を口にするヨナに対し、障壁でガードしながらそう答えるイザベラ。
そしてそのまま、
「まあ、障壁でブロック出来る程度ですし、そこまで凶悪なものではなさそうですけれどっ!」
なんて言いながら、赤黒い鎖を放って竜頭の口を封じる。
墨のようなブレスはそれによって停止。
滅界獣は小刻みな跳躍を繰り返してその鎖を振りほどこうとするが、
「そう簡単に振りほどけるとは思わない事ですわねっ!」
と言いながら、更に締め付けるイザベラ。
するとそこで、パイコーン頭の『角』がパチパチとスパークし始めた。
「イザベラ様、何か来ますっ! ――ロックスピアッ!」
そう警告を発しつつも、ストーンバレットのような『数』はないが、先端が鋭く尖った文字通り『岩の槍』と呼ぶべき代物を放つ魔法を発動させるヨナ。
「そのようですわねっ」
そうイザベラが返事をしながら鎖による締め付けを維持していると、放たれた岩の槍は一直線にスパークしている『角』へと命中。
「キュルァァアアァッッ!?」
という甲高い悲鳴……と言ってよいのか迷うような、なんとも言い難い声を発するパイコーン頭。
しかし、スパークは止まらず、バチィィッッ!! という一際大きなスパーク音が響いたかと思うと、そこから紫色の電撃が真上に向かって放たれた。
「上?」
ヨナは、パイコーン頭が何故真上に向かって電撃を放ったのか良く分からず、つい見上げながら首を傾げてしまう。
と、その直後、真上に放たれた電撃がまるで積集合の記号――∩という形で表現出来てしまうほどに急激に軌道を変えた。
そして、赤黒い鎖の『竜頭とイザベラとを繋いでいる部分』へと到達。
「ぐぅっ!?」
――その赤黒い鎖を粉砕し、断ち切った。
更にそこから滅界獣が跳躍。
それと同時に竜頭の口を封じていた鎖もまた消し飛び、空中を駆けるような、飛び跳ねるような、軌道の読みづらい奇妙な動きでイザベラへと飛びかかっていく。
鎖を断ち切られた反動で体勢を崩したイザベラだったが、どうにか地面に手を付くと、そのままそれを支点として後方へと宙返り。
更にその宙返り中に体勢を立て直すと、その場に魔法――ガジェットで足場を生成。
それを踏み台にするようにして真上へと跳躍した。
その動きに対応しきれなかった滅界獣は、イザベラのいない所へと前足の鋭い爪を振るい、そして空を切る。
「突撃の軌道を読みにくくしたのは良いですけれど、そのせいで勢いが損なわれていますわよ?」
なんて事を言いながら、滅界獣の頭上から、その背中へと短剣を投げつけるイザベラ。
短剣が滅界獣の背中――正確には突き出している骨のようなものへと接近した直後、ドンッという小さな爆発音と共に短剣が爆ぜ、球状の魔法陣が出現する。
「ヨナので爆発だけだと思ったんですの? 残念ですわねっ! 重圧で動けなくなるといいですわっ!」
などと、誰にともなくそんな挑発めいた言葉を発するイザベラ。
そして、言い終えると同時に、球状の魔法陣が内側が昏い光を放った。
と、次の瞬間、魔法陣から地面へと流れる黒い波動――オーラが滅界獣を飲み込むように発生、
「グゲァッ!? ゲギィッ!? ギグゥッ!?」
なんていう驚愕と苦悶の入り混じった叫びを発する滅界獣。
さらに良く見ると、滅界獣の足元――地面に小さなヒビが無数に走っていた。
「イザベラ様、これは?」
「高重力による拘束魔法ですわね。あの短剣自体がガジェットで、投げて好きな場所で発動させられるようになっているんですのよ。ちなみに対象の動きを封じるならば、突き刺さるよりも少し手前、なおかつ離れすぎても駄目という、ちょっと面倒くさい調整が必要だったりしますわ。……だから古の時代にプロトタイプで終わってしまったんですわね、きっと」
ヨナの問いかけに対し、そんな説明をしながら肩をすくめるイザベラ。
それにヨナは、
「ああなるほど、古代遺跡で発見したガジェットのひとつですか」
と返す。
「ええ。これは『この形のまま』だと、どう改良しても使いにくそうでしたので、下手に弄らずに、そのままにしてあったんですのよ」
「そうでしたか。……それで、攻撃を仕掛けても大丈夫なのですか?」
「……接近すると重力に飲まれて動けなくなりますわね。物理的な遠隔攻撃も重力によって落下してしまいますわ。一応、遠距離からの魔法攻撃なら問題ありませんけれど、ダメージを与えると同時に干渉作用によって拘束が消滅してしまいますわ」
イザベラにそんな返答をされたヨナは、額に手を当て、やれやれだと言わんばかりの表情で、
「……拘束している相手に接近出来ない上に攻撃出来ないとか、控えめに言っても、微妙すぎる性能ですね……。それもプロトタイプで終わってしまった理由なのでは……」
なんて呟くように口にした。
「おそらくその通りですわね。まったく……これを生み出した者は何を考えて、こんな風にしたのか知りたいものですわ……」
「本当ですね……」
イザベラとヨナは、拘束状態の滅界獣を見ながらそんな事を口にして、そろって呆れた表情をしてみせるのだった。
滅界獣との戦闘、もう少し短めにいく想定だったのですが、2体いると(なおかつ二手に分かれていると)どうしても描写が長くなってしまいますね……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新ですが……申し訳ありません、色々と立て込んでいる為、少し間が空く形となってしまいまして……12月21日(土)の想定です。




