第5話 伯爵の屋敷にて。思案するラディウス。
「さて……問題は残りか……」
そう呟きつつ周囲を見回すラディウス。
――人の姿を保っている時点で、既にエクリプスとの同化は終わっている。
……つまり、ヴィンスレイドが死んでも化け物になったりはしないと踏んで、真っ先にヴィンスレイドを狙ったが、どうやらその予想は当たっていたようだ。
だが、完全に硬直したセシリア以外――兵士たちの動きがおかしいな。
もしや、命令者のヴィンスレイドが死んだ事で、エクリプスの方になんらかの異常が生じている……のか?
そこまで考えた所で、ラディウスは睡眠魔法で寝かされたままのルティカの方を見る。
そして、同化が完了する前の状態であったルティカの時の状況を思い出し、たとえ同化しても異形はそこにいるはずだと考え、マリスディテクターを発動。
と、予想通りラディウスの頭に、エクリプス特有の名称が一気に浮かんできた。
――これ、あの時と同じでエクリプスさえ切り離せれば、元に戻るんじゃなかろうか……?
同化はルティカの時よりも更に進んだ状態……おそらく、エクリプスの精神と肉体が、完全に混ざり合っている状態だと考えられる。
時を遡る前の方のグランベイルでの惨劇を考えると、異形化してしまった人を元に戻すのはさすがに無理だろうが、周囲の兵士のように人の姿を保っている――同化した状態であれば、エクリプスの部分を全て切り離す――分離すればいけるような気がする。
そう結論を出した所で周囲を見回す。
セシリアや兵士たちには、ルティカのような明確な異形の部分がなかった。
――名前からある程度予測はつくが、正確な位置を確定させるのが厄介だな……
とはいえ、確定さえすれば肉体の方の分離は難しくない。
どちらかというと精神の分離の方が問題というか、どうすればいいのかさっぱりだな……
ルティカのように精神が乗っ取られる前なら肉体の分離だけで大丈夫なんだが、さすがにそれだけじゃ無理だろうし……
とりあえず方法を思いつくまで、兵士たちの方は一旦どこかに隔離しておくしかないな……
まあもっとも、セシリアの方も状況によっては、同じく隔離する必要が出るだろうが。
そんな感じで長々と思案し、とりあえずの方針が決まった所で、ラディウスは再びルティカを見る。
「……普通に起こしてもいいが、面倒だな。――クリアランス・改!」
ラディウスがそんな事を言って回復の魔法を発動した直後、
「………………う……ん……。あれ……? ここは……?」
と言いながら、ルティカが目を覚ます。
「起きたか?」
「はっ! そ、そういえば、魔法を使われて急に意識がなくなったんだったっす……。……って、どういう状況っすか!? これ!」
ラディウスの問いかけに対し、周囲を見回しながらそんな驚きの声を返してくるルティカ。
もっともな反応だと思いつつラディウスが、今までの事を話す。
……
…………
………………
「ほわー、そうだったっすか……。さすがっすね……」
「まあそんなわけで、俺はこいつらを拘束しているから動けない。だから、ルティカに2つ程やって欲しい事があるんだ」
「やって欲しい事っすか?」
「ああ。こいつら拘束出来そうな物――縄とか鎖とかなんでもいいが――を調達して来て欲しいのと、地下遺跡の牢にいる冒険者や教会の人間を連れて来て欲しい。拘束して牢に放り込んでおく。……それと、ガジェットの魔力を結構消費してしまっているから、なるべく早めに頼む」
「了解っす! すぐに行ってくるっす!」
ラディウスが説明するやいなや、ものすごい勢いで走り去っていくルティカ。
ルティカの腕もどうにかしたい所だが……と思いつつ、兵士たちと違って完全に硬直状態のセシリアを調べるラディウス。
――セキュリティシステムのあるガジェットを、エクリプスとの接続と組み合わせて何かをしているようだな……もっと詳しく調べてみるか。
動けないだけだから、ガジェットの中身を覗くのは問題ないしな。
そう思ったラディウスは、早速手袋をつけると、「マジックストラクチャー・オープン」と口にした。
第1章も、あと2話か3話で終わります(多分)