第16話 遺跡攻略。イザベラと監視の目。
「その話なら、クレリテたちも掴んでいたっすね。アーヴァスタス王国とセヴェンカーム王国の二重スパイだと。……まあ、今そのクレリテたちに、ビブリオ・マギアスとの三重スパイだった事を伝えたら、色々と繋がってきたとか言ってたっすよ」
「色々とって……。そんなヤバい人だったんだ。全然そうは見えなかったよ……。ぐむぅ……」
ルティカの言葉に対し、セシリアはそんな風に返しつつ項垂れた。
と、そこでヨナが顎に手を当てながら、
「あの、今伝えた……というのはどういう事でしょう?」
なんていう、ある意味もっともな疑問を口にする。
「あ、そうですわね。そこの説明をしていませんでしたわね。ルティカは、私たちとは別のリンク――リゼリッタたちと同じリンクなんですのよ。だからこそ、こうしてそれぞれ別々に情報伝達が可能だったりするんですけれどね」
「なるほど……そういう事ですか。たしかにこれは便利ですね。リンクごとに時間の経過が異なっている……という点については、どうしてそうなるのかがまったく理解出来ませんが……」
「それに関しては、私も理解不能なので問題ありませんわ。本当、どこがどうなったらそんな状態が成り立っているのやら……という感じですわ」
「イザベラ様でもやはりわからないのですね」
「ええ、さっぱりですわ。だからまあ……考えるだけ無駄と判断しましたわ。ヨナも、良く分からないけどそうなるとだけ思っておくのが一番ですわよ」
イザベラはヨナに対して肩をすくめながらそんな風に言った後、なにやら僅かに苦虫を噛み潰したかのような顔をして、
「いずれどうにかして『知りたい』とは思いますけれど……」
と、続きの言葉を紡ぐ。
「その顔、久しぶりに見ましたね。相変わらず分からないものを分からないままにはしておきたくないんですね?」
「当然ですわ! 存在ごと知らないのならともかく、少しでも知ってしまったものを、詳しく調べて理解しないまま放置するだなんて、落ち着かないじゃありませんの!」
「まあ、その考え自体は素晴らしいと思いますよ。でも、料理に手を出すのだけはおやめくださいね? 食材がもったいないので」
少し興奮気味に離すイザベラに対して、笑みを浮かべながらそう返すヨナ。
それに対してイザベラは、うぐっと言葉を詰まらせた後、
「……り、料理については『知らないままで良い』と、そう思っていますわ……」
などと呟くように言った。
「あ、イザベラがブレた。というか……折れた?」
「そう言えば、イザベラが料理している所とか見た事なかったわね」
セシリアとルーナがそんな風に言うと、それに続くようにして、
「食材がもったいないとまで言われるだなんて、一体どういう状態になるのでしょうか? です」
という、ある意味もっともな疑問を口にするカチュア。
「それはもう――」
「だからぁぁぁっ! いちいち答えないでくださいませんんんっっ!? というか、どうしてそう息を吐くように、次々に暴露していくんですのよぉぉっ!」
ヨナの発言に被せるようにして、イザベラが声を大にして憤慨する。
そのイザベラに対して、
「……すいません。久しぶりに『どちらにも監視の目がない所で、こうして会話する事が出来ている』もので、つい昔のクセが……」
と、ヨナが申し訳なさそうな表情そんな風に返す。
「……っ。たしかにそうですわね……」
ため息混じりながら納得の表情でイザベラがそう口にすると、
「まあ、半分はわざとですが」
なんて事を微笑しつつ言うヨナ。
「ちょぉぉっ!?」
イザベラはそんな叫び声を発した後、
「……はぁ……。まあ、それでこそ『普段のヨナ』とも言えますけれどっ!」
などと、少しヤケ気味に言い放った。
「面白いからもうちょっと見ていたいけど、どうにも気になった事があるから質問していい?」
セシリアが手を挙げながらそう言うと、
「面白いってなんですのよ……っ!?」
「質問ですか?」
と、それぞれ異なる反応を示すイザベラとヨナ。
「あ、うん。『どちらにも監視の目』ってどういう事? イザベラが監視されているのを感じた事がないんだけど」
イザベラの反応に対してはスルーし、ヨナに対してそう答えるセシリア。
「ああ、それはそうですわよ。私の方はヨナと接触する時以外は、監視の目は『偽り』で隠していますもの」
セシリアの問いかけに対し、ヨナの代わりにイザベラがそんな風に答えると、
「そんな事していたんですか? って、そう言えば最近はここにいる皆さんと行動していましたね」
ヨナが首を傾げながらそう口にする。
「ええ。ラディウスの作ったガジェットを参考にして、『目』をだまくらかすガジェットを作ったんですのよ」
頷きながらそんな事を言うイザベラに、ラディウスは心当たりがなかった為、
「俺のガジェット?」
と、そう問いかけながら首を傾げてみせた。
するとイザベラはラディウスの方を見て、
「この店に仕掛けられているガジェットと、魔軍の連中を撒いたガジェットですわ。あの術式を解析して使わせて貰ったんですのよ」
と、そんな風に説明した。
「ああ……。つまり、その『監視の目』もガジェット――魔法によるものという事か。それならたしかにそのあたりを応用すれば騙す事が出来るな。そもそも、俺も同じく監視の目を騙した事があるし。いや、今も騙している……というべきか?」
「アル様とテオ様が言うには、『そっちの監視』は、いつの間にか消えたみたいっすね」
ラディウスの言葉に対し、ルティカがそんな風に答える。
「それはそれで不気味ねぇ……。騙しているのがばれたのか、それとも手を引いたのか……」
「たしかになのです。そもそも、誰が何のために覗いていたのかも謎なのです」
ルーナの呟きに頷きつつそんな風にメルメメルアが言うと、
「継続して追ってはいるっすけど、上手く偽装されていて掴めていない感じっす」
と、返答するルティカ。
「たしか、法国の中に潜む不穏分子……でしたわよね? 少なくとも『私の知っている範囲』ではないですわね」
イザベラはそう口にしつつ、思う。
――あれ、若干『カチュアを探っていた』ような気もするんですのよね……
なんというか、カチュアが無窮の混沌から這い出して来ないように見張っていたというか……
いえ、そもそもカチュアがたびたび口にする『死にまくった過去』……
あれも詳しく話を聞くと、色々と不自然なんですのよねぇ。
そう……まるで誰かがそういう状況に、そういう状態になるよう、仕向けていたかのような……
強烈な殺意というか悪意というか……ともかく、そういったものを感じるんですのよね……
もっとも、もしそうだとしたら、それはそれでどうしてそのような事を……? という話になりますけれど。
と。
定期的に崩壊するイザベラですが、今回は一番崩壊しているような気もします(何)
まあ……それはそれとして、また次回!
次の更新も予定通りとなります、10月27日(日)の想定です!




