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第4話 伯爵の過ち。泡沫となった研究。

 ラディウスが心の中で悪態をついている間も、ヴィンスレイドは話を続ける。 


「もっとも、その『制御システム』では、私の目的としている『人がガジェットなしで魔法を使う』という物は実現出来なかったのだがな」

 やれやれだと肩をすくめてみせるヴィンスレイドに、ラディウスが言葉を返す。

「……それはつまり、エクリプスとかいう異形の魔物には、普通の魔物のように魔法を自力で使う事は出来ないって事か?」


「そういう事だ。――最近では、エクリプスの(はい)と呪物を擬似的に再現したものとを組み合わせたガジェットを作り、屋敷に出入りする商人に身に着けさせて、少しずつ侵食しつつ魔法を学習させる……という実験を行ったが……未だに何の反応もない所を見ると、どうやらこちらは失敗したようだな」

 そう言ったヴィンスレイドの言葉に、ふと思い当たる節があるラディウスは再び問いかけてみる。

「……その商人って、マーカスっていう名前じゃないのか?」


「マーカス? ……ああ、たしかにそんな名前だったような気もするな」

 首を傾げながら、記憶を辿りつつそう答えるヴィンスレイド。


 ――どうにも嫌な予感がして破壊しておいて正解だったな……。あれもエクリプスとかいう異形が含まれていたのか。

 

「まあ、そんな事はどうでもいい。しかし、やはり呪物よりも神器の方が、細かい融通が利く分、セキュリティシステムとして優秀だな。なにしろ、このようにあっさりと実験が成功したのだから! この結果には、実験を行った私自身も驚きというものだ!」

 と、ヴィンスレイドはセシリアの方を手で指し示しながら、声を大にして言い放つ。

 自らの実験が成功した事に、そしてそれを誰かに伝える事に、酔いしれている……といった感じだ。

 

 ――どうでもいいときたか。こいつにとって他人は実験の材料――被検体くらいにしか思っていないみたいだな……

 

 ラディウスが心の中でそう忌々しい言葉を呟いた所で、ニヤリと笑うヴィンスレイド。


「さて――これで講釈を終わりだ。対価としてお前の持つ情報を全ていただくとしようか?」

 冗談めいてそんな事を言ってくるヴィンスレイドに対し、ラディウスはわざとらしく両手を広げ、首を左右に振ると、皮肉たっぷりの言葉を発する。

「おいおい、一方的に語った上、薄っぺらい内容だったのに、対価がそれか? 随分とまあ高い講釈料だな。ボッタクリも良い所だ。そんなものを払うつもりはないぞ」

 

「ほう、そう返してくるか。それはつまり、お前の持つ情報、知識があれば、内容は今よりも厚く濃くなるという事だな。ああ、それを私の物とするのが実に楽しみだ! 故に……強制的に支払って貰うとしようか! 税の取り立ても領民をどう使うかも、貴族に認められた権利のひとつなのだからな!」

 熱のこもった口調でそう言い放ち、手をサッと上げるヴィンスレイド。

 

 直後、周囲を取り囲んでいた兵士だったモノが動き出――す直前、ラディウスがガントレットを下に向けて言い放つ。

 

「貴族の権利を曲解しすぎだ! ランドウェッジ・改!」


 刹那、ラディウスのガントレットからアストラルアンカーと全く同じ鎖が放たれ床に突き刺さる。

 ただし、それはアンカーとは違い、錨の部分がなく鎖も太い。

 

「そんな魔法でどうにか出来るとでも思っているのか?」

 と、余裕ぶって言うヴィンスレイドだったが、予想に反して兵士だったモノたちは、硬直したまま動かなかった。

 否。動こうという素振りは見せているものの、足が前へ踏み出せていなかった。

 

「な、なにっ!? なぜ、私の命令を受け付けないっ!?」

「いや? 命令を実行しようとはしているぞ? 単純に俺がランドウェッジで動きを封じているだけだ」

「馬鹿なっ! ランドウェッジは、自身と対象とを見えない魔法の鎖で結んで、両者の動きを制限するだけの魔法……っ! ここにいる全ての者を拘束出来るはずが……っ!?」

 ラディウスの説明に対し、わざわざ丁寧に説明し返した所で、ヴィンスレイドは気づく。

 自身もまた動けない事に。

 

「俺の魔法はちょっとばかし改造してあるんだよ。ちゃんと『改』と言っただろ?」

「魔法の改造……だと? ()の者の研究記録にそのような記述があったが、内容が不完全だった故に解析を断念した部分だ。それを何故お前が……」

 ラディウスの言葉に焦りながらそう口を開くヴィンスレイド。

 そしてふと思い出す。

「いや、まて……。そうだ、聖女が私に()の者の研究記録について詰め寄って来た時、聖女があれを書いた者の名前を口にしていた……。その名は――」

 

「ラディ――」

「ファントムブランド・改」


 ふたつの声が重なる。

 しかし、片方の声は最後まで発する事が出来なかった。

 

 それは……刃も鍔も柄も――全てが白く輝く巨大な剣にその身を貫かれ、永久に生命活動を停止させた為だ。


「余裕ぶった言動、そしてやたらと語りたがるその性格が、最初から最後まで仇になったな。最初から全力で仕掛けてきていればよかったものを。――もっとも、それでも結果は変わらなかったと思うけどな」


 倒れ伏すヴィンスレイドに対し、ラディウスはそんな言葉を投げかけた。

あっさりと倒される伯爵。まあ、油断しすぎという奴ですね。


ちなみにこの話のタイトルですが、タイトルという事もあって、あえて漢字部分に読み仮名を入れていないのですが、念の為補足しておくと、『泡沫』の読み方は『うたかた』です。

『ほうまつ』とも読みますが、ここでは『うたかた』と読みます。

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