第10話 遺跡攻略。湖底の洞窟の先。
「おそらく、これが件の洞窟ですわね」
「ああ。それを確認する為にも、早速入ってみるとしよう」
ラディウスはイザベラに対してそう返すと、穴の底――洞窟内へ向かって、ゆっくりと降下していく。
「こんな所にも、このような大きな水草が生えるものなのですね」
「こういう暗い洞窟でも育つタイプなんじゃないっすかねぇ」
リリティナとルティカがそんな風に言う通り、洞窟内にも背丈のある水草が生えており、所々視界が遮られる状態だった。
もっとも、洞窟の外に比べると少ないので、そこまで進むのに影響はないが。
「ってか、結構な長さっすね……。シェラさんのダンナさんは昔、これを息継ぎなしで進んだんすかね……?」
「たしかにそうですね……。あちらの世界なら、潜水用のガジェットを組み込んだ防護服がありますけれど、こちらの世界にも同様のものはあるのですか?」
ルティカの話を聞いたリリティナが、そんなもっともな疑問を口にする。
「いや、そんなものはなかったような……。いや、待てよ……。身体能力を向上させる魔法が組み込まれたガジェットの中に『肺活量』を向上させるものもあったな。遺跡からの発見数が少ないってんで、性能の割には希少価値が高かったはず」
「言われてみると、そういう性能に反して妙にレアなガジェットがたまにある……と、ギルドで聞いた事があるっす。シェラさんのダンナさんは、それを持っていたのかもしれないっすね」
「そうだな。あの店の品揃えを考えるとあってもおかしくはないな」
ラディウスがルティカに対してそう返した所で、
「あら? 先の方が明るくなっていますわね?」
と、そんな風に言うイザベラ。
「たしかに明るいですね。外でしょうか?」
「太陽の光ほどの明るさはないような気がするっすが……」
リリティナに対してルティカがそう言いながら顎に手を当てる。
そこにラディウスが、
「コケかなにかが発光してんじゃないか?」
という推測を口にした。
「たしかにそれが一番ありえますわね。私も良く、コケが発光している洞窟を訪れる事がありますもの」
「それって、もしかしてレヴァルタの隠れ家……隠れ街っすか?」
イザベラの発言に対し、ルティカがそう問いかけると、イザベラは肩をすくめながら、「ご想像にお任せしますわ」とだけ返事をした。
「と、そうこう言ってるうちに水面が見えて来ましたわ」
「ああ。どうやらこの上は空洞になっているようだ」
「つまり、当たりという事ですわね」
「そういう事になるな」
イザベラとラディウスがそんな風に話しながら浮上。
ザバッと水面から顔を出すと、そこはたしかにシェラが言っていた通りの空洞だった。
「たしかに垂直……以上の崖があって、これを登るのは厳しいものがありますね」
そうリリティナが口にした通り、崖の角度はもはや90度を超えており、手前に向かって迫っている程であった。
「まるで鼠返しですわね」
「あ、たしかにそうっすね。……これ、どうやって登るっすか? 見事に360度全方位こんな形状で、真上しか開いてないっすけど」
イザベラに対してそう返しつつ、周囲を見回してそんな風に言うルティカ。
そこに更にリリティナが上を向きながら、
「そうですね。水かさが増せば届きそうな程度の高さではありますが、今の水かさではさすがに無理ですね……」
と、口にした。
「天井が脆いとかでなければ、多分これでいけると思うぞ」
と言いつつ、ラディウスは地下水路から妖姫の監獄へ入る際に使った銃型ガジェットをストレージから取り出すと、そこからアストラルの鎖を真上に射出した。
そしてその時同様、天井側へ向かって鎖を収縮させ、崖の上――穴の上へと移動。
「こんな感じだな。とりあえずこれを――」
ラディウスがそこまで口にした所で、
「――ああなるほど、たしかにそういう方法がありましたわね」
なんて言いつつ、イザベラは赤黒い鎖を頭上へと飛ばし、ラディウスと同じ要領で上に移動した。
「――これを使って同じように登ってきてくれ……と言う前に、自前の鎖で登ってくるとはな……」
「フフン。なんでもかんでも頼るのは、私の性に合わないんですのよ」
肩をすくめるラディウスに、腕を組みながら少しドヤ顔でそう返すイザベラ。
そしてそのまま、
「リリティナは私がこの鎖で引き上げますわ。だから、そのガジェットはルティカが使うといいですわよ」
と、告げるイザベラ。
「だそうだ。ルティカ、投げるぞ」
「ういっす」
ルティカはラディウスに対して頷くと、投げられたガジェットをキャッチ。
それをラディウスと同じように使用し、上へと登ると、
「なかなか面白い代物っすね、これ。あ、返すっすね」
と言いながら、ラディウスへとガジェットを返す。
それとほぼ同時にイザベラもリリティナに鎖を巻き付け、そして引き上げた。
しかし、引き上げ終わったにも関わらず、鎖はリリティナに巻き付いたままで――
「ありがとうございます。でも、その……鎖が食い込んで痛いのでそろそろ解いていただけると……」
「え、ええっと、それが……落ちたら困ると思って、少し強く縛ったのですけれど、縛りすぎましたわ……。絡んでしまって解けなくなってしまいましたわ……」
リリティナに対して申し訳なさそうな表情で頬を掻きながら言うイザベラ。
……なるほど、絡んだのか……
「仕方がないっすねぇ。なら、一旦切断するっすよ。そりゃっ!」
そう言いながら鎖に向かって左手で手刀を放つルティカ。
すると、あっさりと鎖が切断され、リリティナが鎖から解放された。
「ふぅ……。ありがとうございます」
「どういたしましてっす」
リリティナとルティカがそう口にした直後、
「……な、なんですの今の……。手刀だけで鎖が切れましたわよ……?」
と、驚きの声を発するイザベラ。
「あ、それは俺が作った義手に組み込まれている魔法刃だな」
「そうそう。この間、『その鎖も切れる』ように改良したんすよ」
なんて事を言うラディウスとルティカ。
「うぐぐ……。割と強度に自信のあるこの鎖が、段々と単なる紐のようになっていきますわ……」
そう口にして肩を落とすイザベラに、
「いやまあ、実際強度はあると思うぞ。前はまったく歯が立たなかったしな」
と、返すラディウス。
「今はスパスパ切られていますけれど……?」
イザベラはちょっと恨めしそうな目をラディウスに向け、そんな風に言った。
そしてそのまま緩やかな坂になっている洞窟の奥へと顔を向け直し、
「……まあいいですわ、それよりもこの洞窟、まだ続いていますわね。それも下の方へ向かって」
と、告げた。
「この先に大空洞があれば完璧なのですが……」
「ま、このまま進んでみるしかないな」
リリティナに対してそんな風に返事をしながら、洞窟の奥へと歩き出すラディウス。
「ええ、そうですね」
リリティナがそう返しつつラディウスの後を追い、ルティカとイザベラもそれに続いた。
今回、思ったよりも会話が長くなった為、あまり進んでいませんね……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、10月6日(日)の想定です!




