第5話 遺跡攻略。杜撰と偶然。
「――しかし……だ。たしかに今の話を聞いた感じだと、『奪われた』と表現したのが良く分かるな」
「ええ。アルベリヒがソフィアさん――というか、その赤ん坊であるミディアを、最初から奪う目的で動いていたようにしか見えないわね」
「ああ。だがそうなると、わざわざ帝国軍の襲撃である事を隠しもしなかった理由が良くわからないな……。普通、帝国軍の仕業だとわからないよう偽装すると思うんだよな。偽装しない、隠蔽もしないって、いくらなんでも杜撰すぎないか?」
「あー……そうね。言われてみるとたしかに方法が雑よね……。アルベリヒの目的がミディアを奪う事だったのなら、もっとこっそりと密かにやりそうなものよね」
ラディウスの疑問に対してそう返事をしつつ、ルーナが考え込んだ所で、
「そうですね。なので、最初は帝国とゼグナムを争わせようと考えているどこかの勢力がやった偽装工作なのではないかという話もあったそうです。実際、帝国側は『部隊を動かした形跡はない』と言っていたそうですし」
と、そんな風に言ってくるリゼリッタ。
「まあ、そうでしょうね。隣国に踏み込んだ上で、母親のお腹を引き裂いて赤ん坊を奪うだなんていう外道じみた行為、正常な思考の人間だったらするわけがないもの」
「それでもなお、帝国軍の仕業であると判断したのは、確たる証拠があった……とかですか? です」
ルーナの言葉に続くようにして、カチュアがそう問いかけると、
「それが……存在していないのだわ。でも、当時は皆が帝国の仕業だと最終的に判断したのだわ」
なんて言って肩をすくめるクレリテ。
それを聞いたカチュアは、そのあまりにも想定外な返事に驚き、「ほえっ!?」という素っ頓狂な声を発する。
「……確たる証拠が存在していないのに、最終的には帝国の仕業だと判断した? 意味が良く分からないんだが……」
「……最早調べようもありませんが、おそらくその当時のゼグナムに対して、広域の『マインドコントロール』が行われていたのではないか……と、今では考えています」
ラディウスのもっともな発言に、リゼリッタがそんな風に返す。
「なるほど……そこで再び『マインドコントロール』が出てくるってわけか……」
「アルベリヒ、あるいはベルドフレイムお兄様が主犯であれば、方法こそわかりませんが、たしかにそれをする事自体は可能だったと思います。ですが、自国に対してわざわざ憎悪を向けさせる意味とは一体……」
ラディウスに続き、そう言って考え込むリリティナに、
「これも推測でしかないのですが……我が国――ゼグナムに帝国を攻撃させ、返り討ちにする為だったのではないでしょうか」
と返すリゼリッタ。
「それ、帝国が『一番最初に』レヴァルタを滅ぼした時のやり方に似ているわね……」
「だわだわ。その事をイザベラから聞いたからこそ、アルベリヒかベルドフレイムがマインドコントロールをしていたという疑惑――仮説が浮上してきたのだわ」
ルーナに対して頷きながらそんな風にクレリテが言うと、そこにリゼリッタが付け加えるように言葉を紡ぐ。
「あの『レヴァルタの事実』によって、ソフィア様とミディア様の件について、『少しだけ霞が晴れたかのような』そんな感覚がある人が出始めているのも、その仮説を後押ししていますね」
「あー、なるほどねぇ。マインドコントロールが解けかけている状況に似ているってわけね」
「はい、そういう事です」
リゼリッタがルーナの言葉に対して肯定すると、それに続くようにしてクレリテが、
「ただ……妹を――ミディアを奪った理由はさっぱりなのだわ。超広域のマインドコントロールを利用して、ゼグナムが帝国に攻撃をしかけるよう仕向けるだけならば、離宮を襲撃するだけでよかったのだわ」
と、そんな事を口にする。
「たしかにそうだな……。なんでソフィアさんのお腹を引き裂いて赤子を取り出して連れ去るなんて行為をしたのかに関しては、マインドコントロールでは説明がつかないな。普通にソフィアさんを連れ去るだけでも問題ないわけだしな」
「というか……ですです。そんな強引に取り出された赤ちゃんが生きていたという事自体が、そもそも驚きましたです」
ラディウスのもっともな発言に続くように、カチュアがそんな風に言う。
「その件に関してですが……我が国――帝国には、なんらかの理由によって未成熟な状態で産まれてしまった赤子の命を繋ぎ止めつつ、成熟させる事が出来る医療用の大型ガジェットが存在しています。なので、それを使ったのではないでしょうか?」
「そんな凄いものがあるのね……。さすがは帝国だわ……」
リリティナの説明にルーナが感嘆の声を発すると、
「そうですね。ミディア様をお救いした時に発見した資料などからも、そのガジェットが使われていたであろう事は判明しています」
と、リゼリッタが首を縦に振りながら言った。
「なるほどですです。……そういえば、そもそもどういう状況で救出されたのですか? です」
カチュアのもっともな疑問に対し、
「偶然……いえ、運命としか言いようがありませんね」
と、答えるリゼリッタ。
「というと?」
首を傾げるラディウスに、
「帝国の研究施設――正確に言うと、アルベリヒが使っていた研究施設――のひとつを破壊する作戦を行った際に、その研究施設で『実験』に使われていた多くの者たちを保護したのだわ。で、その保護した者たちの中に、ミディアがいたのだわ」
と、そう答えるクレリテ。
そのクレリテに続くようにして、リゼリッタが補足の言葉を紡ぐ。
「はい。そしてその後、ミディア様を含むその方々の健康状態などの検査を行ったのですが、そこで国王様と王妃様……つまり、ウォルフガング王とソフィア様の血を引いている事が判明したのです」
「なるほど……。そういう流れでしたですか」
「たしかに凄い偶然ね。運命だと言えなくもないくらいに」
と、納得の表情で返すカチュアとルーナ。
「運命……。偶然……か」
ラディウスはそんな事を呟きながら、何かを考え始める。
そして、そのラディウスの反応に対して、クレリテが首を傾げる。
「んん? ラディ、どうかしたのだわ? 今の話に何か引っかかる事でもあったのだわ?」
「ん? ……ああ、すまん。今の話を聞いていて、そもそもミディアが連れ去られた一件も『偶然』が発端だったのではないか……と、ふと思ってな。それで色々と考え込んでいたんだ」
そんなラディウスの返答にクレリテは意味がわからず、
「偶然が発端? それは一体どういう事なのだわ?」
と言って、更に首を傾げるしかなかった。
久々に『マインドコントロール』の登場となりました。……本当に久々です。
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、9月19日(木)の想定です!




