第4話 遺跡攻略。クレリテの妹。
翌日――
「ラディ! 持ってきたのだわ!」
クレリテがそんな声を発しながら、ラディウスの店の扉を開け放った。
が、すぐに店内にいたリゼリッタが、
「――もう少し静かに開けましょうね? 仮にも王女なんですからね?」
と、普段と微妙に違う口調と雰囲気でそう返す。
すると、クレリテはそれに対して、まるで蛇に睨まれた蛙の如く恐怖しながら頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
「ひうっ!? ご、ごめんなさいなのだわ……」
「王女……?」
店内を清掃していたリリティナが首を傾げる。
するとそれに対し、
「クレリテは、ゼグナムの王女でもあるからな」
と、ラディウスがガジェットの調整をしながら説明する。
「あ……っ! ずっとどこかで聞いた名前だと思っていましたが、そういう事でしたか……! 今まで気づきませんでした……」
驚きの表情でそんな事を言うリリティナに対し、クレリテが顔を上げながら、驚きと困惑の入り混じった顔で言葉を返す。
「……い、今まで気づいていなかったのだわ……?」
「まあ……長い間『無窮の混沌』に囚われていたわけですし、仕方がないかと……。そもそも、どこからどう見ても王女っぽさなんてありませんし」
「しれっと貶してこないで欲しいのだわ……」
「なら、せめて妹殿下くらいの王女っぽさを出して欲しいものです」
「あれはモニタ越しだからなのだわ! 仮面みたいなものなのだわ!」
クレリテは憤慨しつつも、ハッとした表情になり、
「――って、そんな事よりも聖剣! 聖剣なのだわ!」
と、声を大にして発すると、自分のストレージから蛇腹剣を取り出して、それをカウンターの上に置いた。
「これだけで良いのだわ?」
「ああ、大丈夫だ。わざわざすまんな。すぐに認証機能を追加してしまうから少し待っていてくれ」
ラディウスは置かれた蛇腹剣を手に取ると、その場で作業を始める。
「ところで……セシリアとメル、それからイザベラの姿が見えないのだわ? どこかに行ってるのだわ?」
「ああ。セシリアとイザベラは『これを更に改良したもの』を作るための素材を集めるってんで、湖の対岸の方へ行ってて、メルはカルティナの所にガジェットを渡しに行ってるところだな。メルの方は近いけど、カルティナと最終調整をする必要があるとか言っていたから、戻ってくるまでには少し時間がかかりそうだな」
「なるほどなのだわ。……というか、リリティナはさっきから何を考え込んでいるのだわ?」
ラディウスの説明に納得したクレリテだったが、今度はラディウスの横で唸っているリリティナに疑問を抱き、そう問いかける。
「あ、すいません、先程クレリテさんとリゼリッタさんが話していた『妹』……というのに心当たりがなかったもので……。というのも、私は最後のゼグナム王――ヴォルフガング王の子供は、娘がひとりだけだったと教えられていまして……」
なんていう疑問の言葉をクレリテへと投げかけた。
「そう言えば……なんだが、クレリテの妹の話って、リリティナのいる場ではした事がなかったな」
「あー……。言われてみるとたしかにそうね……」
ラディウスとルーナが呟くようにそう言うと、それにカチュアが続く。
「私なんて、クレリテさんに妹がいた事を忘れかけていましたです」
「そこは忘れないで欲しいのだわ……」
脱力しながら首を左右に振り、そんな風に返すクレリテ。
そしてそのままリリティナの方を向き、
「――まあ、リリティナが教わっていないのは、ある意味当然なのだわ。なぜなら、私に妹がいると……生きていると発覚したのは、リリティナがヴィンスレイドに拐かされて無窮の混沌に落とされた後の話だからなのだわ」
と、そう説明した。
「なるほど……。そうだったのですね」
リリティナは納得の表情でそう返事をするも、すぐに新たな疑問が湧いてきた。
「……生きていると発覚したという事は、それまでは死んでいると思われていた……という感じですか?」
「その通りなのだわ。妹は『奪われた』のだわ」
「奪われた……ですか?」
というもっともな疑問を口にするリリティナ。
そしてそれにラディウスが続く。
「その話は俺たちも知らないな。というか……良く考えたら、妹の名前も知らないな」
「むむむ……。言われてみると、たしかにずっと『妹』としか言っていなかったのだわ……」
「そう言えば、たしかにそうですね……。うっかりしていました」
クレリテとリゼリッタはそんな事を呟くように言った後、互いに頷き合う。
「――私も詳細を把握しているわけではないというか、テオドール様やマクベイン様から聞いた話でしかないのですが……妹殿下――ミディア様の母君であるソフィア様は、元からあまりお身体が強くなかったそうです。なので、ご懐妊の報せを聞いたヴォルフガング王は、子供が産まれるまでは都市部にある王宮よりも、自然豊かな山麓にある離宮で暮らした方が良いだろうと判断したそうです」
「だけど、その離宮が帝国軍に襲撃されたのだわ。父上が急いで離宮に駆けつけた時には、既に離宮は廃墟同然なまでに破壊され尽くしていて、ソフィア義母様も『腹を割かれた状態』で亡くなっていたそうなのだわ……」
リゼリッタの説明を引き継ぐようにクレリテがそう言うと、
「腹を割かれた……? ま、まさか、襲撃した帝国軍の者が、直接赤子を母親のお腹の中から取り出したという事ですか……!?」
と、驚きの表情で問うリリティナ。
「状況からしてそうなのだわ。実際、そこに――お腹の中にいるはずのミディアの姿はなかったそうなのだわ」
クレリテが頷きながらそう答えると、それに対してリリティナは、
「な、なんという酷い話でしょう……。そのような人の道から外れた行為を、帝国軍の者が――我が国の者がしていただなんて……」
と額に手を当て、沈痛な表情で呟くように言った。
「いえ、帝国軍の襲撃と言いましたが、正確にはおそらく『アルベリヒの暗躍』であると考えられています。というのも、僅かな生存者の証言をもとに調査した所、その時期に我が国――ゼグナムと帝国との国境方面に部隊を展開していたのは、アルベリヒ直下の魔導機甲師団だけでしたから」
「だわだわ。だから、リリティナが気にする事ではないのだわ。全てはアルベリヒのせいなのだわ」
リゼリッタとクレリテがそんな風に言うと、リリティナは何かを言おう口を開き……そしてすぐに閉じた。
――謝罪の言葉を口にしようと思いましたが、それはこのふたりに対して言う言葉として違いますね……
このふたりに対して言うべき言葉は……
改めて思考を巡らせ直したリリティナは、軽く深呼吸をしてから、
「……そうですね。アルベリヒ――あの外道の極みたる者は、なんとしても我が国から排除しなくてはなりませんね……。帝国の皇族の一員として、これ以上、帝国の精神を、名誉を、汚されぬ為にも……!」
と、力強い言葉で告げた。
「はい。それでこそリリティナ様です。そして、そのような考えをお持ちだからこそ、私たちはあなたに協力しようと思っているのです」
「だわだわ。帝国の全てが悪だとは私も思ってはいないのだわ。というか……そんな風に宣言したら、父上ならきっと、リリティナに対して『その意気やよし!』なんて言いそうなのだわ」
「ええ、たしかにそうですね。敵味方関係なくそういう事を言う方でしたし」
なんて話をするリゼリッタとクレリテを見ながら、リリティナは強く決意する。
――そうです。私は『変えなくては』ならないのです。
歪んでしまった帝国を……私の国を……!
と。
ミディアに関する説明が思ったよりも短く収まらなかった事もあり、今回の話はかなり長くなってしまいました……
とはいえ……途中で区切ると、どうしても微妙な感じにしかならなかったので、諦めて一気にここまでいった感じです。
(なかなか『遺跡攻略』に入れていないという状況でもありますし、なるべく一気に進めてしまいたいという思いもあったりします……)
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、9月15日(日)の想定です!
※追記
脱字修正
改行が正しくされていなかった所を修正




