第3話 遺跡攻略。聖剣と蛇腹剣。
「聖剣を作る? どういう事?」
もっともな疑問を口にしたセシリアに続くようにして、
「――クレリテを剣の聖女に仕立て上げる……のか?」
と、そんな風に言うラディウス。
「さすがはラディウスさんですね。既に予想済みでしたか」
「ま、これまでの話の流れとイザベラの『予想がついた』で、なんとなくな」
リゼリッタに対して肩をすくめながらそう返すと、
「でも、それをする意味が良く分からないんですのよね。単なるシスターとしてバークラードへ行った方が、『相手』が油断するんじゃありません?」
なんて疑問を、ラディウスの代わりに口にするイザベラ。
「そうですね。なので、バークラードへはただのシスターとして行きます」
「シスターとして行く……ですの? なら、聖剣の出番はどこにあるんですの?」
リゼリッタの返答に対し、イザベラが首を傾げながら疑問の言葉を投げかけた所で、リゼリッタよりも先に、
「あ、もしかして訪れる名目の問題? さっき巡回の話をしたけど、それだと厳しいとか?」
と、そんな風にセシリアが言った。
「そうですね。その名目で正面から堂々と訪れるのが妥当なのはたしかです。ただ……正面から堂々と訪れるのであれば、何らかの祭事が開催される為といった『他国のシスターがバークラードの大聖堂へ訪れる明確な理由』がなければ、逆に不自然さが生じ、相手に違和感をもたれる懸念があります」
リゼリッタがセシリアに対してそう告げると、
「なるほど……。言われてみると、たしかにそうですわね」
「うん、そうだね。いくら巡回だと言っても、何の理由もなく来るなんてまずありえないものね」
などと納得の表情で言うイザベラとセシリア。
「……それで聖剣が必要ってわけか。明確な理由――『新たな剣の聖女の誕生という祭事を行う』為に」
「はい、その通りです。様々なパターンを検討した結果、バークラードの近くの遺跡で聖剣が発見され、大聖堂で聖剣の儀を執り行う……というのが、一番自然な流れではないかという結論になったのです」
リゼリッタがラディウスの言葉に頷き、そんな風に説明すると、
「あー……たしかにそうすると怪しまれにくいだけじゃなくて、『標的』が必ず大聖堂へ来るっすね」
「うん。大聖堂へと引き摺り出してやれば、その間に奴の屋敷や他の場所を調べたりも出来るよね」
なんて事をそれぞれ口にするルティカとアメリア。
「なるほど、まあ大体わかった。ともかく聖剣を――正確に言うなら、聖剣と同じ仕組みを持つ剣作ればいいんだな。以前に作ろうかって話をしたし、作るだけなら問題はないぞ」
「それでいいのかという疑問はありますけれど、聖剣自体が単なる古代文明時代のセーフティ付きの武器でしかない事を考えたら、気にしたら負けな感じもしますわね」
ラディウスに続いて、そんな風に言って肩をすくめてみせるイザベラ。
「……ところで、私はこの話を聞いてしまったが良いのだろうか……」
ずっと無言だったカルティナが、少しおっかなびっくりと言った感じで呟く。
するとそれに対して、
「まあ、『護衛』の事を考えたら、今聞くか後で聞くかの違いでしかないと思うわよ」
と、そんな風に返すルーナ。
「なるほど……。って、待て……。それはつまり、護衛依頼にはその辺りの『面倒事』まで含まれていると……?」
「え? 今更気づいたの? そうだけど?」
カルティナの発言に対し、セシリアがまさに何を今更……と言わんばかりの表情で答え、それにルーナとイザベラ、更にリゼリッタまでもが頷いてみせる。
「……そうか。いや、どうも妙だとは思っていたが……」
額に手を当て、ため息をつきながらそんな事を呟き、首を横に振るカルティナ。
そして、
「だが……それであれば、なおのことガジェットを充実させておかねばならなさそうだな……」
なんて事を言い、もう一度ため息をついてから改めてガジェットを物色し始める。
「さすがカルティナさん。切り替えが早いのです。持っていくと良さそうなガジェットを教えるのです」
「あ、ああ、それは助かるが……ほどほどの値段で頼む。そこまで所持金はないのでな」
「それでしたら、この間の遺跡探索に付き合っていただいたお礼として、格安で私が作るのです」
「それは助かるが……良いのか?」
「はいです。もっとも、ラディウスさんの作ったものと比べるとワンランク……いえ、スリーランクくらい下がるのです。なので、それで良ければ……という感じなのです」
「いやいや、スリーランク下がった程度なら十分すぎるというものだ」
メルメメルアとカルティナがそんな事を話し始める。
それに対してラディウスは、
「スリーランクも下がらないと思うが……」
と呟いた。
そして、その呟きに、
「はいです。私もそう思いますです。メルお姉ちゃんの作るものは、ラディウスさんのものと比べてツーランクくらいの差だと思いますです」
なんて返すカチュア。
「ワンランクしか変わってないような……」
と口にするラディウスに、
「残念ながら、ルーナさんの方が上だと思いますです」
と、更に返すカチュア。
「そう? メルも私もそんなに変わらないと思うわよ?」
「それは謙遜し過ぎというものなのです」
ルーナの返事に、今度はメルメメルアがそう返す。
そしてそのまま、ラディウスの方を見て、
「ちなみに、クレリテさんの聖剣はどんな感じの物にするつもりなのです?」
という疑問を投げかけた。
「そうだな……クレリテが普段使っているのは……伸縮する剣か……」
ラディウスがそう呟くように答えると、
「あと、シスターの標準的な護身具である、杖とか棍棒とかも持ってるとは思うけど……見た目が剣じゃないから駄目だね」
とセシリアが言い、肩をすくめてみせる。
ラディウスはそれに対して頷きながら、
「そうだなぁ……。だが、伸縮する剣は前に蛇腹剣を作ってしまったし……」
と、そんな風に答えた所で、
「まてよ? あの蛇腹剣、あの時に色々あって聖剣のような『認証機能』をまだ付けてなかったな」
という事をふと思い出し、呟く。
「でしたら、それに認証機能を付けるだけでいいのではないですか? です」
というカチュアの言葉に対し、ラディウスは腕を組みながら、
「たしかにそうだな……。一度取りに行かないといけないが、認証機能を付けるだけであれば大した手間もかからないし、そうするのが一番良さそうだ」
と返した。
するとその直後、
「あ、ラディウスさん、蛇腹剣ならクレリテが明日持ってくるって」
「だから、取りに行かなくても大丈夫っすよ」
なんて言ってくるアメリアとルティカ。
「ん? ……ああそうか、アメリアやルティカなら向こうの世界でもクレリテと話せるな」
「そういう事っす」
納得したラディウスにルティカが頷いてみせる。
「ところで、その蛇腹剣という代物は一体どういうものなんですの?」
「大雑把に言うと、鞭のようにしなって伸縮する剣だな」
ラディウスがイザベラの疑問に対してそう答えると、
「それは少し興味深いですわね……。自分で作ってみたいのですけれど、構造を教えていただけません?」
なんて事を言うイザベラ。
「別に構わないが、ここにある素材だけじゃ作れないぞ」
「それは自分で調達してくるから大丈夫ですわ。……セシリアと一緒に」
ラディウスに対してそんな風に帰しつつ、セシリアの方を見るイザベラ。
「なんか、さらっと素材調達に巻き込まれてるし……。別にいいけど……」
そう肩をすくめながらイザベラに対して返事をするセシリア。
そして、それを見ながらラディウスは思う。
イザベラに蛇腹剣か……
どういうわけか、クレリテよりもしっくりくるな……
と。
想定よりも大分長くなりましたが、区切れそうな場所が他になかったもので……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、9月12日(木)の想定です!




