第1話 遺跡攻略。ラディウスの店。
数日後――
「この店、ひさしぶりに開けた気がするわね……。もっとも、私がこの格好をしているのもひさしぶりなのだけれど」
「まあ、カレンフォート市での一件――魔軍事変やら影将との接触やらから色々とあったからねぇ……」
久し振りに『店』を開けたラディウスの横で、ルーナとセシリアがそんな事を口にする。
ちなみに、ルーナの言う『この格好』と言うのは宿酒場での仕事着だ。
「私は始めてみたのです」
「あ、そう言えばそうね。メルももう一度着てみる?」
ルーナがメルメメルアに対してそんな風に返すと、メルメメルアは顎に手を当てて思案しつつ、
「うぅーん……。普段どんな仕事をしているのかちょっと気にはなるですが……今はやめておくのです。ラディウスさんのお店の方を手伝う必要があるのです」
と、そう答えた。
そしてそれに続くようにして、
「それにしてもこの店……相変わらず見事なまでのセキュリティですわね……。ウチの部下が、これにあっさりやられたのが懐かしいですわ」
なんて事を言いながら店内を見回すイザベラ。
「そう言えばそうだったのです。ラディウスさんに言われて確認しに来た時に見たのです」
「この店は工房も兼ねていて、色々な物が置いてあるからな。泥棒避けに設置しておいたんだが、『そっち』の人間にも有効だとは思わなかった」
メルメメルアに続くようにして、そんな事を口にするラディウスに対しイザベラは、
「……泥棒避けのレベルではありませんわね、明らかに。皇帝宮殿のセキュリティガジェットよりも凶悪ですわ」
などとため息混じりに言って肩をすくめてみせた。
と、そこで、
「あ、ホントに開いてるっすね」
なんて言う声が聞こえる。
そして更に、
「ルーナが昨日の夜言ってた通りだね」
という声が続く。
「ルティカさんにアメリアさん?」
「わざわざ確認しに来たの?」
メルメメルアとルーナがその声に対してそう返すと、
「半分はそうっすけど、半分はウチの姫様からの伝言というか、質問を代わりに聞きに来たっす」
とルティカが答える。
「質問? もしかして、例の『異端審問』に関連する話ですの?」
「うん、そう。イザベラの情報で概ね方針が固まったんだけど、少し情報が不足している部分があってね。そこについてイザベラが知ってないかと思って聞きに来たんだ」
推測で問うイザベラに対し、アメリアが頷きながらそう返事をする。
「まあ、分かる範囲の内容であれば答えられますけれど、一体なんの情報が不足しているんですの?」
「ほら、標的はセヴェンカームの王都にいるじゃないっすか。あの辺りの詳しい情報が欲しいそうっす」
「あの辺りは『異端審問』を行った回数が少ないからね。あまり情報がないんだよ」
イザベラの問いかけに、ルティカとアメリアがそれぞれそんな風に返すと、
「ああ、そういう事ですの。それでしたらまあ、ある程度教えられますわね」
と言って、ルティカとアメリアに対して、あれこれと説明を始めるイザベラ。
「ルティカもアメリアもこっちに来てるけど、ルーナの店、大丈夫なのかな?」
「まだ酒場の方は開店前だから大丈夫だと思うわよ。宿の方はひさしぶりに私が清掃しておいたから、特にする事ないし」
セシリアの疑問にルーナがそんな風に答えると、店の奥からカチュアが出てきて、
「納得しましたです。ルーナさんがその格好をしているのは、そういう理由もありましたですかです」
と、そんな風に言った。
ルーナはそれに対して「そういう事」と返した後、セシリアへと問いの言葉を投げかける。
「むしろ、セシリアは聖堂の方を放っておいて大丈夫なの?」
セシリアはそのルーナの問いかけに、
「あ、うん。『凄く上の方』から『聖女セシリアはラディウス卿の支援を行う事』っていうお達しが来たからね。私はそれに『従っているだけ』だよ」
などと腕を組みながら答える。
「……その『凄く上の方』というのは、もしかして、教皇――アルヴィンスですの?」
「誰からなのか直接伝えられはしなかったけど、100%そうだと思うよ」
イザベラの問いかけに、セシリアが100%と断言しつつ返事をする。
「なるほどねぇ……」
「セシリアという『聖女』を『表立って』動かすだなんて、色々な思惑を感じますわねぇ」
頷きながら納得するルーナとイザベラに続くようにして、
「とはいえ……です。あの遺跡の攻略にはセシリアさんがいた方が楽なのはたしかなのです。主に戦闘の面で」
そんな事を口にするメルメメルア。
「それ、遠回しに戦闘以外では役に立たないって言ってない? いやまあ、否定は出来ないけど」
ジトッとした目をメルメメルアに向けながらそう言いつつも、肩をすくめてため息をつくセシリア。
「そこは否定出来るようにして貰いたいものだな……。――というわけで、セシリアにはガジェットの基礎を学び直す意味を含めて店番と素材集めをして貰うとしよう。とりあえず、店にあるガジェットの性能と仕組みについて全部覚えてくれ。あと、使っている素材も」
「えっ!? 全部!?」
ラディウスの発言に驚きの表情でそう返すセシリア。
そんなセシリアに対し、
「そりゃそうだろう。客が来た時に説明出来なかったら困るだろうに」
と言って肩をすくめてみせるラディウス。
「そ、それはまあ……たしかにそうかもしれないけど……」
セシリアが頬を人差し指で掻きながらそう言って、店の中に多数置かれているガジェットを見回し、「多くない……?」と呟くように口にした。
「そうですか? です? ウチで扱っている商品よりは少ないと思いますですよ」
「じゃ、じゃあ、カチュアにも手伝って貰う感じで……」
カチュアの発言に対し、セシリアがそう言うと、
「それは構いませんですが、素材の方の対応がありますですので、常にお店にいられるわけではありませんですよ? 最終的にはセシリアさんが覚えないと駄目ですです」
と、そんな風に返すカチュア。
「まあ、そろそろしっかり覚えた方がいいと思うわよ」
「む、むぅ……。――というか、ルーナとメルは?」
ルーナの言葉に対し、セシリアがそう返すと、
「ガーディマの遺跡を攻略するために必要になりそうなガジェットを作るのに、ラディウスひとりだと時間かかるから、私とメルはそっちを手伝う感じよ」
「はいです。あ、でも、セシリアさんが素材集めに行っている間は、私やルーナさんが代わりに店番をするですよ」
なんて答えるルーナとメルメメルア。
「素材集めも素材集めで大変なんだけど……。良く分からないものもあるし……」
「そっちは、場合によっては俺も同行するから心配するな」
不安げに言ってくるセシリアに対してラディウスがそう告げると、セシリアは、
「あ、なるほど。それならまあ……うん、いいかな」
と、ちょっとだけ嬉しそうな表情でそんな風に返す。
それを見ていたルーナとメルメメルアが顔を見合わせた後、セシリアの左右から腕を掴み、
「さあ、セシリアさん! バンバン説明していくですよ! バンバン!」
「ええ、そうね。私たちが片っ端から教えるから、しっかり覚えるのよ」
なんて言いながら店の端へと連れて行く。
「ま、待って? なんでそんなに鬼気迫る感じなの?」
「単にセシリアにさっさと覚えさせるためよ?」
「その通りなのです。他に他意はないのです」
ちょっとばかし恐怖しながら言うセシリアに、ルーナとメルメメルアはそんな風に返す。
「それ、他意がある感じしかしないんだどっ!? ねぇ!?」
というセシリアの声に、ルティカとアメリアに説明していたイザベラは、ルティカやアメリアと顔を見合わせた後、3人揃って、やれやれだと言わんばかりの表情で苦笑するのだった。
ひさしぶりにラディウスの店です……(そして、しれっと節が変わりました……)
さて、次回からようやく元通り……ではあるのですが、そうするとまた少し間が空いてしまう為、次回は1日前倒ししまして、9月4日(水)の更新を予定しています!




