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第3話 伯爵の研究。道を示すは。

 ドサリ、という音と共にルティカが床に倒れる。

 だがラディウスの方はというと、平然と立っており特に変化はない。

 

「魔法が効いていない……だと?」

 ここに来て初めて、ヴィンスレイドの顔に焦りの色が見えた。

 

「防御用の魔法は既に展開済みだ。対象を無力化するタイプの魔法を、一通り防げる奴をな」

 そう告げながらラディウスはマリスディテクターを再発動。

 

 ――『心魂(しんこん)()霊尾(れいび)』か。ようやく姿を見せたな。

 セシリアの服の裾あたりが妙に膨らんでいる感じだったが……どうやら、尻尾を隠すためだったようだな。

 まさに文字通り、尻尾を見せたって奴だ。隠蔽が解かれた事で、魔法の――魔力の流れが一目瞭然だ。

 うーん……? セシリアの持つセキュリティ機能付きガジェットであるネックレスへ、魔導波を介して何かを送っているようだが……

 

 ラディウスがそんな事を考えながら、セシリアの状況を分析していると、

「――お前の持つ知識は優れている。出来れば無傷で無力化して捕らえたかったのだが……さすがに難しそうだ」

 というヴィンスレイドの声と共に、パチンという指を鳴らす音が響く。

 と、その直後、執務室に兵士たちが雪崩込んで来た。


「……最初からこうすれば良かったんじゃないのか?」

 ラディウスは分析を中断すると、肩をすくめながら皮肉めいた言葉を投げかける。


「そちらの女冒険者のように、エクリプスに無理矢理『()わせる』と、精神を同調、同化させるまでに時間が食う上に、同化が完了する頃には、喰わせた相手の記憶の一部が破壊されてしまうのでな。お前の知識を完全な状態で得るために、聖女に対して行った方法と同じ手段を使いたかったのだよ」

 ヴィンスレイドが腕を組みながら、そんな風に言って返してくる。

 

 ラディウスがもしやと思った直後、マリスディテクターが反応。奇妙な文字列が大量に頭に浮かんできた。

 そう、それは周囲に異形の魔物の名――ヴィンスレイドが『エクリプス』と呼んでいた魔物の名だ。

 

「……既に兵士たちを喰わせていたのか……。それにしては普通に見えたが……」

 ラディウスがルーナと共に屋敷の近くへ来た時の事を――兵士たちの会話を思い出しながら、そう呟くように言うと、

「外部の人間と接触する可能性のある場所には、不自然に思われないように、完全に乗っ取りが終わった――同化が完了したエクリプスのみを配置していたからな」

 なんて事を言って返してくるヴィンスレイド。


「……ちょっと待て、その口ぶり……まさか、この屋敷の人間全てを……!?」

「ああ、その通りだ。もっとも最初は耐えきれずに壊れてしまった者や、異形化してしまった者ばかりで、処分に困るわ、逃げ出そうとする者も出るわで、大変だったがね」

「外道としか言いようがないな……」

 周囲の兵士――異形の魔物に、肉体も精神も奪われた者たちを見ながら、吐き捨てるように言うラディウス。


「道に沿って研究しているだけでは、『人が魔法を使う』という私の目的へと辿り着くのは不可能だ。今は、道を外れてでも突き進む必要があるのだよ」

「道を外れるという行為は、不可能だという固定観念を破るためには必要な時もあるが……人の道を――倫理や道徳を捨ててまでする事ではない。そんな事をすれば、その先にあるのは『滅び』のみだ」

 ラディウスは時の遡る前の世界の事を思い出しながら、ヴィンスレイドの言葉に対し、忌々しげにそう返す。


「……まるで、自らそれを見てきたかのような言い方をするね?」

「……それを語るつもりはないけどな。というか、よくまあ今までバレなかったものだ」

 その話はするつもりがないと言わんばかりに話を無理矢理変えるラディウス。


「ふ――私と同じように、『道を外れている者』はそれなりにいるのだよ。私の研究の行き詰まりを打開出来たのも、それらの者たちの繋がりがあってこそだしな」

「行き詰まり……さっき言っていた事か」

「そうだ。最初はどうにもならなかったのだが……呪物や神器が古代人のセキュリティ装置でしかないという、とある人物の研究記録を手に入れた事で道が開けた」


 ――呪物や神器が古代人のセキュリティ……?

 …って、おいまて……それは……その、とある人物は……


 ヴィンスレイドの言葉に嫌な気しかしないラディウス。

 そんなラディウスの事など気づきもせずに、

「――そう、私は彼の者の記録からひとつの着想を得て、『制御システム』を生み出したのだ。そのお陰でこのように人の形を保ち、さらに自らの意思を持ちながらも、私の指示通りに動く事が可能な『駒』を生み出す事に成功したのだ。まあ、壊れた者や異形化した物も『別の駒』としては使えるがね」

 と、周囲の兵士だったモノたちを見回しながら、続きの言葉を口にするヴィンスレイド。

 

 最早、ラディウスは確信していた。とある人物が誰なのかを。


 ――ああ……なるほどな。だから俺の書いた物が遺跡の書庫にあったんだな……

 くそっ! その『とある人物』は、どう考えても俺じゃねぇかよ……っ! これもまた俺のせいって事かよ……っ!

 

 ヴィンスレイドの言葉に、ラディウスは心の中で悪態をついた――

なかなかダークな雰囲気が強くなってきましたが、このままダークな感じで進んでいく様な展開にはならないです(予定では)

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