第10話 偽帝。ガーディマの遺跡。
「到着するのを待っている……ですの?」
「それは一体なんなのですか?」
イザベラとリリティナがそんなもっともな言葉を口にすると、
「到着してから説明せねば伝わらぬ。……が、到着に時間を要するゆえ、こうしてその間に必要な情報を語っている」
なんて返事をするデュオロード。
「それはいつ届くのです?」
メルメメルアがそう問いかけると、デュオロードは傍に置かれてる、長方形の箱をふたつ重ねたかのような形状をしたガジェットへと視線を向けた後、肩をすくめながら、
「……どうやら、もう少しかかりそうだ。お前たちがアルベリヒの配下を撹乱しまくった事で、双蛇の反転塔に配備されている者まで外に駆り出されてしまったのでな。少しばかり時間がかかるのだよ」
と言って嘆息してみせた。
「そいつはすまなかったな。だが、そんな風に言うという事は、双蛇の反転塔に保管されているという遺物の類が関係している……という事でもあるな」
腕を組みながらそんな風に言うラディウスに対し、デュオロードは、
「ま、そういう事だ」
と言って頷く。
「あそこの深層に収められているものは、取り出すのが大変なのでな」
「まあ、たしかにそんな感じはしましたわね」
デュオロードの言葉に、イザベラが顎に手を当てながらそう納得の言葉を返す。
「だが、そうだな……。アレの話をする為に、お前たちには先にやっておいて貰わねばならんものもあるか……。ふむ……ここはまずはそちらを話すとしよう」
何かを考えながらそんな風に話してくるデュオロードに、
「先にやっておくもの……ですか? それは一体?」
と、首を傾げながら問うリゼリッタ。
「うむ。『向こうの世界』にあるガーディマの『上級士官試練場』については知っているか?」
「……『上級士官試練場』……ですの? 聞いた事がありま……せ……ん? んん?」
デュオロードの問いかけに対し、イザベラは返事をしながら、ふと引っかかりを覚えた。
するとそこで、
「もしかして、グラスベイルの街の近くにあるガーディマの遺跡……です?」
という問いの言葉をメルメメルアが投げかけた。
「ほう、知っていたか」
「知っていたわけではないのです。あそこを実際に探索した時に、その構造から、まるで試練の場であるような感じがしたのです」
デュオロードに対して首を横に振って否定しつつ、そう答えるメルメメルア。
「なるほど、既にあの場所を探索していたか。ならば話は早い。――やっておいて貰わねばならないのは、まさにそれだ。ただし『探索』するだけではなく、『攻略』する必要があるがな」
「攻略……。つまり、最深部に何かあるというわけか」
デュオロードの言葉を聞いたラディウスが、顎に手を当てながら呟くように言う。
するとデュオロードはそれに頷き、「その通りだ」と、短い同意の言葉を口にした。
「……そこに何があるのかは、言うつもりがないんですわよね?」
「当然だ」
イザベラの発言にそう返して両手を左右に広げてみせるデュオロード。
「ま、そうですわよね」
イザベラがそんな風に呆れ気味の声で返事をした直後、視界が切り替わった。
「――で、どうしますの?」
「まあ、攻略するしかないんじゃない?」
イザベラの問いかけにセシリアがそう答えた所で、
「何がですです?」
と、事情を知らないカチュアが問いかけてくる。
そんなカチュアにラディウスたちがデュオロードとの会話について、軽く説明すると、
「なるほど、そういう事ですかです。でしたら、あのガーディマ遺跡を攻略するしかありませんですね」
と、納得の表情で告げてきた。
「ま、そうだな……。もっとも、向こうの世界を使った『相談』とかは出来ないから、かなりぶっつけ本番な所があるが……」
「メルが一度結構奥の方まで言っているようだし、どうにかなるとは思うけど、一応準備して行った方がいいわね」
ラディウスに続いてルーナがそんな風に言うと、イザベラが頷きながら、
「そうですわね。……というか、本当はヨナも連れて行くのがいいのですけれど、都合よくあの懐中時計型のガジェット――マグナ・ヒストリアが手に入るわけでもありませんし……」
と言って頬に手を当ててため息を吐いた。
しかし、イザベラはそこでふと思いつき、
「……って、そう言えば持っていそうな――いえ、ほぼ持っているであろう人物に心当たりがありますわね……。そいつを始末してしまえば手に入るやも……」
なんて事を口にする。
「始末するってサラッと言うあたりがとんでもないのです……。というか、明らかに裏切り行為っぽいのです」
「それ、大丈夫なの?」
メルメメルアとセシリアがそんな風に言うと、
「別に問題ありませんわ。先程、デュオロードが言っていましたわよね? 『魔軍事変』という実験を強行した者たちがいる……と」
と、そんな風に答えるイザベラ。
「ああ、うん。たしかに言ってたね」
「その関係者であれば、上手く始末しても誤魔化しは効きますわ。『レミィ』と同じように」
セシリアに対してそうイザベラが言うと、
「ああー……そういう事ね。たしかにビブリオ・マギアス内の不穏分子ならば、倒したとしてもどうにか出来そうね」
と、ルーナがセシリアに代わって返事をした。
「まあ、本当は無関係な者が始末するのが一番良いのですけれど、そんな役を任せられる無関係な者などいませんし……」
イザベラがそうため息混じりに言うと、
「ふっふっふ……。そこは心配無用なのだわ! だわ!」
と、唐突にクレリテがそんな声を発する。
それに対して、
「あ、クレリテ、居たんだ」
と返すセシリア。
「居たのだわっ! というか、ずっと居るのだわっ!」
クレリテは地団駄を踏みながらセシリアに対してそう返すと、
「そ、れ、よ、り、も! その何者かの相手はこっちに任せるのだわ! 『異端審問』として強襲すればいいのだわ! ラディたちは攻略の準備をしておくといいのだわ!」
なんて事を続けざまに言い放ち、イザベラの方を向いてみせた。
「異端審問……。なるほどですわ、たしかに方法――手段として一理ありますわね……」
「アリアリなのだわ。だから、そいつの情報を教えるのだわ」
頷くイザベラに対し、腕を組みながらそう告げるクレリテ。
イザベラは少しだけ考える仕草をして見せた後、
「わかりましたわ。と言っても、大した人物でもなくて――」
と切り出し、クレリテに対して『情報』を伝え始めるのだった。
想定よりも早く書けたので、本日更新しました!
次の更新は、まだ1日1話かけるか若干微妙な所がある為、8月31日(土)の想定です……
ただ、その次からは平時通りの更新タイミングに戻れると思います。




