第8話 偽帝。イザベラとデュオロード。
驚きを隠せないイザベラに対し、
「それはそうだろう。直接顔を合わせた事はないのだからな。だが、顔を合わせずに接触はしている」
と、やれやれと首を横に振りながら告げるデュオロード。
「……ヴィンスレイドにあのガジェット――マグナ・ヒストリアの端末とやらを渡した事、そして向こうの世界を把握している事を踏まえて考えると、向こうではビブリオ・マギアスの幹部をしている……って所か?」
ラディウスがそんな推測を口にすると、
「は……っ!? え……っ!?」
と、素っ頓狂な声を発しながらラディウスとデュオロードを、驚きの表情のまま交互に見るイザベラ。
「ほう、すぐにそこに行き着くとはさすがだな。どの地位なのかは明かすわけにはいかぬが、その通りだ」
デュオロードはラディウスの方を見て歓心しながらそう告げた後、イザベラの方へと顔を向け直し、
「……時にイザベラよ、お前がカチュアについて述べた内容……あれでは『誤魔化している』のがバレバレであったぞ? 私が追加で説明していなかったら、今頃お前とカチュアは無窮の混沌に放り込まれていた所だ」
なんて事を続けて口にした。
「うぇっ!? な、なぜですの!? 偽装は完璧だったはずですのに……っ!」
「――完璧すぎるのだ。不確定な事象に対して完璧な偽装をするのは、それなりの知識と経験を持つ相手には、逆に見破られかねない。無論、そうではない相手に対しては、不完全な偽装は怪しまれるだけである事もまたたしかだ。……要するに、相手がどういう人物なのかを考え、その人物に合わせて偽装の度合いを調整せねば、見破られやすくなるのだよ」
イザベラに対して、そんな事を淡々と告げるデュオロード。
「うわぁ……。さすがは皇帝やアルベリヒの内側に入り込んでおきながら、あれこれと画策しているだけはある……といった感じだね」
呆れ気味にそう口にしたセシリアに続き、
「そうね……。でも、どうしてイザベラの虚偽報告を援護するような行為を?」
という、もっともな疑問を投げかけるルーナ。
「なに、『幻軍の将』には、まだまだ健在であってもらわねば困るのでな。エル・ガディアのためにも」
「エル・ガディアのため……? 私たちの世界へと転移してきたエル・ガディアは、既に存在していないわよ? まさか、皇帝と同じように蘇らせるのがあなたの目的だとでも?」
デュオロードの発言に再び疑問を抱いたルーナが問いかけると、
「それは少し違うな。あちらの世界へと転移したエル・ガディアは既に異なる国へと変わり、かつてエル・ガディアであった事は、とうの昔に忘れ去られているようだ。そして……それはあちらの世界へと転移した民の決断だったのであろう。であれば、私は同じ国の民としてそれを尊重する。――ここで私が言うエル・ガディアとは、『あちらの世界へと転移しなかった』地域の事だ」
と、そんな風に告げるデュオロード。
「あちらの世界へと転移しなかった地域……です?」
「今は『シルスレット辺境域』……と、そう呼ばれている地域だ」
首を傾げながら問うメルメメルアに、デュオロードがそう答える。
それに対して今度はラディウスが、
「ん? シルスレットは、かつてのウィンザーム領じゃないのか?」
という問いの言葉を投げかける。
それはエレンフィーネから聞いた話で、『シルスレットに存在するヴェルガノの古城に、ウィンザームの紋章がある』という事を知っていたがゆえの疑問であった。
「ふむ……。おそらくヴェルガノの事を言っているのであろうが、辺境域はあちらではない。湖の西側だ。――エレンジール王国領の奥地……といった方が伝わるか?」
そう言ってきたデュオロードに、ラディウスは、
「なるほど……な。ビブリオ・マギアス――魔軍の本拠地とも言うべきものがあの辺りにあるという話は、前々から噂として知っていたが、そういう繋がりがある……と、そういうわけか」
と、そんな風に返しながら、肩をすくめてみせた。
「ほう、そのような噂があるとはな……。それは私も把握していなかった。イザベラですらも本拠地については知らないはずなのだが……」
興味深げにそう口にしつつ、イザベラとラディウスを交互に見るデュオロード。
「そうですわね。私は知りませんわよ。……まあ、幻軍の将として得られる情報から、その辺りにありそうだという推測は立てていましたけれど」
「ふむ……。逆を言えば、推測が出来る程度に情報が出回っている……という事か。まあ、ビブリオ・マギアスも魔軍も足並みが揃っているとは到底言い難いからな。魔軍事変などと呼ばれている『実験』を強行した連中など、その最たる例だ」
イザベラの言葉を聞いたデュオロードは、腕を組みながらそう呟くように言い、やれやれだと言わんばかりの表情で首を横に振ってみせた。
「……何だか良く分からないけど、あっちにも色々あるみたいだね?」
「ま、身内にスパイを送り込むなどという愚かな事をしている者もいるくらいだからな」
セシリアの言葉にそう返しつつ、イザベラの方を再び見るデュオロード。
「……そうですわね。何度か送り込まれてきましたわね。全て上手い具合に消えて貰いましたけれど」
などとデュオロードに対して返事をしながら、セシリアへと顔を向けるイザベラ。
「あー……なるほどねぇ。あのレミィとかいう『副官』も『そう』だったって事だね? というか、イザベラの素を知った今にして思えば、妙にあの『副官』に対しては扱いが素っ気ないというか、冷徹な感じがしていたけど、そういう人物だったから……と、そう考えれば納得だよ」
「ええ、そういう事ですわ。私、『敵』にはそんなに甘くはないんですのよ」
セシリアの言葉に対し、イザベラは腕を組みながらそんな風に返す。
「それは私もそうだ。イザベラよ、もしもお前が私と敵対するというのであれば、私は即座にお前とカチュアを無窮の混沌へと放り込むべく動くであろう」
「……それはこの上ない程の『脅し』ですわね……。本当に」
ニヤリとしながら告げるデュオロードに対し、イザベラがため息混じりにそう返すと、リリティナがそれに続くようにして、
「ちなみに、その『脅し』は『本題』に対して……という事ですか?」
という問いの言葉を投げかけた。
「ふむ? ……どう受け取るかはそちらの自由……とだけ返しておこう」
デュオロードは投げかけられた問いに少しだけ考える仕草をした後、そう返す。
リリティナはそれに対して軽く目を閉じ、ため息を軽くついてから言葉を紡ぐ。
「……そうですか。わかりました」
「でしたら、その『本題』の話に戻らせていただきますが……」
リリティナはそう前置きをすると、一呼吸置いてから一気に、
「――デュオロード卿。あなたがガーディマの復活を阻止したいというのは分かりました。今まで疑問だった所もかなり分かりました。ですが……結局の所、あなたが私たちに対し、具体的に何をさせたいのかが未だに良く分かりません。あなたがふたりを倒す事で止められるのならそれでも構わないという言い回しを使ったのは、それ以外にやろうとしている事があるからだと思いますが……」
という疑問の言葉を投げかけた。
色々と伏線回収が続いています……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、8月18日(日)の想定です!




