第7話 皇帝宮殿。足音と探索と目録と。
とりあえず他の場所を調べないと何とも結論を出しづらいという事で、部屋の外へ向かう事にした3人。
「特に鍵はかかっていないようですわね」
イザベラはそう呟きながらドアをわずかに開け、慎重に部屋の外を窺う。
すると、部屋の外は通路になっており、右手側は近くに階段があり、左手側は別の部屋のドアがあった。
「外は……通路のようですわね。左には別の部屋が、右には階段がありますわ」
「ラディウス様のガジェットは、何かを停止させている感じはありませんね。この付近にはセキュリティガジェットの類が一切ないようです」
「そうなんですの? ガジェットの管理と保管を担っている場所なので、セキュリティガジェットが大量に配置されているものだとばかり思っていましたわ」
リゼリッタに対してそんな風にイザベラが言った直後、
「足音です。こちらに近づいて来ていますね」
と、ヨナが告げる。
「さすがに耳がいいですわね。私には聞こえませんわ」
そんな風に言うイザベラに、
「そこまで負けたら話になりませんから」
なんて返すヨナ。
そして、
「とりあえず、ドアは閉めてしまいましょう。もう少しこっちへ来れば、閉めていても聞き取れますから」
と言った。
それに対してイザベラは、「了解ですわ」と返して、静かにドアを閉ざす。
「……こちらへ着実に近づいて来ていますね。この部屋に入って来るかもしれないので、一度隠れていてください。私だけならば、ギリギリからでも隠れられますし」
続けてそんな風に告げてくるヨナに、イザベラとリゼリッタは頷いて、ドアがギリギリ見え、なおかつドアからは死角になる場所へと隠れた。
ヨナは緊張しつつ、通路を歩く足音に耳を澄ませる。
……しかし、幸いというべきか、近づいてきた足音はイザベラたちのいる部屋を素通りしていくだけだった。
ホッとしたヨナは、ドアを少し開けて去っていく人物の後ろ姿を確認しながら、手で『問題なし』というサインを送り、イザベラとリゼリッタを呼び戻す。
「どうやら、ここに用があったわけではなさそうですわね」
「ですね。後ろ姿を確認した感じ、見張りのような格好でした。おそらく巡回要員だったのではないかと……。ただ……普通こういう所は、何かあってもいいように、ふたり一組で巡回するものだと思うのですが……ひとりだったのが気になりますね」
イザベラに対してそんな風にヨナが言うと、
「それだけ人手が足りていない状態になっている……という事なのでは?」
と、推測を口にするリゼリッタ。
「まあ、そう考えるのが妥当ですわね。そして、この辺りはそこまで重要な場所ではない……という事なのではないかと思いますわ。重要な場所であるのなら、人手が足りていなかろうと、人数を減らしたりはしないはずですもの」
「なるほど……。たしかにそうですね。だとしたら、この辺りは警備が薄そうですね。このまま外に出ますか? 今の見張りの他には、足音も物音も聞こえませんし」
イザベラの発言に納得したヨナがそう返すと、
「そうですわね。今がチャンスというものですわ。今の見張りが来た方――階段のある方へ行ってみるとしますわよ」
と、答えるイザベラ。
ヨナとリゼリッタはそれに対して無言で頷き、そのまま3人はそっと部屋の外へと出た。
そして、見張りが来た方へ向かって静かに歩き出す。
「階段で他の階へ行くか、このままこの階を調べるか……ですね」
すぐに辿り着いた階段の所で、そんな風に言うリゼリッタ。
「下は……なんだか少し暗くないですか? この階や上に比べて」
そう言ってイザベラの方を見るヨナに、イザベラは顎に手を当て、
「そうですわね。下は……ガジェットの保管庫の類な気がしますわ。盗人にとっては重要度が高いでしょうけれど、私たちにとっては重要度が低いですわね」
と、そんな推測を返した。
「若干ですが、ラディウス様のガジェットが下や上に対して働いているので、下と上にはセキュリティガジェットがありそうですね」
リゼリッタがそんな風に言うと、
「だとしたら、まずはまずはこの階を調べてみて、何もなさそうなら上へ行く……という流れが良さそうですわね」
「では、このまままっすぐ進みましょうか。物音ひとつしないので誰もいなさそうです」
イザベラとヨナがそう言って階段を後にする。
そして少し進んだ所で、
「部屋が並んでいますね……。先程と変わらず物音のする部屋は、見える範囲にはありませんが」
と、ヨナ。
口にした通り、通路にはドアが一定間隔で並んでいた。
「見張りもセキュリティガジェットも存在しないという事は、あまり重要視されている部屋ではない可能性が高いですわね。とはいえ……一応、一番手前の……この部屋を覗いてみますわよ。――罠とかはなさそうな気がしますけれど、どうなんですの?」
イザベラがそう言ってヨナの方を見ると、ヨナはイザベラの目の前にあるドアへと駆け寄り、軽く調べただけで、
「これは、何も仕掛けられてはいないと断言出来ますね。鍵もかかっていません」
と返した。
「だとしたら、仕掛ける必要すらない――つまり、重要視されていないという可能性が高まりましたわね……。まあ、開けてみますわよ」
イザベラはそう言って、そっとドアを開けてみる。
当然といえば当然ではあるが、部屋の中は真っ暗だった。
ここには誰もおらず、何も仕掛けられていないという事は既に分かっているので、イザベラは躊躇なく照明のガジェットを使って中を照らす。
「ここは……書庫……でしょうか?」
イザベラの横から、ガジェットに照らされる部屋の中を覗き見ながらヨナがそんな風に言う。
イザベラはガジェットの光を動かして部屋全体を確認すると、
「――あるいは書類保管庫ですわね」
と返した。
そしてそのままドアを大きく開いて、部屋の中へと足を踏み入れる。
「重要な場所ではないようですけれど、一応どういうものが収められているのかの確認はしておいた方がいいですわね」
と言いながら、イザベラは部屋の中に並ぶ本棚へと足を向ける。
「――これは……ここで保管しているガジェットの目録……のようなものでしょうか? ガジェットと思われるものの名称や、遺跡のある場所などの情報が延々と書き連ねられています」
イザベラより先に別の本棚に並んでいた本を手に取り、中を確認したリゼリッタがそんな風に言うと、
「そうですわね。たしかにそれっぽい感じがしますわね」
と、イザベラが手近にあった本を開き、中を確認しつつ答える。
「――この先に並んでいる部屋は、おそらく全て目録の保管庫なのではないかと」
「えっ!? そんなにガジェットがここにはあるんですか!?」
リゼリッタの推測に対し、ヨナが驚きの声を上げる。
「まあ、帝国の領土の広さと歴史の長さを考えれば、このくらいあってもおかしくはありませんわよ。これなんて、500年前の目録と思しき代物ですもの」
なんて返しながら、ちょうど開いている本をヨナに見せるイザベラ。
「ご、500年前ですか……さすがは帝国といった感じですね……」
更に驚くヨナに続くようにして、
「歴史だけなら、我がゼグナムも同じくらいなのですが……」
などと、ちょっと不満そうな様子で口にするリゼリッタ。
「なんでそこで唐突に張り合うんですのよ……」
イザベラは呆れ気味にそう返しつつ、やれやれと首を横に振ってみせた後、手に持っていた本――目録を本棚へと戻し、
「それはそれとして……。これはリゼリッタの言う通り、この先に進んでも目録しかなさそうな気がしますわね。もう少し先へ進んでみて、それでも同じような部屋が続くようであれば、上の階へ行った方が良い気がしてきましたわ」
と、そんな風に告げるのだった。
……上手く句切れそうな所がなかった為、今回も大分長くなってしまいました……
さて、次の更新なのですが……所用により7月頭に3日程更新出来ない状況がある為、先行して出来ている部分を使い、少し更新日をスライドするようにして空きが出来すぎないようにしようと思います。
そのため、次の更新は『 7月2日(火) 』の想定です(その次の更新は、7月7日(日)を想定しており、そこからはいつもどおりの更新日に戻る予定です)




