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第4話 皇帝宮殿。反転塔への入口。

「ここって、作物も植えられているというか……畑まで普通にありますけど、ちゃんと育つんですかね? いえ、見事なまでに大きく育っているので、育ちはするんでしょうけど……こう、味とか……」

「それは大丈夫ですわ。あの天井の照明ガジェットに、植物の生長を促進する魔法の術式が組み込まれているんですのよ。しかも、その効果は陽の光と同等以上だとか言われていますわ」

 周囲を見回しながら言うヨナに対し、そんな説明をするイザベラ。

 

「ひ、陽の光と同等以上ですか!? そ、それは驚きです!」

「そのあたりは、帝国領内の『食料生産プラント』でも使われていますね」

 驚くヨナに対し、補足するようにそう告げるリゼリッタ。

 そして、

「ちなみに味は普通に地上で育てた場合と、さほど変わらないそうですけれど、大きさが違いますわね」

 と、言いながら顔を作物――ブドウ畑の方へと向けるイザベラ。

 

「たしかに、どのブドウも普通のものより大きいですね」

「ええ、そうですわね」

 イザベラはヨナに対して頷いてみせた所で、ふと以前読んだ書物の記述を思い出し、

「……そう言えば以前、古の時代に角張ったブドウを作る研究が一時期行われていた……などと記された書物があったのをふと思い出しましたわ」

 と、そんな事を口にした。

 

「角張ったブドウ……ですか? それ、味が良くてもなんだか食べたい気になりませんね……。何故そのようなものを作ろうなどと思ったのでしょう……?」

「書物にも詳しく書かれてはいなかったので、きっかけに関しては、まったくもって謎ですわね。ただ、当然の如く不評だったらしく、プロトタイプが生み出されて間もなく、研究は中止され、破棄されたそうですわ」

 ヨナの疑問に、イザベラはそう返して肩をすくめてみせる。

 

「ある意味、至極もっともな流れですね……」

「古の時代というのは、時折よくわからない研究をしていますからね……。その結果、妙な遺物――用途が良く分からないガジェットなど――が、古代遺跡から発見されたりもしますし」

 ヨナに続くようにしてそんな風に言うリゼリッタに、

「まあ、そういう良く分からないものの方が、こう……作り手のとんでもない発想が垣間見えたりして、構造は面白いんですけれどね」

 などと、イザベラが少し楽しげに告げた。

 

「イザベラ様、相変わらずそういうの好きなんですね……。私にはガジェットの構造――術式とやらは、何がなんだかさっぱり分からない迷路のようにしか見えないので、残念ながら共感は出来かねますが……」

「そうですね。私もそのあたりはさっぱりですから、術式がどうのこうのとアルフォンスに言われても、はぁ……としか返せないです」

 ヨナに続いてそう言ってくるリゼリッタ。

 そんなふたりに対して、ため息混じりに、

「レヴァルタでもそんな感じでしたわねぇ……。私があれこれ言っても、皆、悲しいくらい反応が薄かったですし……」

 なんて返すイザベラ。

 そして、一呼吸置いてから、

「――そういう意味では、今はちょっと楽しいですわね。その辺りを理解出来る者たちがおりますし」

 と、微笑しつつ言葉を続けた。

 

「なるほど、それで半分ジェラジェラ、半分ラブラブと?」

「は、半分ラブラブってなんですのよ! というか、どうしていきなりそこに飛ぶんですのよ……っ!」

 ちょっとニマニマしながら言うヨナに対し、イザベラが全力で否定する。

 ただし、声の大きさは強い口調の割に小さいあたりは、ある意味さすがと言えなくもない。

 

「まったく……あやうく、大きな声を出しかけましたわ……。……まあ、幸いにも人の影はまったく見えませんし、マリス・ディテクターにも反応はありませんけれど」

 と、ため息混じりに言うイザベラに、

「マリス・ディテクター……というのは?」

 という、ある意味もっともな疑問を口にするヨナ。

 

「こちらに対して悪意、あるいは敵意を持っている存在が周囲にいないかを探知する魔法ですわね。警備など『不特定多数への警戒』をしている者も『侵入者への敵意』があるので探知出来るますのよ」

「なるほど、それはまた便利な魔法ですね。さすがはイザベラ様です」

 イザベラの説明を聞いたヨナがそんな風に言うと、イザベラはため息をつき、

「……いえ、これを作ったのはラディウスですわ。私はそれをちょっとだけ拡張したにすぎませんわ」

 と、返す。

 

「そ、そうなんですか。えっと……やはりラディウス様という方は凄いですね」

 ヨナは、悔しそうでありながら楽しそうでもあるという、なんとも言い難い表情をするイザベラに、どう言葉を返すのが良いのか悩んだ結果、それだけ口にした。

 そして、そのまま半ば話題を変えるように、

「……しかし、イザベラ様に対する悪意や敵意を持っている存在が周囲にいないとなると、皇帝もいないという事でしょうか? あの男、明らかにイザベラ様に悪意がありますよね?」

 と、そう言葉を続けた。

 

「それはまあ……たしかにそうですわね。もっとも、あの屋敷に探知魔法を阻害する結界や、それに類する常駐魔法を展開するガジェットが存在する可能性もゼロではない……というか、何かしている可能性の方が高いゆえ、絶対いないとは言い切れませんわね」

 ヨナの問いかけに対し、イザベラがそう返事をすると、

「あちらから魔法でこちらを探知されている可能性はないのですか?」

 と、今度はリゼリッタがそんな問いの言葉を口にした。

 

「その対策はしていますわ。……だからこそ、あっちも対策をしているのではないかと、そう考えているわけですわ」

「なるほど、納得です。それで……入口というのはもう近いのですか? あそこの階段を下りたら、もう屋敷は目前ですが」

 イザベラの返事に対し納得しつつ、正面の階段を見ながら新たな問いの言葉を投げかけるリゼリッタ。

 

 イザベラは首を縦に振りながら、「ええ、もうすぐですわよ」と返すと、右手方向へと顔を向け、

「その階段を下りずに向こう側――あの普通のものの2倍はあるフィルカーナが生えている畑の『下の段』が入口のある場所ですわ。良く見ると木の扉がありますわよね?」

 と、指さしながら告げる。

 

「あそこですか。たしかに扉のようなものがありますが……まるで古い物置小屋を思わせる扉ですね……」

 リゼリッタがそんな風に言った通り、双蛇の反転塔への入口だとされている扉は、まさに木製の古びた物置小屋の扉だとしかいいようがない、そんな見た目をしていた。

 

「そう見えるように偽装してあるようですわ」

「なるほど……言われてみると、あれが双蛇の反転塔への入口になっているなどとは、『知っていなければ』思いもしませんね。ですが……あそこだと、屋敷の方から見えてしまいますね……」

「ええ、そうですわね。だから人影がないか確認しつつ、探知魔法も使ったんですのよ。まあ……今なら少なくとも『屋敷から見られ』はしないでしょうし、ササッと中へ移動してしまうのが良さそうな気はしますわね」

 リゼリッタに対し、そう返しつつ屋敷と扉を交互に見るイザベラ。

 そしてそれを聞いていたヨナが、

「でしたら、そうしてしまいましょう。私はこの格好ならメイドだと思われるでしょうし、先行して扉が開くかどうか確認してきます」

 なんて事を口にするなり、即座に扉の方へと駆け出していった――

なにやら思った以上に、展開とはあまり関係のない会話が長くなってしまいました……


ま、まあ、そんなこんなでまた次回!

次の更新も予定通りとなります、6月20日(木)の想定です!

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