第2話 皇帝宮殿。思考するイザベラ。
――こ、ここのセキュリティガジェットを全て無効化? り、理解不能ですわ。
い、いえ、まあ……ある意味、さすがというべきなのかもしれませんけれど……
それと、どういう術式が組み込まれているのか気になりますわ……
ようやく理解が追いついてきたイザベラが、ラディウスに対してそんな事を思っていると、
「まあ、信じられないかもしれませんが事実です。実際、今までもこれのお陰で忍び込み放題でしたので」
と、リゼリッタ。
そしてそこへ、ヨナが続くようにして、
「ですね。というか、物凄い性能のガジェットなので、古の時代の遺物とかかと思っていましたが、先程から話に出ているラディウス様という方が作ったものだったのですね。なるほど……イザベラ様がジェラジェラしているのも納得です」
なんて事を言った。
「ジェラジェラってなんですのよ……。まあ、言いたい事はわかりますし、半分否定は出来ませんけれど……」
「おや、やはり半分肯定してしまわれるのですね」
「やはりとはなんですのよ……。そもそも、肯定とは言っていないですわよ? って、それはともかく、実際にはセキュリティガジェットは稼働していて、単に無効化しているだけなのはわかりましたけれど、近衛の人間すら、その姿が見えないのはどういう事ですの? もしや、人を寄せ付けない魔法とかまで発動していたりしますの?」
そんなイザベラの発言に、リゼリッタとヨナは、
「いえ、元々近衛の人間はほとんどいないんですよ」
「はい。皇帝はあまり自身の周りに人を置きたがらないんです」
と、そんな風に答える。
「……言われてみると、あの男が私を叱責する時も、周囲にはメイド数人以外はいなかった気がしますわね」
「現皇帝ベルドフレイムは、他者を基本的には近づけたがらないフシがありますね」
イザベラの呟きに対して、そう返すリゼリッタ。
「そうですね。しかも、他者を信用していないというより、自分の駒、あるいは玩具となりそうな人間以外は不要という感じでしょうか?」
ヨナが同意しつつ推測を口にすると、リゼリッタが頷きながら返事をする。
「はい。おそらくですが、『自身に対して何かを言ってくる人間』や『自ら考えて動く人間』が嫌いなのではないかと」
「なるほど……言われてみると、イザベラ様もそういう言動をして、良く殴られたり蹴られたりしていますね」
そんな風に言いながらイザベラの方を見るヨナ。
それに対してイザベラは、
「……そうですわね。ああいう性格の男は対処しやすいというものですわ」
と返しつつ思う。
――ただ、もしあの男が本当にそういう性格なのかは少し疑問点がありますけれど。
なんというか……そういう性格であるのなら、逆に少し不自然な点があるんですのよね……
「まったくもってロクでもない人物ですね。いえ、ダークでダーティなイメージは抱いていましたが、想像以上というか……」
「ヨナの抱くダークでダーティなイメージとやらが、どんなものなのかは知りませんけれど、レヴァルタを破壊し尽くしたり、妹を誘拐にかこつけて始末しようとしたりするくらいですもの、ロクでもない人物である事など言わずもがなというものですわよ」
イザベラが腕を組みながらため息混じりにそう返すと、ヨナは初めてその事を知った為、
「えっ? 皇帝が妹を始末……ですか?」
という驚きの声を上げた。
「……あー、そう言えばヨナには説明していませんでしたわね……。実は――」
イザベラはそう切り出して、ヨナにリリティナの事を説明し始める。
……
…………
………………
「――とまあ、そういうわけですのよ」
「な、なるほど……そうだったのですか。しかし、まさかそのような事までしていただなんて……心底ドン引きです。もはや想像以上どころか、想像の遥か上……天井ぶち抜きレベルですよ」
リリティナに対するベルドフレイムの言動を知ったヨナは、やれやれと言わんばかりの表情で首を横に振りながら、そんな風に言った。
「……そうですわね。私もその事を知った時は驚きましたわ」
そう口にして肩をすくめるイザベラに続くようにして、
「でも、そんな人物がアルベリヒに対してだけは、全幅の信頼を置いている……というのも、なんだか不思議というか妙な感じですね」
と、顎に手を当てながら言うヨナ。
「たしかにそうですね。アルベリヒはどうやって信頼の得たのでしょう……?」
リゼリッタがヨナと同じく顎に手を当ててそんな風に呟くように言うと、
「それは私も知りたいところですわね。私も逆撫でする以外にもあれこれ試してみましたけれど、どれをやっても、あの男の信頼を得るのは無理でしたし」
と、腕を組みながら言うイザベラ。
そしてそこで一度言葉を切ると、大きくため息をついてから、
「……というより、大体何をしても逆撫でしたのと同じ結果――要するに、殴り飛ばされるか蹴り飛ばされるかしましたわ……。はぁ……なんというか、色々と自信をなくしますわ……」
なんて言って首を横に振ってみせた。
「イザベラ様、見た目と言葉遣いに反して、色仕掛けとかそういうの苦手ですしね」
「……見た目と言葉遣いに反してと言われましても困りますけれど、まあたしかに苦手ですわね。私はそういった事をするよりも、黙々と本を読んだり、ガジェットを作ったりしている方が性に合っていますし」
ヨナの指摘に対してイザベラはそう返すと、再び大きくため息をついてから、
「まあ……ガジェット作りの方も自信をなくしそうですけれど……」
なんて言葉を続け、ラディウス製のガジェットへと視線を向けた。
「ルーナ様やメルメメルア様のように、ラディウス様から色々と教えて貰ってはいかがですか?」
「……そうですわね。このままだと、ルーナやメルにも近い内に追い抜かされそうですし……」
リゼリッタに対してイザベラがそんな風に言うと、
「そのラディウスさんという方は、一体どうやってそんな超高度な技術と知識を得たんでしょうね?」
というもっともな疑問を口にするヨナ。
「……正直、謎ですわ。でもまあ……幼馴染のセシリアの話からすると、故郷に古の時代の書物が多数あったっぽいですわね」
「なるほど……。幼少期から古の時代の技術や知識に触れる機会あった……というわけですか。ある意味、私たち――というか、イザベラ様と同じような環境ですね」
「……そう言われてみるとそうですわね。もっとも……私の家には、あそこまで高度な技術や術式構築理論について記されているような、そんな書物は、残念ながら一冊もありませんでしたけれど……」
ヨナに対してそう返しつつ、イザベラは思う。
――向こうの世界のラディウスの故郷……。ちょっと気になりますわね。
機会があったら調べてみたいところですわ。
ま、可能ならば実際に訪れて、書物を見てみたいものですけれど。
……でも、なんというか……『それだけではない』ような気もしてはいるんですのよねぇ……
かといって、私のように『やり直し』を多用したようにも見えませんし……
ただ、こう……『大きくやり直し』た可能性はありそうなんですのよねぇ……
と。
思ったよりも会話が長くなったので、一度ここで区切りました……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月13日(木)の想定です!




