第1話 伯爵の屋敷へ踏み込む。そして見つける。
「この先が伯爵の屋敷っす!」
ルティカが装飾の施された木製の扉を指さしながら言う。
どう考えても遺跡に元々あったようなものではない事は、一目瞭然である。
「いかにもって感じだな。しかし……ここまで階段を上ったり下りたりと、なかなかややこしい通路だったが、ルティカは良くルートを覚えていたもんだ」
ラディウスはここまでの道のりを思い出しながら、感心の声を発する。
「ボク、昔から道を覚えるのは得意だったんすよ! 一度通った所は完璧に記憶出来るっす!」
「ほぉ……。それはまたなんとも冒険者に向いた能力だな。遺跡や洞窟で迷わなくて済むだろうし」
「そうっすね! だからなのか、オートマッパーとかよく言われるんすよ!」
ルティカがそんな風に言って胸を張った。
「なるほど……。一度通った場所を完璧に記憶出来るわけだから、たしかにその通りだな」
「もっとも……その反面、頭を使うのは苦手っすから、遺跡の仕掛けとかは大体他人任せっすけどね……」
今度は肩を落とした。
――なんともまあ、リアクションの激しい人だなぁ……
っと、それはいいとして……マリスディテクターの反応は……なし、か。
少なくとも、扉の向こうに魔物の類はいないようだな。
ラディウスは問題ないだろうと思い、扉を開いてみる。
マリスディテクターの反応どおり、魔物の類はおろか、人の気配もなかった。
ラディウスは扉の先――遺跡とは違うレンガで作られた小部屋を見回す。
すると、木箱や樽が部屋の隅に積まれているのが見えた。
「――ここは……倉庫か?」
「伯爵の話だと、ここに地下遺跡に搬入する物を一時的に置いているらしいっすよ」
ラディウスの呟きにそう返してくるルティカ。
「なるほど、そういう事か。――出口は……あの階段だけか?」
ラディウスは納得しつつ、部屋の奥にある上へと続く階段へと顔を向ける。
よく見ると、階段の上には木製の扉があった。
「そうっすね。あそこから屋敷の――伯爵が執務室として使っている部屋に出るっす」
「……それはまたいかにもな構造になってるな。よし、ならば行ってみるか」
ルティカの説明にそう返しつつ、階段を上り、そーっと少しだけ扉を開く。
マリスディテクターの反応はないが、伯爵自身、あるいは使用人や兵士の類がいる可能性は、ゼロではないためだ。
ラディウスは開けた扉の隙間から執務室の様子を伺う。
と、その目に立ち尽くしたままのセシリアの姿が飛び込んできた。
「セシリア!」
ラディウスは扉を勢い良く開けると、そう呼びかけながら執務室に飛び出す。
しかし、そんなラディウスに対して、セシリアの反応はない。
ヘイジーミストを受けた遺跡入口の兵士たちの如く、焦点の定まらない目で立っているだけだった。
「セシリア! 聞こえているか!?」
ラディウスが再び呼びかけるが、やはり反応がない。
「聖女様! ボクっす! 一緒にここへ来たルティカっす!」
ルティカもまた呼びかけるが、こちらにも反応を示さない。
――何かの魔法の影響下にある……のか?
だが、だとしたら何故、マリスディテクターが一切反応しないんだ?
意識――精神に干渉するような魔法なんて、どう考えても悪意のある魔法だと判断されると思うんだが……
……いや、待て……。何だか魔力っぽいけど、どこか違う……そんな不可思議なオーラを纏った代物が、かすかに見えるような……
セシリアの様子を見ながら、そんな事を思案しているラディウスの耳に、
「おや、ここまで侵入してくる者がいるとは……。それに……エクリプスに食わせたはずの女冒険者が元に戻っている……?」
という声が聞こえて来た。
その声に反応する形で、ラディウスが即座にそちらへと顔を向ける。
すると、そこには金の刺繍が入った黒いコートを身に纏ったいかにも貴族といった雰囲気の男が立っていた――
オートマッピング機能って便利ですよね……
手書きは大変です……