第4話 妖姫と皇女。魂と肉体。
「お、来たか」
水路の出口付近まで来た所で、そんな声がラディウスたちへと届く。
それは、出口で待っていたアルフォンスのものだった。
「あなたはゼグナムの……」
「ああ、妖姫さんには度々世話になったからな、今回はこっちが世話をさせて貰うぜ」
妖姫に対してアルフォンスはそんな風に言うと、
「この近くにゼグナム解放戦線の皆様のアジトがあるですか?」
と、そんな風に問うメルメメルア。
「おう。アジトのひとつが近くにあるぜ。まあ、メルにとっては馴染みのある場所だけどな」
「はい? 馴染みのある場所……です?」
アルフォンスの発言にメルメメルアは首を傾げしばし考え込んだ後、「あっ!」という声を発し、
「……ひょ、ひょっとしてひょっとするです?」
と、まさか……と言わんばかりの表情で問いかけた。
「ま、それは到着すればわかるってもんだ。誰かに見られないよう、ささっと移動するとしようぜ、着いてきてくれ」
アルフォンスはそう返すと、ラディウスたちに着いてくるように告げた。
それに対してラディウスたちは頷き、アルフォンスの後に続く。
そして――
「――やっぱり、ウチだったのですーっ!」
メルメメルアがそう叫んだ通り、アルフォンスに導かれて到着した場所は、メルメメルアの住む『アパルトメント・ゲンゲツ』だった。
「いや、まあ、なんだ? ここってデーヴィトさんが大家なわけだし、ゼグナム解放戦線のアジトのひとつだったとしてもおかしくないよなぁ……。というか、むしろそうでない方が不自然なくらいだ」
「そういうこった。ほれ、こっちだ」
ラディウスに対してそう返しつつ、管理人室へと案内するアルフォンス。
「デーヴィトはいないが、代わりに別の奴を待たせていてな」
アルフォンスがそう言いながら管理人室のドアを開く。
するとその直後、
「――来られましたか。お久しぶりですね、妖姫様」
なんていう声が、管理人室の中から聞こえてきた。
そして、その声の主が誰なのかを理解した妖姫が、驚きの声を発する。
「リ、リリティナ様……!?」
「え? リリティナをここまで運んできたの?」
「運んできたっていう言い回しはどうかと思うが……まあそういう事だ。妖姫のその肉体はリリティナのものだろ? 妖姫もリリティナにその肉体を返したいと思っているんじゃないかって考えてな」
セシリアの問いかけに対し、アルフォンスがそんな風に答える。
「た、たしかにその通りですが……良く分かりましたね……」
「ま、これでも向こう側の世界では『教皇』を名乗っているんでな。それなりに何を考えているのかわかるのさ」
「な、なるほど……。さすがですね……」
妖姫はアルフォンスの返答にそう返すと、リリティナの方へと顔を向け、
「――申し訳ありません、リリティナ様。とても長い時間を要してしまいましたが、ようやくあなた様の御身をお返し出来る日が訪れました」
なんて事を告げながら、深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ私のこの魂を無窮の混沌から引き上げていただく際に、色々と尽力いただき、とても感謝しています」
リリティナはそんな風に妖姫に対して返事をした後、
「……というか、私に私の身体を返した場合、妖姫様の肉体がこちら側に存在していない現状では、今の私と同じ状態になってしまうと思いますが……よろしいのですか?」
と、問いかけた。
「はい。この身はリリティナ様のもの。ゆえにそこは気になさらないでください。そもそも、もし私があなた様の魂が無窮の混沌に沈んでいる事を認識しないままであったら、私は彼の鎖から解き放たれし際は、この魂を消耗してでも、あなた様の魂を引き寄せよう……と、そのように考えておりましたから」
「えっ、そ、そうだったのですか?」
妖姫の返答に驚くリリティナ。そしてそこへアルフォンスが、
「なるほどな……。俺が最初に例の鎖――グロース・インヒビションについての話をした時に、妙な『覚悟』のようなものを感じたが、やはり『そういった事』を考えていたのか」
なんて事を口にした。
「そこも見抜かれていましたか……」
「まあ、見抜くって程の事じゃねぇけどな。あくまでもそんな感じがしたというだけの話でしかねぇし」
妖姫に対し、そんな風に返事をして肩をすくめてみせるアルフォンス。
「ところで、入れ替えって出来るの?」
「ああ、簡単に出来るぞ。無窮の混沌から引き上げた魂を肉体に宿らせる為のガジェットがあったと思うが、あれを作る際に、この事も考慮して術式を作ってあるからな」
セシリアの問いかけに対し、ラディウスはさらっとそう答える。
「なるほど……。さすがはラディって感じだね」
「はい、私もそう思います」
セシリアの言葉に妖姫はそう言って肯定すると、ラディウスの方へと向き直り、、
「――そして、早速ですが、その入れ替えを行っていただけますでしょうか?」
と、続きの言葉を紡いだ。
するとそこでリリティナが、
「あの……戦闘技術の事を考えたら、妖姫様が私の身体を使った方がよいのでは……?」
なんて事を口にする。
しかし即座に妖姫が、
「いえ、リリティナ様も十分過ぎる程の剣の技をお持ちですし、リリティナ様でも問題ないと私は思いますよ。なので、入れ替わるといたしましょう」
と、そんな風に返した。
「……たしかに剣は使えますが……。いえ、妖姫様がそこまで仰るのでしたら、断り続けるのもどうかと思いますね……。わかりました入れ替わるといたしましょう」
そう言ってきたリリティナに対してラディウスは頷いてみせた後、
「わかった。なら、リリティナの魂が入っている封魂術のガジェットを手にして、椅子に座ってくれ」
と、妖姫の方へと顔を向け直しながら告げ、ストレージからガジェットを取り出した。
妖姫はそれに対して「わかりました」と答えると、言われた通り封魂術のガジェットを手に取って、近くの椅子に座る。
「――ソウルリンク実行!」
ラディウスがそう口にした直後、妖姫と封魂術のガジェットとを繋ぐ青白い光の帯が生み出された。
そして、その光の帯を起点に双方が青白い光に完全に覆われた所で、妖姫の頭がカクンと下がり、封魂術のガジェットの真上に映し出されていたリリティナの姿も消えた。
「よし、ソウルチェンジ!」
ラディウスのその声と共に、双方から光の帯へと向かってポウッと光球が生み出される。
否、正確には双方の中にあった光球が外へ抜け出したと言うべきだろうか。
――ここまでは問題なし。
だが、ここからが本番と言えなくもないからな。
リリティナの方は特に問題ないが、妖姫の方が少し厄介だ。
まあ、封魂術のガジェットに魂を込め直すだけだと考えれば、大丈夫だろうが。
ラディウスはそう思いつつ、慎重に魔法の操作を続けるのだった。
実はもっと長い話しだったのですが、冗長すぎる感があったので大幅にカットしました。
……若干、無理矢理カットした感が出ている所もありますが、そこはそれという事で……
あまり引き伸ばしすぎると、なかなか話が進まなくなってしまいますし……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月2日(日)の想定です!
※追記
サブタイトルが間違っていたので修正しました。




