第5話 ノースロードエンド。仕掛けを起動させよう。
「よし、ガジェット自体はこれで問題なさそうだな」
「そうね。あとはこれを設置しつつ、受け取りの魔力と下へ送る魔力の波長を調整する作業と、ここへ魔力が流れてくるように上のガジェットを調整する作業があるわね」
「上のガジェットの調整は俺がやってくるから、ルーナはここを頼む」
「ええ、わかったわ」
ラディウスの言葉に頷き、早速設置作業を始めるルーナ。
ラディウスはメルメメルアの方はどうなったのだろうかと思い、メルメメルアの方へと視線を向ける。
すると、爆弾のようなものを作っているのが目に入った。
――爆弾? 使い捨てのガジェットって所か。まあ、使い捨ての方が短時間で作れるという事を考えると、妥当な感じもするな。
ラディウスはそんな事を考えつつ、上のフロアへと向かう。
と、その途中で窓からそっと外を窺うと、アルベリヒの配下らしき人物が、様子を伺いながら動いているのが見えた。
ラディウスは即座にマリス・ディテクターを発動させ、アルベリヒの配下の状況を確認する。
――少し前まで止まっていた奴が動き出した……か。
しかも、ノースロードエンドの入口付近で待ち伏せしていたであろう奴らも、既に動き出しているようだ。
更に、ちょうど俺たちがクルマを降りた辺りにも反応がある……と。
ま、いつまで待っても俺たちがその姿を現さなければ、足取りを探りに行くのは当然と言えば当然か。
とはいえ……まだ俺たちがここにいるってのは、バレていなさそうだ。
……が、この感じだと、いつ調べに現れてもおかしくはない。あまり悠長にはしていられなさそうだな。
ラディウスはマリス・ディテクターの反応を見ながらそんな風に思考を巡らせ、念の為に外から姿を見られないよう注意しつつ、ガジェットの調整を行っていく。
――よし、これで全部終わったな。
アルベリヒの配下たちの動きは……まだそこまで変わってはいなさそうだ。
例の洞窟を調べに来ている者もいるようだが……途中で止まって引き換えしていった……か。
この感じだとあの隠し通路の存在には気づいていないな。
ラディウスは調整を一通り終えた所で今一度アルベリヒの配下の状況を確認。
まだ問題なさそうである事を把握した所で、地下へと引き返した。
「あ、ラディ。戻ってきたんだね」
「こっちはバッチリ見つけたぜ。セシリア嬢ちゃんが、だがな」
既に先に戻ってきていたセシリアとクレドが、そんな声を投げかけてくる。
「早いな。さすがはセシリアって感じだ。クレドさんもありがとうございます」
ラディウスがそう返事をすると、
「ラディウスさんの方も終わった感じです?」
と、今度はメルメメルアが問いかけてきた。
「ああ。上のガジェットの調整はしてきた。外の奴らに姿を見られないよう窓際を避けて移動したから、今の所は大丈夫だろう」
ラディウスがセシリアに対してそう返すと、
「連中の配置からすると、まだここにいるとは思ってもいなさそうだね。まあ……だからと言って、ここにずっといるわけにはいかないけど」
と言いながら、ルーナの方へと視線を向けるセシリア。
「大丈夫よ、こっちの調整も今終わったわ。真下の水門の反応が変わったから、どうやら昔作られたガジェットはしっかりと生きてるみたいね」
「なら、速やかに壁を壊すのです! こっちも用意出来ているのです!」
メルメメルアがルーナに続くようにしてそんな風に言い、グッと両手を握りしめる。
「じゃあ、すぐに移動しようか。通路があると思われる壁まで案内するよ」
と告げるセシリアに頷き、早速移動するラディウスたち。
「そう言えば、結局どこにあったんだ?」
「あ、この先のホールだよ。クレドさんが言うには、昔はそこがブラックマーケットとして使われていたんだって」
「ああ。資料によると、そこに色々な奴らが集って、露天を開いていたそうだ」
ラディウスの問いかけに、セシリアとクレドがそんな風に答える。
ラディウスはそれに対して「なるほど」と返事をしつつ、まるで地球――日本にいた頃に何度か行った事がある『即売会』みたいだな……なんて事を思う。
「で、露天だけじゃなくて、奥の舞台で簡易的なオークションみたいなのも行われていたらしくてね。その舞台の『裏』にあたる場所にあったよ」
「なるほど……。つまり、その簡易的なオークションとやらに出す品物を、舞台裏まで直接運ぶ為に使われていたって感じだな」
セシリアの説明を聞いたラディウスがそんな風に返すと、
「そういうこったな。まあ、商工会の記録を見た感じじゃ、そこに出されていたのは、『物』だけじゃねぇみてぇだがな」
と、補足するように告げるクレド。
「……人間や亜人――特に古の時代から来た人を中心に扱っていたみたいだね」
「ここが使われていた時代には、既に奴隷制度も廃止され、人身売買の類も禁止されていたですが……おそらく、古の時代から来た者――復活した者であれば、足がつきにくいと思われていたですね。私も復活するのが早かったら、ここで売られていたかもしれないと、そう思うとゾッとするのです」
セシリアの言葉に、メルメメルアはそう言って首を横に振る。
「アルベリヒがやってる事も、似たようなものよね。自身に従わせているわけだし」
そんな風に言いながら肩をすくめるルーナに、ラディウスが腕を組みながら、
「ま、たしかにそうだな」
という同意の言葉を口にした所で、ホールへと辿り着いた。
「なるほど、こういう風になっているですか」
「結構な広さね」
メルメメルアとルーナがホールを見回しながらそう呟くの聞きながら、ラディウスは
これ、なんとなく地球の――日本の『体育館』みたいな感じだな……なんて事を思いつつ、舞台裏へと向かう。
そして、舞台裏についた所で、
「あ、そこの壁だね。そこだけ叩いたら返ってきた音が違かったから、向こう側は空洞になっているはずだよ」
と、舞台裏のちょうど中心付近にある壁を指さしながら告げるセシリア。
それに対してメルメメルアが、
「了解なのです。早速消し飛ばすのです」
と言いながらその壁に歩み寄ると、ストレージから八角形の箱のようなものを取り出し、それを壁に貼り付けた。
「なにそれ、爆弾?」
「まあ簡単に言えばその通りなのです。ただし、それだけではないのです」
セシリアの問いかけにそう返事をしつつ、その場を離れ……「――起動っ!」と言い放つメルメメルア。
と、次の瞬間、八角形の箱を起点とするように、漆黒の楕円が壁に描かれる。
そして、その楕円の中に渦のようなものが出現したかと思うと、プシュッという炭酸飲料の蓋を開けた時のような音が静かに発せられた。
「これでオッケーなのです!」
「え? なにも変わってない感じだけど? むしろ、爆弾が消えてるんだけど?」
メルメメルアの言葉に対し、セシリアがそんな風に困惑しながら問いかけた通り、八角形の箱も漆黒の楕円も消えているものの、壁はそのまま健在だった。
「というか、今の黒い渦みたいなのって、穴を開ける為の魔法だったんじゃないの?」
というセシリアの問いかけに、
「開ける為の魔法なのですよ?」
と返しつつ、壁に近づくメルメメルア。
そして、壁に手を触れ……たかと思いきや、その手は、腕は、壁の中へとめり込んでいき――
「ほら、この通りしっかりと開いているのです」
と、微笑を浮かべながら告げるのだった。
なんとも微妙なサブタイトルに……
(他に良い物が思いつかなかったもので……)
ま、まあ、分かりやすい気もするので、いいかなと……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、5月16日(木)の想定です!




