第4話 ノースロードエンド。商館の仕掛け。
「――で、本来ならここにふたつほどガジェットである置物があるはずなんだが……見ての通り何もねぇ」
朽ち果てた商館の中を一通り回って『仕掛け』について説明し終えたクレドが、最後に地下の一室へとラディウスたちを案内した所で、そんな風に言う。
「なるほど……。排水の術式に水門を開閉する術式、それと石壁に偽装した障壁を出現させたり消したりする術式……か。ここにあるべきは、それらを繋ぐ術式だろうな。今まで見てきたガジェットだけでは、何もおきないし」
顎に手を当て、思考を巡らせながら口にするラディウスに、
「ですです。私が『眼』で視ても『用途なし』の置物だったのです」
と、メルメメルアが続く。
「まあたしかに、今の状態じゃ『用途なし』よね。動作させても術式が繋がっていない――その魔法を発動させる先がない状態だし」
ルーナがそんな風に言って肩をすくめてみせる。
「というか、排水とか水門って……。隠し通路は水没してるって事なのかな?」
「元々、あの遺跡は川の水が流れ込んで水没していたからな。こっちでも同じなんだろう。……まあ、川よりも高い位置にあるフロアも水没していたりしたから、川の水が流れ込んできているだけじゃない気もするが……」
セシリアの疑問に対し、ラディウスが腕を組みながらそう答える。
「もしかしたら、その遺跡は古の時代に『水源』として作られた施設だったのかもしれないのです」
「水源……。つまり、ガジェットによって水を生み出す施設だったってわけか。そのガジェットが今も動作し続けているとしたら、水没するのも頷けるな」
「まあ、あくまでも推測ではあるですが」
ラディウスとメルメメルアがそんな風に話していると、
「え? 大昔って水まで生み出してたの?」
という疑問を口にするセシリア。
「はいです。昔は川や湖などから離れているような場所にも街があったのです。で、そういった場所だと水源を確保するのが難しいので、ガジェットの術式――要するに魔法によって水を生み出したり、どこかの水源から転移門のようなもので水の流れをワープさせていたりしたのです」
「前者はともかく、後者はとんでもないわね。水の流れそのものをワープさせるとか……」
メルメメルアの説明に対し、セシリアに替わってルーナがそんな風に言い、肩をすくめてみせた。
「まあたしかにな。普通に水路を作るよりかは楽なのかもしれないが……。っと、それはそれとして、今はこっちをどうにかしないと」
ラディウスがそう口にすると、
「これ、障壁の方って、普通に考えたら障壁なんてもう消えているわよね?」
と、ラディウスの方を見ながら言うルーナ。
「そうだな。おそらくそっちは復活させる必要ないな」
「でも、地下に遺跡へと続く通路の入口は見当たらないのです」
ラディウスに対し、メルメメルアがそんな風に言うと、
「うーん……。単純にもう使わないからって事で、『本物の石壁を作って』塞いじゃったとかなんじゃないかなぁ?」
と、ラディウスの代わりにセシリアが推測を述べる。
「ま、そんな所だろうな。そっちはもう壊すしかなさそうだ。……問題は入口がどこにあるのか、だが……」
ラディウスがそう口にすると、クレドはそれに対し、
「さっきも言ったが、大まかな場所しか記録にゃ残っていなかったんでな。あとはもうその場所を中心に虱潰しに探すくらいしか手はねぇな」
と言って、肩をすくめてみせる。
「そういえば、セシリアがボソッと方法は色々ある……と言ってたわよね?」
顎に手を当てながらそんな風に問いかけるルーナに対し、
「そうだね。隠された物を探すのは、諜報技術のひとつだからね。壁を叩いて返ってくる音で判別するとか、まあ方法は色々あるんだ。とりあえず、ラディがここのガジェットをどうにかする間に探し当てられると思うよ」
なんて事を、サラッと告げるセシリア。
「そっちの魔工士の兄ちゃんも大概だが、嬢ちゃんもとんでもねぇ感じがするな、おい」
クレドがちょっとだけ呆れ気味にそう言うと、
「こういう時のセシリアさんは、段違いに役に立つのです。こういう時は」
などと、そんな風に言うメルメメルア。
それに対してセシリアが、
「なんで今、『こういう時』って2回言ったのかな?」
と、微笑を浮かべて言いながらメルメメルアの後方へ素早く移動し、尻尾をギュっと握った。
「みぎゃぁっ!?」
「こういう時も役立つよ」
「ふぎゃぁっ!?」
そんなメルメメルアとセシリアを眺めながら、
「ええっと……。まあ、入口の方はセシリアに任せておけば大丈夫じゃないかしらね?」
と言って肩をすくめるルーナ。
「ああ、うん、そうだな。で、ガジェットの方だが……一通り回って見てきた感じからすると、排水と水門のふたつをどうにかすれば良さそうだし、そこまで作るのが面倒なものではなさそうだ」
「そうね。ただ、水門が生きているのかが気になる所ではあるわね……」
ルーナがラディウスに対して頷きつつ、そんな風に顎に手を当てながら言うルーナ。
「たしかにな。とはいえ……生きていなかったとしたら、新しく作るしかないっていうだけの話でもあるんだよなぁ……。まあなんだ? とりあえず先に作ってしまって、起動してから反応を見て、駄目そうなら考えるとしよう」
「ええ。それで良いと思うわ」
ラディウスの言葉にルーナが同意してみせた所で、
「ま、そっちは私にはどうにも出来ないから何とも言えないなぁ……。まあ、とりあえず通路を探してくるね」
と、セシリア。
それに続くようにしてクレドも、
「あー……っと、それなら俺も探すのを手伝わせて貰うぜ。ここに居ても仕方ねぇし、『技術』ってのも興味があるしな」
なんて事を言った。
そして、そのままセシリアとクレドは、隠された通路への入口を探すべく、その場を後にする。
それを見送った所でメルメメルアが、
「はふぅ……ギュッギュされすぎたのです……」
なんて事を盛大に嘆息しながら口にした後、ラディウスの方を見て、
「っと、それはそうとそのガジェットですが、向こうで作らなくていいのです?」
という、もっともな疑問の言葉を続けた。
「それだとセシリアとクレドさんが通路の場所を探すのを待つ事になるし、魔法の発動経路を復活させるだけならば、そこまで面倒なものでもないからな。以前、レゾナンスタワーで使った探知のガジェットを使えば、魔力の受け取り先――要するに魔力をどこへ向ければいいかはすぐに分かるし」
「あー、あれを使うのですか。なるほどなのです。……というか、ふと思ったですが、その魔力を向ける先に通路の入口があるのではないです?」
「……たしかにそうだな。よし、すぐに調べてみよう」
メルメメルアの言葉に、その可能性も十分あり得ると考え、即座にガジェットを取り出し、魔力の受け取り先を調べるラディウス。
しかし――
「……思いっきり真下だな。あとまあ、そうだろうとは思っていたが、水門が生きているかどうかもこの反応だけじゃさっぱり分からんな……」
ラディウスがそう口にした通り、『魔力の受け取り先』は真下にあった。
「うーん……。残念なのです。もしやと思ったですが、これではなんのアテにもならないのです……」
肩を落としながらそんな風に言うメルメメルアに対して、
「まあ、そっちはセシリアとクレドさんに任せて、私たちは当初の予定通り、ガジェットを作ってしまいましょ」
と告げるルーナ。
「あ、それでしたら私は『静かに壁を破壊しつつ偽装するガジェット』を作るのです。ちょっと良い事を思いついたのです」
そんな風に言ってくるメルメメルアに対し、
「ん? なんだかよくわからんが、なにか考えがあるなら任せた」
と、返すラディウス。
一体何を思いついたのか、ちょっと興味があるしな……と思いながら――
……こ、今回も大分長くなりました……。他に句切れそうな所がなかったもので……
ま、まあそれはそれとしてまた次回!
次の更新は平時通りとなりまして、5月12日(日)の想定です!




