第2話 ノースロードエンド。洞窟の仕掛け。
「ここまで来れば、もうこの変装は必要ないわね」
洞窟内に入った所で、ルーナがそう言って幻影魔法を解除する。
「そうだね。むしろ解除しておいた方が、もし捕捉された場合でも、ディーゲルさんがいないって事で混乱してくれるかも」
「ま、ここからは捕捉されない方がいいんだけどな。いきなりノースロードエンド付近で姿を晦ましたと思わせた方が、撹乱としては都合がいいし」
セシリアの発言に対してラディウスがそう言うと、セシリアは、
「たしかにね。で、そうなるとやっぱり、素早く帝都へ忍び込んでしまうのが一番いいんじゃないかな。長々とノースロードエンドにいると、直接捕捉されなくても、他の何かの要因でバレるかもしれないし」
と、そんな風に返事をした。
「ああ。そのためにも商館の隠し通路を手早く探し出す必要があるが……メルは一度訪れているんだよな? 何かそれっぽい怪しい場所に心当たりがあったりはするのか?」
「……残念なのですが、鑑定で訪れた時には、そういったものは見かけなかったのです……。この『眼』にも『隠し通路』の用途を持つもの――動く壁や本棚といったもの――はなかったのです。床までは詳しく見ていないので、もしかしたら床の方に何か隠されている可能性はあるのです」
「なるほど……床か。だが、『眼』で『隠し通路』の用途を持つものが見つからなかったとなると、単純な仕掛けではなさそうだな……」
メルメメルアに対してラディウスがそう返した所で、セシリアが疑問を口にする。
「ちなみになんだけど……この洞窟が『かつてブラックマーケットだった商館』と繋がっていたっていうオチはないの?」
「それはさすがにないのです。商館がブラックマーケットとして使われ始めた頃は、まだこの洞窟を抜けて行くしか道はなかったのです。今の崖上まで続く街道は、クルマが普及し始めてから整備されたものなのです」
セシリアの疑問に、メルメメルアは首を横に振ってそんな風に答える。
そして、それを聞いたセシリアが納得の表情をして「なるほどね」と言うと、今度はルーナが別の疑問を投げかけた。
「へぇ、そうだったのね。――ところでこの洞窟……アルベリヒの配下たちはノーマークっぽいけれど、案外『封鎖が表向きでしかない事』って、知られていないものなのかしら?」
「封鎖は先代皇帝陛下が軍上層部を動かして行っているのです。皇帝に近い立ち位置の人間ほど、『封鎖されている』と思っているのではないかと思うです。……そもそも、見た目的には今も『封鎖されている』ですし」
「え? どういう事?」
メルメメルアの発言にルーナが首を傾げながら問うと、
「もうすぐ分かるのです」
とだけ返すメルメメルア。
更に首を傾げるルーナと、同じくどういう事なのかと疑問を抱くラディウスとセシリア。
しかし、少し歩いた所で、すぐにその理由は判明した。
「鉄の……壁?」
ラディウスがそう呟いた通り、洞窟は途中で鉄の壁によってそれより先に進めない状態になっていた。
「たしかにこれは、どこからどう見ても『封鎖されている』わね」
「そうだね。たしかにこれなら、『しっかりと封鎖されている』と考えるかも。……でも、どうやって通過するの? これ」
セシリアはルーナに続く形でそう口にすると、メルメメルアの方へと顔を向けた。
「そこを通過するわけではないのです」
メルメメルアはそう言うと、近くの岩壁に手を置き、
「ここの所が横にスライドするようになっているです」
と言いながら、岩壁――の隠し戸を横にずらす。
そして、その中の小さなスペースにある取っ手を引っ張ると、ガコンという重い音が周囲に響いた。
「これで、ロックが解除されたのです」
と言いつつ、今度は反対側の岩壁へと移動し、グッと押し込むメルメメルア。
すると、岩壁は自動的に沈み込んでいき、そこに通路が出現する。
「これはまたなんというか、一見すると単純なようだが、実際には複数のガジェット――魔法を組み合わせる事でひとつの大きな『仕掛け』として、動作するようになっているな」
ラディウスが『解析』しながらそんな風に言う。
それに対してルーナが少し呆れ気味に、
「誰だか知らないけど、よくまあこんなもの作ったわね……」
と口にすると、そこに更にメルメメルアが、
「これを作ったのは、デーヴィトさんなのです。まあ……知ったのは最近なのですが」
なんて事を告げた。
「へぇ、そうなのか。まあたしかにあの人なら普通に作れるだろうが……なんでまたこんなものを?」
「デーヴィトの奥さんとの『アレコレ』に関係があるそうなのです」
「ああ、そういう事か……」
ラディウスはメルメメルアの返答に納得し、そう呟くように言うと、
「まあ、お陰でこうして密かにノースロードエンドに入れるわけだし、デーヴィトさんには感謝しておかないとな」
と、そんな言葉を続けて紡いだ。
「なるほど、全員がこの隠し通路を通過して本来の洞窟――鉄の壁の前に出ると、自動的に岩壁が閉ざされてロックされるのか。たしかにこれはなかなかバレにくいというか、知っていないとまず気づかないな」
ラディウスが再び『解析』しながらそう言うと、それに対して、
「そうね。これならアルベリヒの配下が存在を知らないのも無理はないわね」
と、納得顔で口にして首を縦にウンウンと振ってみせるルーナ。
「ちなみに、侵入者感知用のガジェットの類もこの洞窟にはなさそうだ。完全にこっちから来るとは考えてもいないって感じだな」
解析を終えたラディウスは、念の為にと周囲にあるガジェットを探知する魔法を使ってみるも、特に反応がなかった為、そんな風に告げた。
「ところで、道が左右に分かれているけど、どっちへ行けばいいの? 大丈夫だとは思うけど、一応『ガジェットではない原始的なトラップ』とかが仕掛けられていたら困るから、先行して確認するよ」
「あ、はい。左なのです。左へ進めば、商館の近くまで行けるのです」
「了解ー」
セシリアはメルメメルアから告げられた通り、先にひとりで左へと進む。
それを追うようにしてしばらく洞窟を進んでいくと、外への出口と共に、入り組んだ路地裏を思わせる光景が見えてきた。
「ここから右手の通りを進めば商館はすぐなのですが……」
「そっちにはアルベリヒの配下がいるようだ」
メルメメルアの言葉に、ラディウスはマリス・ディテクターでアルベリヒの配下の位置を確認しつつそう返す。
「はいです。裏道を使って回り込んでいくのが安全そうなのです」
「とりあえず、洞窟の出口にもその周囲にもトラップの類はなかったよ」
メルメメルアの返答に続くようにして、待っていたセシリアがそう告げる。
「なら、とりあえず裏道を進むとしよう。メル、案内を頼む」
「はいです! 任せるのです! しっかり商館の裏手まで連れて行くのです!」
ラディウスに対し、メルメメルアはそう返事をして、自身の胸を手で軽く叩いてみせたのだった。
久しぶりに『デーヴィト』の名前が登場しました。……本当に久しぶりすぎる気がしますが……(本来はもっとずっと前に一度出す予定があったのですが、どうにもテンポと噛み合いが悪かった為、スパッとカットしていたりします……)
ま、まあそんなこんなでまた次回!
次の更新ですが、所用によりGW後半1回分更新が出来ないので、間が空きすぎるのを避ける為、通常よりも1日遅らせて、5月3日(金)の更新を想定しています。




