第10話 ディーゲルとアルベリヒ。災厄と歪。
「というか、今更だけど、どうしてこうも似たようなものが複数あるの?」
セシリアが前方のクルマに対して銃撃しながら、そんなもっともな疑問を口にする。
するとそれに対してメルメメルアとディーゲルが、
「古の時代は、ほとんどの国がそれぞれ独自かつ秘密裏に新たな術式とそれに伴うガジェットの研究をしていたのです。なので、結果的に『同じものを作っていた』という事が結構あったのです」
「うむ。魔法を扱う技術というのはいわゆる国家機密レベルでな。私も、新しい人形の研究と開発を行っている間は、研究施設の外に簡単に出られなかったものだ」
と、それぞれそんな風に説明した。
「なるほどねぇ……。そう言えば、イザベラが研究所の遺跡について話していた時も、秘匿性の高い施設だったって言ってたね」
セシリアがそこまで言った所で、前方のクルマが1台制御を失い、路肩にあった岩に乗り上げ、そのまま横転した。
「はい、こっちは終わりっと。メル、残りはお願い」
そう告げて座席に座り直すセシリア。
「了解なのです」
窓を開けながらそう返事をするメルメメルアに続くようにして、
「……時間をかけて同じようなものを生み出すって、なんだか非効率な感じがするけどね」
と、そんな事を口にするセシリア。
それに対して、
「まあ、非効率といえば非効率なのです。一応、複数の研究所が共同で研究していた術式やガジェットもあったみたいではあるのです。私は見た事がないですが……」
と、そう返しながらクロスボウからマジックボルトを射出するメルメメルア。
「うむ、たしかに私も見た事はない。……だが、ガーディマが何かの『選抜』の為に作った『変動型試験場』なるものは、複数の研究所で開発されていた空間制御技術を組み合わせる事で、最終的な完成形に至った……という話を聞いた事があるな」
ディーゲルがそんな事を口にすると、
「ガーディマの試験場……それに空間制御って……まさか、あのガーディマ遺跡はそれ……なのか?」
と呟くラディウス。
「た、たしかにそんな気がするのです。あっ」
ディーゲルの話に気を取られすぎたメルメメルアがそう口にした直後、最後の1台が爆発した。
「う、撃ちすぎたのです……」
そう呟くように口にして耳が萎れるメルメメルア。
それに対してラディウスは、
「ま、まあ、道が塞がっているわけじゃないから気にするな」
と、そんな風に言って、炎上するクルマを避ける。
「――その試験場の事を知っているのかね?」
「あ、はいです。えっと……ここからだとかなり遠い所ではあるですが――」
ディーゲルの問いかけに、メルメルメアは『向こうの世界』の所を『かなり遠い所』と言い換えながらそう切り出して、ガーディマ遺跡の特徴について説明し始める。
……
…………
………………
「――という感じなのです」
「なるほど……。たしかにそれは私が話に聞いた『変動試験場』に近い……いや、そのものと言っていい代物だな」
メルメメルアの説明を聞いたディーゲルが顎に手を当てながらそんな風に言う。
「ガーディマは、何の選抜に使っていたんだろうね?」
「たしかにそこは気になるな……」
ラディウスはセシリアに対してそう返してから、
「なにかそれについて思いつく事ってありますか?」
と、ディーゲルに対して問いかける。
「うーむ……。空間制御技術自体が、迫りくる『災厄』を見越して生み出された技術である事を考えると、災厄に対する何かだとは思うが……それ以上に詳しい事となると、さすがに見当がつかぬ……」
「なるほど……」
ディーゲルの返答にラディウスが短くそう返した所で、今度はメルメメルアが問う。
「ちなみに、ディーゲルさんは『災厄』について詳しく知っているですか? 私は断片的にしか情報を与えられていなかったので、良く知らないのです」
「いや、私の国では迫りくる『災厄』がどういうものであるのかを正確に把握していた者は、ほんの一握りであったがゆえに、私も『災厄』の詳細は知らぬのだ。……というか、ほとんどの国が何故か『災厄』については、秘匿、隠蔽する傾向にあった。他の国の者でも、詳細を知る者は少ないのではないだろうか」
ディーゲルはそこまで口にすると一度言葉を切り、ため息をついてから、
「――無論、あのアルベリヒは知っているであろうがな」
と、続きの言葉を紡いで肩をすくめてみせた。
「そこまで秘匿、隠蔽する理由ってなんなんだろうね?」
「それに関しては、さっぱりなのです。完全に謎なのです」
セシリアに対してメルメメルアが首を横に振りながらそう返すと、
「当時は、一般市民の不安を煽らない為だと言っていたな。一部だけ教えられる方が不安なのではないかと私は思ったものだ。まあもっとも、それを上役に言ってみたところ、上役も『実は自分も知らない』などと返されてしまったがな。……本当に知らなかったのかどうかは分からぬが」
と、ディーゲルがそんな風に言う。
「もしそれが本当だったら、かなり限られた人しか『災厄』についての詳細を……『真実』を知らないって事になるよね」
「そうだな。よくまあそんな状態で『対策』についての研究が出来たもんだ」
セシリアの発言を肯定しつつ、そう口にするラディウス。
「……今思えば、当時は色々と『歪』であったような気がするな。その手の研究についても、何を研究するか『トップ』から詳細な指示――進め方の提示――があって、それに沿って行っていたしな」
「なるほど……。いわゆるトップダウンという奴ですね」
「ああ、その通りだ。そして、それに異を唱える者もいなかった。……そう、指示された通りに進めるのが正しいと皆が信じ切っていた」
ディーゲルはラディウスに対して頷いてみせながら、そんな風に言って頭を振る。
そして、
「今更ではあるが、やはり不自然だな。まるで我々が見えざる糸によって操られていたかのようだ」
なんて事を呟くように言った。
それに対してラディウスは思う。
――皆が気付かない内に操られていた……認識を歪められていた……?
まるで、今の帝国……いや、皇帝の存在のようだな……
と。
こんな場面で、サラッとガーディマ遺跡の詳細が明かされるという……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月18日(木)の想定です!




