第7話 遺跡で救出する。異形の侵食から。
――翼は切断程度じゃどうにもならないくらい、背中に癒着しているな……
となると――
ラディウスはかろうじて残っている鎖で、異形の翼の拘束を維持しつつ翼の状況を確認し、そう心の中で呟く。
そして、懐から縦長のカードを2枚取り出すと、
「せいっ!」
という掛け声と共に、2枚のカードを同時に翼の付け根付近めがけ投擲するラディウス。
投擲された2枚のカードは、まるで吸い込まれるように翼の付け根付近へと飛んでいき、接触。
刹那、カードがそれぞれ金色とオレンジ色の閃光を発し、強烈な炸裂音が響き渡る。
カードの爆発、およびそれによって発生した爆風――強烈な衝撃が、翼を背中から強引に引き剥がし、更に中空へと吹き飛ばすっ!
「……ァ……ギ……ァ……ッ!?」
無論、女性の方も無傷とはいかず、衝撃によって床に勢い良く押し付けられる形になり、昏倒した。
しかし、あれだけの至近距離で、翼を中空へと吹き飛ばす程の爆発があった割には、女性の方へのダメージ――外傷は見える範囲ではほとんどなかった。
――爆発、爆風の発生する方向を調整して、肉体の方には同時に障壁を肉体側へのダメージは最小のはずだ……
気絶させる魔法とかあれば良かったんだが、生憎と作っていないからな……
かと言って入口で使ったヘイジーミストでは、どう考えてもあの異形どもが生み出す痛みで意識を引き戻されて無駄だろうし。
まあ……余計な苦痛を与え、少しとはいえ傷を増やしてしまった事は申し訳ないが……これが一番手っ取り早くて確実な方法だったんだ、許してくれ……
ラディウスは昏倒している女性を見て心の中でそんな謝罪すると、今度は引き剥がした異形の腕と翼の方へと視線を向ける。
すると、どちらも陸に打ち上げられた魚の如く、床の上でピチピチと跳ねていた。
「なんというか、なかなかに気色悪い光景だな……。まあ……とりあえず凍らせるか……。フリーズジャベリン・改! もう一発、フリーズジャベリン・改!」
そう言い放った直後、氷槍2本が出現し、異形の腕と翼に向かってそれぞれ飛翔。
そして突き刺さると同時に、先日ツタを凍らせた時のように凄まじい勢いで異形のそれを氷結させていく。
あっという間に冷凍された異形を、ストレージから取り出した銀色の布で包み、そのままストレージへと放り込むラディウス。
それから余分に取り出した銀の布を女性の身体にかけると、部屋の中を調べ始める。
――他に異形の類は……なさそうだな。……あれだけだったのか?
ラディウスがそう心の中で呟いた通り、他に異形の存在は部屋の中に存在していなかった。
と、そうこうしている内に、女性が目を覚ます。
「ん……。うん……。あれ……痛みが……ない?」
そんな事を呟いた女性に対し、ラディウスは、
「あの異形の奴らに取り憑かれていた時の事、覚えているのか?」
と、問う。
「あ、うん……完璧に覚えてるっす。シャレにならない激痛に苛まれ続けて、もう少しで気が狂いそうだった所っす。助かったっす……」
そう言いながら上体をお越してラディウスに深々と頭を下げる女性。
――布があるとはいえ、どうしても大きな胸が見えてしまって落ち着かないな……。ルーナよりも大きい気がする。
って、考えるべき所はそこじゃない。
身体のあちこちに傷跡が見えるな。最近付いたものではなさそうだが……まあ、冒険者だし、そんなものなのかもしれないが。
って、それでもない!
さっきまで普通に見ていただろう、何を今更慌てているんだ俺!
落ち着いて考えよう。……えーっと、あー、そう、あれだ。記憶があるというのは、話が早くていいな。
いやまあ、彼女にとってはシャレにならなかっただろうが……
たったそれだけの思考へ行き着くまでに随分と迷走したラディウスだったが、そんな思考の迷走などなかったとばかりに冷静な顔で、静かに首を横に振り、謝罪の言葉を紡ぐ。
「いや、手荒な方法で引き剥がすしかなくてすまなかったな」
「いえいえ、ボク、こう見えても頑丈っすし、いつも怪我しているから痛みには慣れっこっす。……まあ、化け物が身体の中に食い込んでくるあの激痛はさすがに無理だったっすけど……。声も全く出せなかったっすし……。なんで、どんな手段であれ、開放してくれて感謝感激っすよ!」
女性はそこで言葉を一度切り、胸の前で握りこぶしを作る。
そして、「あっ」と言いながら手を口元に当て、
「……って、そういえば名乗っていなかったっすね。――ボクの名前はルティカ。ルティカ・メイユーズっす」
と、名乗った。
もうちょっと先まで行こうかと思ったのですが、少々長くなってしまうので一旦ここで区切りました。




