第4話 ディーゲルとアルベリヒ。イザベラの話。
「――とまあ、そんな感じでしたわ。その後で一通り確認しましたけれど、グランベイルの街に関しては、影も朧も既に引き上げておりますわね。私の幻は『ビブリオ・マギアス』やオルディマに怪しまれない様、少しだけ残してありますけれど、貴方たちの話は既にしてありますし、何かしてくる様な事はありませんわ」
イザベラはそう告げた後、一度言葉を区切ってから、
「ちなみに……ヴィンスレイドの屋敷の方も確認してきましたけれど、王国軍を装った――いえ、王国軍内に入り込んでいる朧の連中が出入りしていましたわね。地下の研究施設から、あれこれ運び出していたようですわ」
と、顎に手を当てながら続ける。
「まさか、王国軍内にも既にいるなんてね。もしかして、諜報部にも……?」
セシリアがそう口にしながらイザベラの方へと顔を向ける。
それに対してイザベラは、
「残念ながら、王国の諜報部はガードが固すぎて、朧はおろか、私の幻ですら入り込めていませんわよ」
と言いながら、やれやれと首を横に振ってみせた。
「へぇ、そこまでなんだ……」
「王国の諜報部にはテオドールの部下が複数所属しているのだわ。そう簡単には入り込ませないのだわ」
「なるほど……って、そうだったの!?」
「……自分の所属している所の事くらい把握しておくのだわ……」
「そう言われても、うっかり聖女になってから、あまりそっちの方はメインじゃなくなってるし……」
「ぐむむ……。うっかり聖女とか言われると地味に腹立たしいのだわ……っ!」
セシリアとクレリテ――イザベラが戻ってくる少し前に、セシリアたちとやってきていた――のそんな会話を聞き、ラディウスはクレリテは何気にまだ聖女になれなかった事を引き摺っている……のか? と思い、
「なんだ? 聖剣が欲しいのか? 前は良く分からなくて作りようがなかったが、今なら大体把握しているから、同じような代物なら作れるぞ?」
と、問いかけてみる。
「そういう問題じゃな……いけど、ちょっと欲しいと思ってしまったのだわ……。でも、なんだか本物を超えた偽物になって、別の問題を生みそうな気がするのだわ……」
なんて事を言ってくるクレリテ。
それに対してセシリアが、
「まあ、私の聖剣も既に何か別の物になってるけどね?」
と言いながら、聖剣を取り出してみせる。
「……たしかにそうなのだわ」
クレリテはそう口にした後、「ぐむむ……むむむ……」と、口に出しながら悩み始めた。
そして、
「……い、1本作って欲しいのだわ……」
と、指を1本立てながら小声で言ってきた。
「分かった。伸縮するタイプで作ってみよう」
「あれ? 幻影のガジェットの方は大丈夫なのですか? です」
頷くラディウスに、カチュアがある意味もっともな疑問の言葉を投げかける。
それに対してラディウスとルーナが、
「ああ。幻影のガジェットの方なら、最後の調整に入る所だ。で、そこはルーナに任せるつもりだから、ちょうど手が空くんだよ」
「ええ。私が使うものだから、最後の調整は私がやった方が色々と都合がいいしね」
と、そんな風に説明した。
「なるほどー、納得ですです」
「なら、こっちも向こう側での準備を始めるのだわ」
納得顔のカチュアの言葉に続き、そう告げるクレリテ。
「ところで、少し疑問に思ったので話の流れを少し戻させていただきますが……ヴィンスレイドの屋敷から、朧の人たちは何を運び出そうとしていたのでしょう? そこら辺の情報は得られていない感じですか?」
リリティナが顎に手を当てながらイザベラの方へと顔を向けて、そんな問いの言葉を投げかける。
それに対してイザベラは、
「一応、話を聞いてみましたわよ。ヴィンスレイドの研究結果の一部を王国に接収されないよう秘密裏に移動するとか言っていましたわ。……それ以上追求するのは、怪しまれるだけなので止めておきましたけれど」
と答えて、両手を左右に広げながら、首を横に振ってみせた。
「地下……か。生命融合の実験体――いや、実験結果と思しき異形の魔物があそこにはいたし、あの異形の魔物やそれに関する資料を持ち出している……と、そう考えるのが妥当だろうな。で、軍の上層部へは、当たり障りのない資料だけを提出するつもりなんだろう」
イザベラの説明を聞いたラディウスがそんな事を呟くように言うと、
「いっそ、資料だけでも奪い取っちゃう?」
なんて事を口にするセシリア。
「出来なくはないと思いますけれど、面倒な事になるだけだと思いますわよ?」
「はいです。どこでどうやってバレないように奪い取るのかというのを考えると、リスクばかりでリターンがあまりない気がするのです」
イザベラの発言に同意するようにメルメメルアもそう告げる。
「うーん、たしかに……。でも、それがあっちに渡ると、絶対ロクな事にならないよねぇ……」
「まあ、否定は出来ませんわね。……一応、どこへ運ばれたかだけは探っておくとしますわ」
セシリアの言葉に対し、イザベラは頬に手を当てながらそんな風に返す。
そして、ラディウスたち全員を見回してから、
「もしもの時は、踏み込んで破壊してしまってくださいな。聖木の館のように」
という言葉を、少し笑みを浮かべながら告げた。
「聖木の館は破壊してないわよ……。あくまでも制圧しただけだし……」
ルーナが呆れた声でそう突っ込むと、
「……え、えっと……。色々あって、皆が死の大地へ向かった後、一部は破壊してしまったのだわ……」
なんて事を頬を掻きながら返すクレリテだった。
会話が思ったよりも長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月28日(木)の想定です!




