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第2話 ふたりの少女。魂と生命融合。

 覚醒した少女は、そのまま勢いよく跳ね起きると、近づいていたイザベラへと襲いかかった。

 

「くっ!」

 イザベラはギリギリでそれを回避。

 覚醒した少女の爪が空を切った。

 

「爪が伸びたのです!?」

「どう考えても普通の『人間』じゃないのだわっ!」

 驚きの声を発するメルメメルアに続くようにして、クレリテはそう言いながら伸縮する剣を少女に絡みつかせる。

 

「大人しくす――」

 クレリテがそこまで口にした所で、少女は自身に絡みつく剣をグイッと引っ張る。

 それに対し、

「――るわわぁっ!? 引っ張られるのだわぁっ!?」

 クレリテは慌てながら、剣に込める力を強くする。

 

 しかし、それでも徐々に引っ張られ――

「とん……でもない……馬鹿力……だね……っ!」

 セシリアが、クレリテの腕と剣を左右の手でそれぞれ握って支えながら、苦しげな表情でそう口にする。

 分厚い手袋をしているので、刃で手が切れるような事はないが、それでも手袋の表面が少しずつ擦れて削られていくくらいの勢いで引っ張られていた。

 

「そっちじゃなくて、こっちを抑えなきゃ駄目でしょうに!」

 ルーナがそんな突っ込みを入れながら、少女に対して2本のアストラルアンカーを射出。その魔法の鎖を左右から巻きつける。

 そして、それに続くようにしてイザベラが、

「倒した方が早い気がしますけど、そういうわけにもいきませんわよ……ねっ!」

 と、言い放ってその上から赤黒い鎖を絡みつかせ、拘束を更に強固にした。

 

 しかし、少女は身体を振るってそれらの拘束を解こうとする。

「くぅっ、これだけ拘束しているのに気を抜くと弾き飛ばされそうですわっ!」

「そっちはまだなのだわっ!?」

 イザベラとクレリテがそう声を大にして口にしつつ、ラディウスの方を見る。

 

「そっちだけ異様に早かったのが良く分からんが、こっちももうすぐ魂の定着が問題なく終わる! もう少しだけそのまま拘束しておいてくれ!」

「結構……ギリギリ……よっ」

 ラディウスにそう返しつつ、緩みそうになるアストラルアンカーの鎖を強めるルーナ。

 

 暴れる少女の方はイザベラたちに任せ、ラディウスは解析のガジェットでディーゲルの娘の状態を確認。

 

 ――肉体面の異常は……なし。スライムのような状態にしていた術式も消えている。

 魂の方も復元する術式が正常に作用していて、もうすぐ終わる……

 一時的にバイルドレイン症を利用させて貰ったが、これを封じ込める術式の方も問題はない。

 どうやら、魂魄共に上手く戻った上で、バイルドレイン症の方も解決出来そうだ。

 だが、それ故にこれだけの時間を要するはずなんだが……何故あっちの少女は……?

 まさか、バイルドレインの逆流でも発生した……か?

 

 ラディウスはそう考え、イザベラたちが拘束する少女へと顔を向け、解析のガジェットを使ってみた。

 すると……

「な……んだ……? この魂は……。形が……普通と違う……? これは……人間の魂じゃ……ない?」

 そんな言葉が自然と口をついて出てしまう程の驚きだった。


 ――いや……でも、そんな事があるのか?

 人間以外の魂を人間に込めた所で、定着するとは思えないんだが……

 

 ラディウスは『視えた』ものに対し、理解が追いつかなかった。

 と、そこで、

「人間の魂……ではない? そ、そうですわ! この少女、どこで見たのか思い出しましたわ……っ!」

 なんて事を口にするイザベラ。

 

「どこで見たのですか? です」

 カチュアがそう問いかけると、

「向こうの世界に表向きは孤児院で、裏では朧が外道の所業としか言えないような研究と実験をしている場所があるんですのよ。そこの院長に用があって訪れた時に、実験室へ連れて行かれるのを見ましたわ。なんでも、ヴィンスレイドから提供された『生命融合技術』の実験に使うとかなんとか……」

 と、そんな風に答えるイザベラ。

 そしてそのままため息混じりに、

「個人的には止めたかったのですけれど、そこでそんな動きをすれば、色々とまずい事この上ない状況になるのは確実ですし、何も出来ませんでしたわ……」

 と言って、首を横に振った。

 

「ヴィンスレイドから提供された生命融合技術……? ……そう言えば、奴の屋敷の地下で、明らかに異形化していた魔物たちが檻に入れられていたのを見たな……。あれが生命融合技術とやら……なのか?」

「生命融合技術……。その名は古の時代に何度か耳にしたのです。でも、それが何であるのかまでは謎なのです」

 ラディウスの呟きに続くようにして、そんな風に言ってくるメルメメルア。

 

「ふーむ……。名前からすると、複数の生命を融合させるような感じだが……」

 ラディウスはそう口にしつつ、拘束中の少女とディーゲルの娘を交互に見て考え込む。

 

 ――もしや、バイルドレイン症の作用を逆に利用した……?

 いや、だが……バイルドレイン症なのは、ディーゲルの娘の方だったはずだが……

 まさか……こっちの少女もバイルドレイン症だった……のか?

 両者ともバイルドレイン症だったからこそ、魂を入れ替えられた……?

 ……可能性でしかないが、あり得なくはない……か。

 

「た、たしかに人と魔物が融合していると考えたら……っ! このトンデモっぷりも納得出来る……のだわっ!」

 全力で拘束しながら、そんな事を口にするクレリテ。

 その声にラディウスは同意しつつ思考を巡らせる。


 ――そう……。クレリテの言う通り、別の生物同士の融合……いわゆる『キメラ』のような『合成生物』に近いものだと考えれば、色々と納得出来るんだよなぁ……

 時を遡ってくる前の歴史では、グランベイルの街が滅びた一端は、街とその周辺一帯に異形の化け物たちが溢れかえったからだった。

 それが、ヴィンスレイドがやろうとしていた事の根幹が『その技術』であり、技術研究の果てに行われた『大きな実験』が『失敗した』事により住民たちが異形化……。グランベイルの街の滅亡へと繋がった……と、そう考えると実にしっくりくる。

 同様に、妖姫たち『魔人』もその技術が根幹にあると考えると、これもまたしっくりくるしな。

 ……だがそうなると、この少女の魂は何かと融合してしまっている……あるいは、更に別の存在と入れ替えられているという事になる。

 もし本当にそうだとしたら、たしかに外道の所業だとしか言いようがないな……

 

 と。

かつて『ヴィンスレイドの屋敷の地下でラディウスが見たもの』や、『バイルドレイン症』がようやく話に関わってきました。

まあ……正直、伏線を張ってから回収するまでの間が空きすぎな気しかしませんが……

もうちょっと後でも良かったなぁと思いつつも、他に入れられそうな場所もなかったというかなんというか……


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、3月10日(日)の想定です!


※追記

脱字を修正しました。

また、分かりづらい表現になっていた所を若干補完しました。

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