第18話 レヴァルタの真実。掃討と支援。
「て、て――がはっ!?」
帝国兵は目の前に現れたイザベラに驚き、声を上げ――ようとして斬り伏せられる。
「驚いて動けないようでは駄目ですわね」
なんて事を言いながら次の標的を素早く探す。
それとほぼ同時に、領主の娘――イザベラに遅れを取るわけにはいかないとばかりに、ルヴィや兵士たちも帝国兵へと攻撃を仕掛けていた。
「イザベラって、実戦経験あんまりない……よね? 妙に場馴れしている感があるけど……。敵兵も躊躇なく斬り倒すし」
「……た、単に余裕がないだけというか……目の前の事に集中しているだけですわよ。ええ」
ルヴィの言葉に、イザベラはそんな風に返す。
そして……
――じ、実は何度も時間を遡って、何度も戦闘を経験して、すでに場馴れしてしまっている……などとは言えませんわ……
もしかしてこれは、ちょっとだけ手を抜いた方がいい感じですの……?
なんて事を思いつつも、目についた帝国兵を再び斬り伏せる。
――いえ、ですが、今は敵を素早く片付けなければならない状況……そんな事している場合ではありませんし……
……まあ、なるべく味方をサポートするような動きであれば大丈夫ですわよね、きっと。
そう思い直し、手近な帝国兵を倒していくイザベラ。
そしてそのまま、ガンガン踏み込んでいくような事はせずに、味方の討ち漏らした敵や味方を狙っている敵を着実に倒していく。
イザベラのサポートもあって、味方の数が減るような事はなく、敵の数が次々に減っていき……遂に混乱状態から立ち直る事なく、あっという間に目の前の帝国軍の補給部隊は壊滅した。ただし、あくまでも『壊滅』であって『全滅』ではない。
「思ったよりもあっさりと片付いたね。こっちの被害も皆無だし」
「ええ、そうですわね。皆が強くて助かりましたわ」
ルヴィに対して頷きながらそう返すイザベラ。
実際にはかなりの数をイザベラがひとりで倒しているのだが、その事に気づかれると面倒だと考えたイザベラは、敢えてこう言っておけば、全員が強かったから簡単に勝てたのだと思ってくれるだろう……と、判断したのだ。
「まあ……そうだね。――戦闘音が聞こえるから、他の部隊はまだ交戦中かな? 援護に行くとしようか」
ルヴィはイザベラが倒した敵兵の数が一番多いような……? と一瞬思ったが、そんな事はさすがにないだろうと考え、そんな風に返す。
「ええ、そうですわね。とはいえ、半分はここに待機して見張りをしてくださいませ」
イザベラは頷きつつもそう告げて兵士たちを見回す。
「なら、レフィアの小隊とゴードの小隊に見張りは任せようか。この2小隊は守備に優れているからね」
「……ルヴィが残った方が確実だと思うのですけれど、残る気はありませんわよね?」
ルヴィの言葉に対し、イザベラはそんな風に返す。
――ここに残ってくれれば戦死の心配もなくて安心なのですけれど、まあそうそう上手くはいきませんわよねぇ……
なんて事を思いながら。
そして案の定というべきか、ルヴィは、
「それは当然だね」
と、それだけ返してきた。
「ですわよねぇ……。まあいいですわ。それじゃ移動しますわよ」
イザベラはため息混じりにそう告げると、即座に他の部隊の援護に向かうべく移動を開始する。
……程なくして、鋼の装甲に覆われた車両とそれを利用して交戦中の帝国兵の一団が見えてきた。
レヴァルタの兵も善戦はしているが、なかなか踏み込めずにいた。
「ガトリングと障壁付きの装甲車があるとは予想外ですわ」
「そうだね。あれじゃ踏み込めないよね」
「幸い、あの障壁は一方向にしか強くない……ようですし、こちらから一斉に攻撃を仕掛ければ破壊は可能……だと思いますわ」
ルヴィに対してイザベラはそんな風に答える。
――あ、危うく断言しかけましたわ……
このタイミングであの装甲車の特性を完全に把握していたら、確実に怪しまれますわよね……
イザベラはそんな心配から推測の体で話したのだが、実のところもし仮に断言していたとしても、ルヴィや兵士たちは、イザベラならそのくらいの情報は本か何かで得ているだろうと思う程度だったりする。
それは、イザベラが良く書庫に籠もっているというのを皆が良く知っているからだ。
無論、イザベラが装甲車の特性を知っているのは、本ではなく実体験からだったりするのだが。
「なるほど。それじゃ一斉攻撃といこうか!」
ルヴィはそう言って10からカウントを開始する。
そして、ルヴィが0を告げると同時に、全員が一斉に攻撃を仕掛けた。
「なっ!? 増援だと!?」
「し、障壁が保たない!?」
「ば、バカなっ!? ぐああぁっ!?」
装甲車とその周辺に展開している帝国兵たちから、そんな声が発せられる。
イザベラたちの攻撃を受け、装甲車の障壁があっさりと砕け散ったのだ。
更にガトリングが爆発四散。それによって射手と数名の帝国兵が大ダメージを負った。
「今ですわ!」
イザベラが拡声のガジェットを用いてそう言い放つと、それまでなかなか踏み込めずにいた兵士たちが一斉に踏み込んでいく。
当然イザベラたちも踏み込み、それによってほぼ挟撃状態になった帝国兵たちが壊滅するまで、それほどの時間は要さなかった。
「――こっちも片付いたみたいだね」
「そうですわね。装甲車を中破させてしまったのは、少々もったいなかった気もしますけれど……」
「まあねぇ……。あ、でも、一応直せば使えそうな感じが……」
イザベラにそう返しつつ、装甲車の中を確認するルヴィ。
と、その直後、イザベラは視界の端で動くものを捉えた。
それは、倒れて動かなくなっていたはずの帝国兵の手だった。手が動いたのだ。
「ここで来やがるんですのねっ!」
イザベラは普段使う事のない口調で悪態をつきながら、ルヴィに向かって手を伸ばす。
刹那、凄まじい雷鳴の音が『その場に』響き渡った――
今回はあまり戦闘ばかりが長くなってもあれなので、所々カットしました。
もっとも……それでも結構長くなりましたが……
(ついでに、ちょっとすっ飛ばし気味になってしまった感じもしています……)
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、2月15日(木)の想定です!




