第5話 遺跡の更に奥にて。異形なるモノ。
――これは……っ!?
ラディウスが教えられた通路の先にあった部屋へと足を踏み入れた瞬間、様々な機器が目に飛び込んで来た。
――この時代に……いや、時を遡る前ですら、文明レベル的に存在する事自体が不自然な物がチラホラあるな……
この、人間や魔物がすっぽり入りそうな培養槽なんて、地球でも物語の中でくらいしか見た事がないぞ……
古代遺跡の幾つかで発見された事はあるが、どれも動くような物じゃなかったしな……。どこかの遺跡で見つけた物を、使えるようにしたとでも言うのか……?
並ぶ機器を見ながら、そんな事を考えつつ部屋の中を歩いていくと、
「……ァ……ッ……ゥ……」
ラディウスの耳に、微かに声らしき音が届いた。
「……ん?」
――どこかから声らしきものが聞こえてきたが……
マリスディテクターが反応しないという事は、悪意のある存在ではないようだが……
どこから聞こえてきたんだ……?
「………………」
耳を澄ませて周囲の様子を伺うラディウス。
「……ィ……ァ……ィ……」
「こっちか!」
ラディウスはそう声に出しつつ、声のした方へと向かう。
と、その先には培養槽の中で、苦しそうに藻掻く赤髪の女性がいた。
よく見ると、右腕の部分が人のものではなく、得体のしれない赤黒く、そして長い腕になっており、血管が浮き出て脈打っていた。
更に背中の部分には茶色い鳥のような翼が、片方だけ生えている。
――これは……この異形は……
ラディウスの脳裏に、時を遡る前の世界で、『グランベイルの町』が地図から消えた時の事が蘇る。
住民が異常なまでの再生力を有する異形の魔物と化し、軍の力を持ってしても手に負えなくなった為、ラディウスが作った超高火力の攻撃魔法が使えるガジェットにより、街ごと消し飛ばされた時の事が。
ラディウスは別件で離れた地に居た為、その場にはいなかったが、伝え聞いた話によると、それはもう酷い有様だったという。
――なるほど……。いや、やはりというべきか。
ヴィンスレイド伯爵が、アレの元凶――首謀者だったというわけだ。
伯爵やセシリアの行方を追いたい所だが……まずはこの女性の救出が先だな。放っておくという選択肢はないし、もしかしたら……いや、おそらく何か知っているだろうからな。
だが……この状態、どうすればいいんだ? 切り離せばいい……のか? いや、さすがにそんな簡単な話ではないよなぁ……
というか、まずはその前にこの培養槽――ガラスを砕いてしまうべきか……?
いや、でもなぁ……。こいつの役割が、この異形の腕や翼の何らかの抑制だとしたら……無闇に破砕するのはまずいし……。最良の手は……
ラディウスは、培養槽の中で藻掻き続ける女性を急いで救うための手段を求め、必死に思考を巡らせる。
――そもそも、どうやって接続されているんだ? この腕と翼……
それに、マリスディテクターに反応がないのが良く分からんな……。こんなものどう考えても、悪意の塊だろ……
いや、まてよ……? 今さっき俺は、こいつの役割が――
ふと、とある事に思い至ったラディウスは、ストレージからガントレットを取り出し、装着。
「リインフォース・改!」
ラディウスは身体能力を増強する強化魔法を発動すると、勢いよく培養槽めがけて殴りかかった。
今回は、ちょっとだけダークめな展開となりました。