第4話 遺跡の奥にて。話を聞いて走る。
「皆さんは、グランベイルの――神剣教会の方々ですか?」
牢屋の鉄格子越しに、囚われている人々に問いかけるラディウス。
「はい、それと護衛の冒険者の方々です。……貴方様は?」
位の高そうなローブを身に纏った初老の男性が、ラディウスにそう言ってくる。
「セシリア――聖女様の古い知り合いです。本日会う約束があって聖堂を訪れた所、昨日からこの遺跡に来たまま戻られていないと伺ったので、こうして来てみました」
さらりと事も無げに言うラディウスに、
「そ、そうですか……。聖女様の知己というだけあって、貴方様も素晴らしい力を持っておられるようですね……」
と、なにやら驚きと困惑が入り混じったような表情で返す男性。
ついでに、何故か少しだけ尊敬の念も混ざっている気がしないでもない。
「で、でしたら! でしたら、聖女様たちを……! 聖女様と冒険者の方をお助けください! いえむしろ! この鉄格子をぶち壊して、私自らっ!」
別の牢屋からそんなシスターの声が聞こえてくる。
ついでに鉄格子をガンガンと叩く音もする。
「ちょ、ちょっと落ち着いて! まだ何かが起きたと決まったわけじゃないんだから! そんなに強く叩いたら手が壊れちゃうって!」
慌てた別の声が聞こえてきて、鉄格子を叩く音が収まる。
――ぶち壊すって……なんか随分と荒っぽい言葉が聞こえてきたけど、それだけパニックに陥っているという事なんだろうか? ……なんかクレリテやセシリアを見た後だと、この人もこういう素なんじゃなかろうかと思えてくる。
……まあ、それはともかく助けてくれというのは聞き流すわけにはいかないな……
危機が迫っていそうな雰囲気のシスターに内心飛びついてすぐに話を聞きたい衝動に駆られるが、見た目に反して中の年齢が高いラディウスは、それを抑え込んで冷静に問う。
「それはどういう事ですか?」
「書庫に案内された折、聖女様が粗末な作りの本――いえ、資料を纏めた物を手に取られて、それについて詳しく聞きたいと仰られたのです。伯爵様はそれに対して、聖女様にのみ見せたい物があるといいやがりまして……」
シスターがラディウスにそう言葉を返す。
シスターの口調に心の中でちょっとツッコミをいれつつも、そんな事よりも情報が大事なラディウスは、何も言わずにスルーする。
「でも、さすがに一人で行かせるわけにはいかなかったからさ。ルティカ――私の相棒を護衛につけたんだ。近接戦闘は向こうの方が得意だからね。……でも、そのままどうなったのか分からなくて……。私たちと違って牢屋に押し込められていないで、普通に歓迎されている可能性もゼロではないけど……。多分――」
日本の学生服――ブレザーに似た服にマントを取り付けたような、そんな格好をした女性冒険者が、シスターに続く形でラディウスに説明する。
『多分』で言葉を切ったが、『多分ロクな事にはなっていないはず』とでも言おうとしたのだろうと推測するラディウス。
「――セシリア……様と、そのルティカという冒険者は、どこに?」
「手前の書庫にある、こちらへ続く通路とは違うもうひとつの通路の方だ」
俺の問いかけに先程の男性と同じ牢屋にいた別の――メガネをかけた男性が答えた。
なにやら古都で夜な夜な人ではなくなった獣を狩っていそうな、そんな特異な狩人めいた格好をしている。
「わかりました、ちょっと見てきます! あと、すいませんが皆さんを外にお出しするのは少し待っていただけますか? おそらくその中の方が安全ですので!」
ラディウスはそう皆にを返すや否や、踵を返して全力で走り出した――
狩人はまあ……なんというか、あれです。ゴシックホラー感のある死にゲーのあれです。