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第4話 転生者は遭遇する。大凶鳥と。

「クレリテ様、神器に選ばれなかったのをセシリア様に八つ当たりしても仕方がありませんよ」

 御者台からホッホッホという笑い声と共に、そんなマクベインの言葉が聞こえてくる。

 

 神器というのは、『神器の方に』選ばれた人間にしか身に着ける事が出来ない神聖なガジェットの事で、非常に強力だったり、特殊な性能を有する魔法が使えるようになる事が多いのが特徴だ。中には身に着けるだけでそういった魔法の効果を、常時得られるようなとんでもない代物すらあったりする。

 

 ――まあ、実際には触れた人間の遺伝子情報をスキャンして、神器……ガジェットに記録されているデータと適合する遺伝子情報を持つ者であればロックが解除される……という術式プログラムが組み込まれているだけで、いたって普通のガジェットなんだよなぁ、アレ。

 多分だけど、古代の人間がセキュリティの都合か何かでそういった仕様にしたんだろう。

 単なるセキュリティの為の機能が神聖扱いされるとは、なんとも罪作りなものだ。


 などと心の中で呟くラディウス。 

 そんな身も蓋もない神器の真実など知る由もないクレリテは、マクベインの言葉に顔を赤くして反論する。

「マ、マクベインっ!? そ、そんなんじゃないのだわっ! あの神器があれば色々と便利だと思ったのだわ! だからあの女じゃなくて、私が手にしたかったのだわっ! それだけなのだわっ! ぐぬぬぅーっ!」

 

 ――いや、便利って……。仮にも神剣教会に属する者なのに、その理由はどうなんだ……

 ラディウスが心の中で呆れた直後、御者台の方から赤い光が差し込んでくる。

 

「むむっ、なのだわ」

 赤い光に気づいたクレリテが目を細め、真剣な顔つきで言う。

 

「この光は?」

「これは探知のガジェットの光です。魔物が接近すると、このように赤く光るのですよ」

 ラディウスの問いにマクベインがそう答えてくる。 

 ラディウスが御者台の方をよく見ると、御者台の脇にあるランプが赤い光を放っているのが見えた。

 

 ――なるほど……。あれ、ランプだと思っていたけど、魔物の接近を知らせる探知魔法が常駐状態になっているガジェットだったのか。光の強さは……魔物の大きさ、あるいは距離か?

 馬車の揺れを抑える魔法や、馬の脚力を上げる魔法が常駐状態になっているガジェットもあるし、この馬車、何気にこの時代に作られた物にしては高性能だな。

 

 ラディウスが、ガジェットの放つ赤い光を見ながらそんな事を考えていると、マクベインが言葉を続けてくる。

「この光の強さからすると、結構な大型です。少々厄介ですね……」


「な、何が接近してきているのだわ……?」

 というクレリテの言葉に、ラディウスもまた何が接近してきているのか気になった。

 そして、ふと腕に巻いている腕時計――腕時計型のガジェット――に視線を落とす。

 

 ――そう言えば、探知魔法『マリスディテクター・改』を組み込んだ腕時計を作っておいたのに、すっかり使うのを忘れていたな。


 ラディウスは即座に、探知魔法『マリスディテクター・改』を発動する。

 それは、改という文字が示す通り普通の魔法ではなく、ラディウスが元の魔法から強化改良を行ったものであり、普通の探知魔法マリスディテクターよりも格段に高い性能を誇っていた。

 故に、接近してきている魔物の名前や現在地からの距離すらも分かったりする。

 

「なるほど……。たしかに南251フォーネの所に、カラミティエイビスがいるな。完全に目をつけられたみたいだ。一直線にこちらへ接近してきている」

 探知魔法で得た情報をクレリテに伝えるラディウス。

 

「あ、あの大凶鳥とか言われるカラミティエイビスがなのだわ!? そ、それは、かなりまずいのだわっ!」

「ラディウス殿も探知魔法のガジェットをお持ちなのですか? ……というより、そこまでわかるのですか?」

「ええ、持っていますよ。まあ、ちょっとばかし改良されている代物ですが……」

「改良……ですか?」

「そんな事はどうでもいいのだわ! それより、カラミティエイビスはさすがに危険すぎる魔物なのだわ! どうするのだわ!?」

 マクベインの言葉を遮るように声を上げるクレリテ。

 

 そのクレリテに対し、マクベインは一度目を閉じてから、意を決したように告げる。

「おそらく、カラミティエイビスの狙いは馬です。馬を解き放って囮にするという方法が一番ではないかと」

 

 マクベインがそう言ったのには理由がある。

 カラミティエイビスは非常に視力が優れているのだが、その分、嗅覚が弱い。

 その為、強い匂いを放つ食べ物が間近にあろうとも、無視して目で捉えた遠くの獲物を狙うなど、視覚で得た情報を最優先として動く傾向にあったりする。

 カラミティエイビスは、幌の中にいるラディウスたちの事は現時点で認識出来ていないし、接近されても匂いなどで存在を感じ取る事も出来ないため、大きな音さえ立てなければ、その手段は非常に有用だ。

 

 だが――

 

「そんなのは認めないのだわ!」

「馬を犠牲にするほどの相手ではありませんよ」

 

 ラディウスとクレリテがそんな反論をする。


「んん? どういう事なのだわ?」

 自身と違う反論の仕方に小首をかしげるクレリテ。

 その言葉に続くようにして、マクベインもまた疑問を投げかける。

「カラミティエイビスは、最低でも1小隊程度の戦力がないと倒せない相手ですが……」


「魔法を使えば大した敵ではありませんよ」

 ふたりにそう返しつつ、立て掛けてあった鞄を掴むラディウス。

 そして、鞄の中からガントレット型のガジェット――否、ラディウスが自分以外に使えないようにしてある為、最早、神器と言っても過言ではないそれを取り出し、右腕に装着する。


 そして、そのまま全速力で走る馬車から勢いよく飛び出していった――

ただのセキュリティ機能が、選ばれし者を生み出すという、なんともな話です。

さて、次回は戦闘です。といっても、多分速攻で終わりますが。

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