第7話 無窮の混沌。朧と魔軍とカチュア。
「ヴィンスレイドと繋がりが強かったのは『朧』って事?」
「ええ、そういう事ですわ。姫様を拐かし、魂魄を無窮の混沌に落とす……。それらは古の時代の技術を使ったからこそ出来たのですわ」
セシリアの問いかけに対し、イザベラが頷きながらそう応える。
「……もしかして、ヴィンスレイドの屋敷の地下――研究施設で行われていた実験というのは……」
「まさに『朧』が関わっていますわね。――そういう意味では、貴方がたは既に『朧』と接触、交戦しているとも言えますわね。特にそっちの異端審問執行官などは、『朧』と繋がりのある者を結構な数、葬っていますしね?」
イザベラはラディウスの呟きに対してそんな風に返しつつ、クレリテへと視線を向けた。
「……そう言われると、色々と納得出来る所があるのだわ」
クレリテはそう返事をしながら肩をすくめてみせる。
そして、そのクレリテに続くようにして、
「カレンフォート市でのカチュアを巡る一件も『そういう事』なのかしら?」
という問いの言葉を投げかけるルーナ。
「アレはオルディマの『影』や私の『幻』なども関わっておりますけれどね。今では魔軍事変などと呼ばれている例の件は、『朧』が主体ですけれど」
「……ところで、今の感じや今回の一件から、貴方がたは妙にカチュアに対して執着しているように感じるのですが、どうしてそこまで?」
イザベラの説明に対し、ふと疑問を抱いたリリティナが問うと、
「それは簡単な事ですわ。『ビブリオ・マギアス』の『正しい歴史』へと世界を戻すという目的を成就するのに、カチュアは『特異点』であり『大きな障害』であり、殺すだけではどうにも出来ない厄介な存在……と、そう認識されているからですわね」
なんて事をサラッと語るイザベラ。
「ど、どういう事なのです? カチュアにそこまでの影響があるとは思えないのです」
「そうですわね。ビブリオ・マギアスの『上の者』たちは、カチュアが正しい歴史へと戻す妨害工作をしていると考えているようですけれど、実際に接触してみてそれはないと思いましたわ」
メルメメルアのもっともな疑問に対し、イザベラがそう答える。
「ですです! 私は妨害工作なんてしていませんです! というより、どうやってすればいいのかすら分かりませんです……っ!」
驚きの表情で言葉を発したカチュアに、イザベラは「そうですわね」と返しつつ、頷いてみせる。
そして、頬を人差し指で軽く叩きながら、
「……ただ、無意識の内に、あるいは単にその場に存在するだけで因果律を歪めて、結果的にビブリオ・マギアスにとって都合の悪い状況を作り出してしまっている可能性はありますわ」
と、そんな風に告げた。
「もしそうだとしたら、それはもうどうにもならないのです……」
メルメメルアがそう口にして首を横に振ると、セシリアが顎に手を当てながら頷き、言葉を紡ぐ。
「うん。というか……もし違っていたとしても、もう無理じゃない? ビブリオ・マギアスが存在する限り付け狙われ続ける感じだと思うよ、これ……」
「それはもう当然の話ですわね。疑わしきものはすべからく排除せよ、という奴ですわ。私がカチュアは無関係だと『上の者』に伝えようにも、『それを証明する方法がない』以上、どうにも出来ませんわ」
セシリアの発言に、イザベラはやれやれと言わんばかりの表情と口調でそう返すと、クレリテもそれに同意するように、
「だわだわ。奴らが奴らの目的の障害になると、そう定めた時点で詰んでるのだわ……」
と、首を横に振りながら言った。
「で、す、の、で、これからは幾度となく、様々な手で『仕掛けて』来ますわよ。――カチュアを今度こそ完全に無窮の混沌、あるいはそれに類する異空間へと落とし、二度とこの世界に戻れない状態にするその時まで」
肩をすくめながらカチュアを見て告げるイザベラに、
「ひぃっ!」
という短い悲鳴を上げるカチュアと、
「カチュアを怖がらせないで欲しいものだわ。……でも、アルたちとも話をして、護りを固める必要がありそうなのだわ……」
と、腕を組みながらため息混じりに言うクレリテ。
「護りを固めるのは愚策ですわね。それは、ビブリオ・マギアス――魔軍に『潜り込む余地』を与えてしまうだけですもの」
呆れ気味に告げるイザベラに、その発言の意味と理由を理解したクレリテは、
「うぐっ。い、言われてみると……たしかにその通りなのだわ……。一体どうするのが一番いいのだわ……?」
なんて事を口にして、「ぐむむ……」と唸り始める。
するとその直後、
「――そこで、私の出番というものですわ」
「だから、お前と手を組めばいい……と?」
イザベラとラディウスの発言が重なった。
まあ、ここまでべらべら喋っている時点で……って感じの話ではありますよね(何)
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、12月3日(日)を想定しています!
 




