第6話 無窮の混沌。影と幻と朧。
黒い手をどうにか防ぎきり、光球が無窮の混沌を脱する。
しかし、黒い手も未だ諦めず、光球を狙って無窮の混沌から這い出そうとしてくる。
「無窮の混沌との接続を遮断する! その鎖を引き戻すか捨てるかしてくれ!」
「ええ、了解ですわ」
イザベラはラディウスに対してそう返すと同時に赤黒い鎖を自身のもとへと引き戻す。
それを確認したラディウスはアストラル・アンカーを消し去り、即座に『穴』を穿ったガジェットを操作。
と、その直後、開かれていた穴が閉じ始めていく。
黒い手がその閉じつつある穴から出ようと殺到するが、全てルーナたちの魔法によって消し飛ばされていった。
「突破なんてさせないのだわ!」
クレリテがそんな風に言って黒い手を吹き飛ばすのとほぼ同時に、イザベラが警告を発する。
「デカいのが来ますわよ!」
アストラル・アンカーと赤黒い鎖の拘束が無くなった大きな黒い手が、他の黒い手を押しのけるようにして迫る。
しかし、穴は既にその手が外へ出られるような大きさではない。
更に言えば――
「――アストラルインテグレーション!」
メルメメルアが声を大にして、そう言い放っていた。
イザベラはカチュアの魂魄が融合し、元の姿へと戻っていくのを見ながら、
「どうやら、もう問題なさそうですわね」
と言いつつ、大きな黒い手に魔法弾を叩き込む。
その衝撃によって大きな黒い手が仰け反り、それとほぼ同時に穴も完全に塞がった。
「――ラディ、空間が安定したわ」
ガジェットの術式を確認しつつそう告げてきたルーナに、
「そうか。これで無窮の混沌との接続は完全に途切れたな」
と、そう返して安堵するラディウス。
「あ、あの……。みなさん……助けていただいてありがとうございますです!」
カチュアのそんな声が響く。
ラディウスたちが声の方へと顔を向けると、しっかり服を着た状態のカチュアがそこに居た。
「どうやら上手く行ったようですわね」
カチュアがそう口にしたイザベラの方を向き、
「イザベラさん、ありがとうございますです。イザベラさんが来てくれなかったら、永遠に閉じ込められる所でしたです……」
と告げると、
「私がグランベイルの聖堂を見張っておいて正解でしたわね」
なんて事をサラッと言ってくるイザベラ。
「グランベイルの聖堂を……見張っていた?」
「魔軍――オルディマ一派が、聖堂……というか、ゲートについて執拗に調査していたのですわ。どうやら、独自の情報網で、貴方たちが無窮の混沌に落としたカチュアを引き上げようとしている事を察知していたようですわね」
首を傾げて問うルーナに、イザベラがそう返事をする。
そして、それを聞いたラディウスが、顎に手を当てながら、
「独自の……。つまり、こちら側で俺たちを見張っていた奴ら……か」
と、呟くように言った。
「でも、撹乱していたはずだよね?」
「ああ。……上手く行っていなかった……のか?」
セシリアの問いかけに対して、ラディウスがそう返すと、
「……? 撹乱? どういう事ですの?」
と、今度はイザベラが首を傾げてみせた。
――まあ、カチュアの事を助けて貰った礼というわけではないが、ここで話さないってのは、誠実ではないよなぁ……
ラディウスはそんな風に考え、イザベラに対して説明する決心を固めた。
「実はだな――」
……
…………
………………
「――というわけなんだよ」
「……なるほど。少なくとも『幻』がやっているわけではないですわね。『影』が独自に生み出した何かを利用しているのか……あるいは『朧』の可能性もありますわね」
ラディウスの説明を聞いたイザベラが顎に手を当てながらそんな風に言う。
それに対し、メルメメルアが首を傾げた。
「『朧』とは何なのです?」
「……ビブリオ・マギアスには3つの『軍』が存在していますわ。武力行使を主とする『影』、秘密裏に工作を行う『幻』、そして……古の時代の技術や知識を活用して動く『朧』ですわね」
「なるほど……魔軍ってのは、そういう感じで分かれていたのか」
イザベラの説明に、ラディウスが腕を組みながらそう返す。
するとイザベラはそれに対して、
「表立って動くような事はほぼないですけれどね」
と言うと、そこで一度言葉を切ってリリティナの方へと顔を向ける。
そして、
「――姫様を拐かした一件では珍しく表立って動いていましたけれど」
なんて事を口にしたのだった。
唐突に登場した感のある『朧』ですが、実は過去に交戦していたりします。
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、11月30日(水)を予定しています!
 




