第5話 無窮の混沌。赤黒い鎖。
赤黒い鎖を無窮の混沌へと放った人物――それはイザベラだった。
「イ、イザベラ!?」
「その通りですわ。それより、まだ『片付いて』いませんわよ? 最後まで気を抜かないようになさいな」
驚きの声を発したセシリアに対し、イザベラが呆れ気味の声で返事をする。
「――光球の誘導を復活させた! メル、そのまま維持してくれ!」
「りょ、了解なのです!」
メルメメルアの返事を聞くと同時に、ラディウスは銃型ガジェットで魔法弾を連射し、迫るやや小さめの黒い手を吹き飛した。
「大きい奴はイザベラが抑え込んでいるとはいえ、他の小さいのとかはまだ健在だ。こいつらを近づけないようにするぞ」
ラディウスは唐突に現れたイザベラに対して色々と聞きたい事があったが、まずはカチュアの魂魄を引き上げるのが最優先だと判断し、敢えて普段通りの雰囲気と口調でそう告げる。
「今度こそ近づけさせないのだわ!」
「ええ。大きいのさえ動かなければ、どうにか出来るわね」
クレリテとルーナがそんな風に言いながら黒い手を光球に近づけぬよう魔法を放っていく。
「……期待して貰っている所、悪いのですけれど……あまり長くは抑え込めそうにありませんわね。思った以上に力が強い――いえ、力が増幅されているようですわ」
「ならば、こいつも!」
イザベラの言葉を聞いたラディウスが、アストラルアンカー・改を放つ。
「なんだか懐かしい魔法が出てきたのだわ。ラディと出会った時の奴なのだわ」
アストラルアンカー・改を見ながらそんな風に言うクレリテ。
「そうだな。まあ、あの時よりも更に強化されているけど……なっ!」
ラディウスがそう返すと同時に、アストラル・アンカーが9つに分裂。
それが一斉に大きな黒い手へと巻き付いていく。
「あの時のように突き刺して引き摺り落とす以外にも、こういう使い方が出来るんだ」
「……巻き付くのはともかく、9つに分裂するのは意味不明なのだわ……」
ラディウスの発言に対し、クレリテがやれやれと言わんばかりの表情でそんな事を呟く。
そして、それに続くかのように、アストラル・アンカーによる拘束を眺めつつ、
「ドライブをスキップした上で更に分裂……。さすがですわね」
と、イザベラ。
「ドライブ?」
「ドライブワード――まあ、呪文の事だな」
首を傾げるセシリアにそう答えるラディウス。
そこにクレリテが、
「そうそう。最初に出会った時も、ラディは呪文の事をそう呼んでいたのだわ」
と、そんな風に言うと、イザベラが興味深そうな顔で、
「この言い回しが通じるというのは、なかなか興味深いですわねぇ。っとと、危うく解かれる所でしたわ」
などと返しつつ、赤黒い鎖を強く握り直した。
――この時代にはまだ使われていなかった言葉を使ってきた……か。
イザベラは未来から来たわけじゃないような感じの話をしていたが、まあ……そこも真実か否か定かではないしな。
「ま、細かい話はカチュアを引っ張り上げてからにするぞ」
「そうですわね。最後まで気を抜かないように告げた私が、気を抜いて破られるような真似をしては、さすがに間抜けすぎるというもの――」
ラディウスの発言にイザベラはそう答えると、赤黒い鎖を更に伸ばし、アストラル・アンカーの上に重ねる。
そして、
「――さあ、これで更に頑丈になるはずですわ」
と、そんな風に言った。
ラディウスはその鎖を見ながら思う。
――まるでこちらの事も逃さないと言わんばかりにも感じるな。
無論、そんな意図は無いと思うが……
いや、うん、無い……よな?
と。
ラディウスが今の時代に合わせて『ドライブワード』という言い回しをほとんど使っていない事もあって、結構忘れ去られた用語になってしまっていたのですが、ここにきて思いっきり登場です。
なんというか……正直、最序盤に伏線を張り過ぎた気が今ではしています……。もう少し後でも良かったな……と。
とまあ、そんなこんなでまた次回! 次の更新も予定通りとなりまして、11月26日(日)を想定しています!




